暮らしとともにある木について、さまざまな角度から学ぶイベント「木と生きる」が東京ミッドタウン日比谷にて開催された。このイベントは株式会社ディスカバー・ジャパンと三井不動産株式会社が主催し、18の団体が共同参加。木や森の持続的な共存と未来を考えるシンポジウムやパネルエキシビジョン、ワークショップなどが4月16日から21日まで6日間にわたって行われた。
日比谷から、木の魅力や可能性を発信
三井不動産では、歴史と文化を受け継ぎながら新たに価値を想像していく「経年優化」の街づくりを目指している。ディスカバー・ジャパンは、日本の魅力を再発見し、日本文化が未来へ継続していくきっかけづくりを目指しており、この両社の理念が合致。日本の大切な財産のひとつである木や自然を題材としたイベントを開催することになった。
三井不動産の日比谷街づくり推進部事業グループの李根株主事は、企画の経緯について「三井不動産では、コーポレートメッセージを『さあ、街から未来を変えよう』と新しくしましたが、日比谷という街は人通りが多く、BtoC向けにもBtoB向けにも発信力のある場所。街づくりと社会課題は大きく関係していますので、ともに考えていきたい課題を日比谷から発信していくイベントを企画しました」と話す。
東京ミッドタウン日比谷1階のアトリウムでは、イベントを象徴する空間として木彫作品のインスタレーションで木と人の関わり方を表現した。
空間プロデュースを手がけたのは乃村工藝社。同社クリエイティブ本部の井上裕史氏は「最初にこのイベントと出合うとても大切な場所。まず木の雰囲気を五感で感じられるような仕掛けをしています。彫刻が主役ですが、森の中を歩いているような空気感を作れないかと考えました」と話す。ウッドチップを踏む音、立ち込める木の香りなど、感性を刺激する空間を作りあげた。
地下1階の日比谷アーケードには、イベントの共同参加団体による木や森、都市に関する先進的な取り組みなどを大型パネルで展示。展示ブースの全体構成は都市をイメージし、路地や広場を点在させ、日比谷側は森など自然に近い要素を配置し、有楽町側に進むほど都市に近い要素を配置。また、展示ブースも木材を組んで作られており、穴などをあけずに組み立てることができるものとなっていた。
パネルエキシビジョンなどを担当した日建設計のダイレクター、大庭拓也氏は「森や街、都市に関する各社最先端の情報が凝縮されているので、ゆっくり歩いたり、時に座ったりして、滞在型の展示となるようにしました。ファミリーの皆さまからこの地域のワーカーの方々まで、幅広く楽しんでいただけるのではないかと思っています」と、じっくりと滞在して学べる場となっていると強調していた。
「森と街は遠い存在ではない」建築から見出す新たな価値観
オープニングでは、一般来場者を招いたトークイベントも開催。最初に登壇したのは、イベント主催のひとつでもあるディスカバー・ジャパンの髙橋俊宏統括編集長。
ディスカバー・ジャパンは16年前に、お酒やお茶などさまざまなトピックを取り上げ、日本の魅力を再発見する月刊誌としてスタート。その後、WebサイトやSNS、ECサイトなども展開し、日本の伝統文化を継承し、持続可能かつ発展していくきっかけづくりとなるような取り組みを行っている。
昨年8月に「木と生きる」という特集を行ったところ非常に反響が大きかったそうで、髙橋編集長は「日本の国土は7割が森林。SDGsやカーボンニュートラルなど、さまざまな課題や取り組みがありますが、”木”というところにヒントがあるんじゃないかと関心を持ってらっしゃる方が多かったんです」と、さまざまな社会課題の解決のヒントが身近なところにあるのではないかと話した。
続いて登壇したのは、建築家の藤本壮介氏。藤本氏はこれまで日本建築大賞やヴェネチア・ビエンナーレ第13回国際建築展金獅子賞など、数多くの賞を受賞し、さまざまな大規模建築インスタレーション、パビリオンなどを手掛け、世界的に活躍。現在は大阪・関西万博の会場デザインプロデューサーなどを務めている。
本イベントの「木と生きる」というテーマには、藤本氏も大きく共感しているという。出身が自然豊かな北海道・旭川ということもあって、小さい頃から木や森は身近なものだった。しかしながら、進学で上京してみると、商店街などのごちゃごちゃとした都会的な場所も、意外と居心地がいいことに気付いたという。
「人工物の中にいるんだけれども、雑木林にいるような感覚がある。つまり、遠い存在ではないと思うんです。自然と人工物をどう融合させるか、あるいは対比させて新しい価値を生み出すかというのは、自分にとって建築の大きなテーマになっています」と、自身の建築に対する想いを言葉にした。
そして、進行中のものも含め4つのプロジェクトを紹介。福岡・大宰府天満宮では、大改修中の御本殿の前に建設する仮殿をデザイン。仮殿の屋根の上に木を植え、まるで森が浮かんでいるかのようなデザインとなっている。
また、福岡・明治公園でも整備と管理運営事業を手掛けており、5つの広場と立体回廊を整備中。オフィスワーカーの憩いの場でありながらも、九州の玄関口である博多駅前に相応しい風格ある公園に生まれ変わらせる。
岐阜・飛騨高山大学(仮称)のデザインでは、建築物でもあるし、都市の広場でもあるし、大きな公園のような場所でもあるという、すり鉢状の屋根は飛騨のアイデンティティである盆地からインスピレーションを受けており、多様な活動が集約されるような場所となるように工夫したという。
最後に紹介されたのは大阪・関西万博の会場。世界中からここに人が集まり、未来について一緒に考える希望を受け取ってほしいという願いから、丸というシンプルな形を採用。人の動線としてサークル状の形が機能的であるという側面もあるが、万博の意義に則したデザインとしても丸を選んだという。そして真ん中に作った森は自然との共生を表し、今回のイベントとも共鳴するもの。藤本氏は、この巨大建築物を木造で作っていく。
「今、世界中で木造建築がすごい勢いで推進されている。理由は簡単で、木は持続可能な素材だからです。多くの木材を使うことは、森林伐採で環境に悪いように感じるかもしれませんが、実はその逆。成長した木よりも、植林した新しい気の方が二酸化炭素を良く吸うので、管理された木材はむしろ環境にいいんです。常に森林が新しく更新されて循環していく、循環社会のモデルになるのが、この大規模な木造建築だと考えています」と、藤本氏は木造建築の可能性について語っていた。