藤井聡太叡王に伊藤匠七段が挑戦する第9期叡王戦五番勝負(主催:株式会社不二家)は、第2局が4月20日(土)に石川県加賀市の「アパリゾート佳水郷」で行われました。対局の結果、角換わりの力戦を乗り切った伊藤七段が87手で勝利。藤井叡王の変化球にうまく対応して、待望のシリーズ初勝利を挙げました。

新時代の角換わり

開幕戦は王道の角換わり腰掛け銀から終盤の競り合いで勝利した藤井叡王、後手番で迎えた本局では意表の作戦を披露します。△3三金型の角換わり早繰り銀に組んだのは公式戦自身初となる指し回し。最新の研究勝負を避けつつ先攻を目指す狙いが見て取れます。

伊藤七段もさほど時間を使わず冷静に対応します。右桂の活用を急いだのは終盤の反撃を用意して損のない一手ですが、居玉のまま右辺の駒組みに手をかけた工夫ともいえる指し回し。大駒飛び交う乱打戦を見越して自陣一段目を安全とするのが新時代の感覚です。

居玉を生かして伊藤七段リード

首尾よく銀交換を果たした後手の藤井叡王ですが、感想戦ではこのやり取りの周辺ですでに事前想定を外れていたことを明かしました。対する伊藤七段は手順に引き成った馬の守備力で徹底抗戦。跳ね出した右桂を3三金との交換に持ち込み、満を持して反撃開始です。

黙っていてはジリ貧と、藤井叡王は最後の勝負手を繰り出します。強引な駒交換で先手玉を見える形にしたのは実戦的な勝負手ながら駒を多く渡すだけにリスクの高い手。対する伊藤七段は秒読みのなかで正確な指し手で応え続けます。寄せの手順中、冷静な馬引きで桂を抜いたのが攻防の決め手でした。

伊藤七段が快勝でタイに

藤井叡王の形作りは先手玉を部分的に受けなしにするものですが、伊藤七段は最後まで冷静でした。終局時刻は18時20分、最後は自玉の詰みを認めた藤井叡王が投了。後手としては即詰みの順を避けても先手から王手飛車取りの用意があり、見込みのない局面でした。

これでシリーズ成績は両者1勝1敗に。対藤井叡王戦13戦目(持将棋含む)にして初勝利を挙げた伊藤七段は「勝てていなかったのでひとつ結果が出てよかった」と喜びを語りました。藤井叡王の先手番で迎える第3局は5月2日(木)に愛知県名古屋市「名古屋東急ホテル」で行われます。

水留啓(将棋情報局)

  • 伊藤七段は藤井叡王のタイトル戦連勝記録を16で止めた

    伊藤七段は藤井叡王のタイトル戦連勝記録を16で止めた(提供:日本将棋連盟)