大分県と熊本県を結ぶ九州横断道路「やまなみハイウェイ」を走りながら、エイドステーションを巡るサイクリングイベント「やまなみハイウェイ SPARIDE 2024」が、3月20日に開催された。
大分市に拠点を置き、九州を代表するプロサイクリングチームとして活動を行う「Sparkle Oita Racing Team(スパークルおおいた)」を運営する3SEEDSが主催する本イベントは、竹田市直入公民館をスタート地点に、「ぐるっとくじゅうコース」を基本とした70kmのコースを巡る。
春も間近となる春分の日。しかし、当日は強風とまさかの降雪という悪コンディションとなったが、竹田市長の土居昌弘氏の号砲でおよそ100名の参加者が元気にスタート。コース上に設けられた、大分市、竹田市、豊後大野市、由布市、九重町の各エイドステーションでおもてなしを受けながら、サイクリングを楽しんだ。
■「スパークルおおいた」とNTT西日本 大分支店の連携協定が目指すところ
「やまなみハイウェイ SPARIDE 2024」では、「スパークルおおいた」と連携協定を結ぶNTT西日本 大分支店の協力により、NTTスマートコネクト開発の位置情報アプリ「いまどこ+」を活用。サイクリングコースはもちろん、エイドステーションの場所や、 参加者同士の位置情報に加え、同行する選手やサポートカーの現在位置情報の共有などが行われた。
「地域間の連携事業として、サイクリングで地域の魅力を再発見すること」を目的としてイベントを立ち上げたと話す、「スパークルおおいた」監督兼GMの黒枝美樹氏。新型コロナの感染拡大によって、暗いニュースが多い中、野外で活動できるイベントで地域の元気を届けたい、そして、広域連携で各自治体が取り組む仕組みをつくりたいとの想いが、イベントの開催に繋がったと振り返る。
かつて大分市役所の職員として、自転車関連の政策に20年ほど携わっていた黒枝氏。当時問題となっていた放置自転車対策からはじまり、自転車を活用した地域振興や観光振興を手掛ける中、もう一段階上の文化醸成を目指して「スパークルおおいた」を立ち上げ、プロスポーツとして、大分から世界を目指す活動を行っている。
イベントを運営するにあたり、「サイクリング大会はすごくパワーが必要なのですが、今の時代はマンパワーをかけるのがすごく難しい」という黒枝氏。なるべく少ない人員で、持続可能な取り組みを行う必要性を試行錯誤する中、「NTT西日本さんにご協力いただいて、ICTのアプリを活用することによって、少ないスタッフでも安心、安全に楽しめるサイクリング大会に近づけているのではないか」との見解を示した。
実際、当日の運営スタッフは10名程度。エイドステーションも、各自治体によるおもてなしという形で運営されている。「参加者ひとりひとりが交通ルールを守りながら、地域を楽しむ」。そんな理想形に近づけるように、試行錯誤を重ねてきたと、これまでのイベントを振り返る。
今回の「やまなみハイウェイ SPARIDE」は、竹田市の直入公民館からのスタートとなったが、昨年度はスタート地点が5つに分かれていた。「コロナもあって、各スタート地点をZOOMで繋いで、一斉にスタートするという形でやってみたんですよ」と話す黒枝氏。
スタート地点を複数用意することで、参加者も散らばり、混雑なく楽しめるのではないかという想定で行われたが、「みんなで一緒にスタートしたい」というイベント後の意見を聞き、「“みんなで走る”というのもサイクリング大会の醍醐味ではないかと思い、今回はスタート地点をひとつにしました。来年からはスタート地点を自治体が持ち回るような形にして、参加者と自治体と主催者が一体になって大会を作り上げていく取り組みにしていきたい」との展望を明かした。
一方、「地域密着の視点から、大分を自転車で盛り上げたい」と話すのは、NTT西日本 大分支店長の三笘博幸氏。以前より、「OITAサイクルフェス!!!」に協賛するなど、サイクルツーリズムを通して、大分を盛り上げる活動を続けてきた。
「最初は、弊社の副支店長(小野雄彦氏)の自転車好きが高じて、スパークルおおいたさんとの連携が始まった」という三笘氏。「やまなみハイウェイ SPARIDE」も、初回は小野氏の個人的な参加にとどまったが、その後、黒枝氏との話し合いの中、「何か一緒にできることがあるのではないか」との考えに至ったと振り返る。
「スパークルおおいた」とNTT西日本 大分支店の連携協定は、「一緒に盛り上げる」という考えが非常に大きくなっているのが特徴。ICTを活用したサイクルツーリズムの推進からICTを活用したサイクルイベントの実施、展開など幅広い取り組みが行われる。
「企業がチームをスポンサードするというと、どうしても一方的なものになりがちです。しかし、連携協定という形で、互いの強みを出していければ、もう少しサステナブルに、相乗効果が生まれるのではないか」と、その意義を語る。
「企業の立場で言えば、プレゼンスがさらに高まる点が大きい」という三笘氏。「スパークルおおいたさんは、大分だけでなく、日本全国、さらには台湾や世界にまで足を伸ばしているので、そこと一緒にやっているというのは非常に意味があることだと思っています。自転車ということで、健康経営もそのひとつですし、カーボンニュートラルなど、SDGsの話にまで繋げていければ、さらに理解も深まっていくと思います」と、さらにその先を見据える。
一方、「お互いの強みを活かして、地域を盛り上げるという根幹は同じ」と話す黒枝氏。実際、「スパークルおおいた」は、これまでに大分市、佐伯市、豊後大野市と連携協定を結び、地域貢献、地域活性化に取り組んでいる。地域のスマート化などに取り組むNTT西日本にとっても、「地域の社会貢献活動に我々を使ってもらえれば、さらに良い取り組みができるのではないか」と、互いに大きなメリットがあると言及する。
「スパークルおおいた」とNTT西日本 大分支店の連携協定では、「新技術・新サービスを活用したサイクル関連の新たなビジネス創出」も取り組むべき課題のひとつ。今回のイベントでも活用されている位置情報共有サービス「いまどこ+」について、高い満足度を示しつつ、決してサイクリングに特化したアプリではないため、「まだまだ進化できる」と、さらなる改善点を提案しているという黒枝氏。「我々も、教えてもらうことが多く、さらに良いアプリに変えていける」と、三笘氏も手応えを感じている様子だった。
また、「耳を塞がないオープンイヤー型イヤホン」の利用についても言及。「オープンイヤー型であれば、例えば好きな音楽を聴きながらでも、車両音や周囲の外音が確認できるので、安全にサイクリングを楽しむことができる」と話す三笘氏。
「警察庁からの通達でも、オープンイヤー型であれば、自転車の安全な運転に支障を及ぼすとは限らないと謳われています。こういった安全なデバイスを着用していただき、イベント中に観光案内を受けたり、仲間同士の新たなコミュニケーションの手段として利用できれば、サイクリングの新たな楽しみ方を創出できるのではないか」と期待を寄せる。
「我々は大分支店として地域に密着した活動を行っていますが、この大分から日本へ、日本から世界へというきっかけをスパークルおおいたさんが作ってくれています。地域が元気になれば日本も元気に、日本が元気になれば世界も元気に。そういったところまで、サイクルツーリズムを通して、スパークルおおいたさんと一緒に貢献できたら」との展望を明かす三笘氏。
一方、黒枝氏は「強さの日本一というだけでなく、応援される、愛されるという面でも日本一になりたい」と力強く宣言する。「強くなれば、子どもたちに夢を与えることができますし、地域を活性化できれば、シビックプライド、地域に誇りを持てるようになると思います。自転車熱の高い九州ですが、地域に誇りを持てる活動をしていけば、まだまだ活性化できると思っています。自転車を通して、大分、そして九州を盛り上げることに寄与できるチームでありたいですね」と、スパークルおおいたの今後の活動目標に強い意気込みを示した。