横綱は特出した実力を持ち、その周囲には多くの付け人が集まっている。そういった意味では、バン・B(Bun B)はまさにヒップホップ界の横綱を名乗るに相応しい人物だ。テキサスを拠点に1980年代から活動する南部ヒップホップのパイオニアの一人であるバン・Bは、その説得力溢れる低音のスキルフルなラップで常に第一線で活躍し、多くの後進のラッパーに慕われてキャリアを歩んできた。
バン・Bはピンプ・CとのラップデュオのUGKでシーンに登場した。生演奏を巧みに取り入れたソウルフルなスタイルで知られる二人は1990年代にはデュオで『Super Tight』や『Ridin Dirty』などの名盤を数多く生み出し、1999年にはジェイ・Zのシングル「Big Pimpin」に客演。メインストリームのキングであるジェイ・Zを空いてに一歩も譲らない強力なラップを披露し、文字通りのアンダーグラウンド・キングぶりを提示した。そして2000年にはスリー・6・マフィアのヒット曲「Sippin On Some Syrup」にも参加。2002年にピンプ・Cが逮捕されてデュオとしての活動は一時休止したものの、バン・Bはその間に膨大な客演を行いシーンでの勢いはむしろ増していった。2005年のピンプ・C出所の頃にはデュオの存在感はかなり大きなものとなっており、2007年にリリースしたアルバム『Underground Kingz』は内容の充実と商業的成功を両立した名盤となった。しかし、同年にピンプ・Cが惜しくも死去。ヒップホップシーンは悲しみに包まれ、バン・Bは再びソロ活動を余儀なくされた。
この後のバン・Bのソロキャリアは、大きなヒットを目指すのではなく変わらず自身の道を真っすぐに歩むようなものだった。リル・ウェインやドレイク、エイサップ・ロッキーのようなスーパースターの作品に呼ばれながら、である。自身の作品にはスーパースターではない若手ラッパーの参加も目立ち、豪華さよりも地に足の着いた印象を抱かせるような活動を行ってきた。まさにUGKの曲中でよく登場するフレーズ「UGK 4 Life」通りの、アンダーグラウンド・キングであり続けたのだ。
そんなバン・Bが今回、全曲を日本のプロデューサーとのコラボで制作したアルバム『Yokozuna Trill』を完成させた。そして、それにあわせて国内4か所を回るツアーを4月下旬に行う。そこでツアー直前にメールインタビューを行い、キャリア初期の様子や今年でリリース30周年を迎える名盤『Super Tight』のエピソード、近年の活動などを語ってもらった。
―ラップを始めたばかりの頃はどんな音楽を聴いていて、そこからどのような影響を受けましたか?
バン・B:沢山のソウルやブルース、初期のラップだね。ラン・DMC、フーディーニ、エリック・B&ラキムとかを聴いてきて、そういったグループから受けた影響があって音楽に対して俺も「そうなりたい」って本気になっていったね。
―Netflixの『ヒップホップ・レボリューション』で、UGKのサウンドはミーターズを参考にしたというエピソードがありました。ミーターズのどういった部分を研究し、二人のサウンドにどのように落とし込んでいったのでしょうか?
バン・B:俺はUGKのサウンドプロデュースはしていなかったから、特に音楽の勉強はしていなかったんだ。でも、ピンプ・Cはよく勉強していたと思う。俺たちはクラシック・ソウルをよく聴いていて、ミーターズとも仕事をしたけど、沢山の色々な音楽から影響を受けてきたね。でもミーターズも間違いなく影響を受けた。
UGK 左からピンプ・C、バン・B 2001年撮影(Photo by Pam Francis/Getty Images)
―活動し始めたばかりの頃、交流のあったラッパーや刺激を受けていたラッパーについて教えてください。
バン・B:活動し始めた頃は15歳だったから、特にみんなが知っているようなラッパーは周りにいなかったんだ。みんなが知っているとしたら、DJ・スクリューやDJ・DMDがいたね。ハイスクールに行っていた頃だから、周りには俺とピンプ・Cと数人のラッパーしかいなかったよ。
―今年はUGKの『Super Tight』がリリースされて30周年の節目になります。あのアルバムはどのような作品を目指したものだったのでしょうか?
バン・B:『Super Tight』は、一枚じゃなくて二枚組の予定だったんだ。一枚は、ピンプ・C、もう一枚は俺がやる予定だった。でも、レーベルがスカーフェイスやマックの映画から使用したサンプリングライセンスを取らなかったから、そういった曲を抜いたリリースすることになった。本当は二枚組で出したかった作品なんだ。
―『Super Tight』にはミーターズのレオ・ノツェンテリも参加していますが、彼から学んだことは何かありますか?
バン・B:曲を作る時に焦っちゃいけない事かな。グルーヴと自分の感覚がマッチする瞬間は無理矢理作れないんだ。
―今振り返ってみると、『Super Tight』はあなたにとってどのような作品ですか?
バン・B:「レコード会社はいつでも自分のやりたいことだけをできるものではない」ということを学んだターニングポイントだったね。
―UGKにとって重要な曲を5曲ほど教えてください。
バン・B:「Pocket Full Of Stones」、「Tell Me Something Good」、「Murder」、「Big Pimpin」、「Intl Players Anthem (I Choose You)」かな。
「Pocket Full of Stones」は最初のシングルで、「Tell Me Something Good」はピンプ・Cとのグループとしてレコーディングした最初の曲。「Big Pimpin」はワールドワイドにヒットした最初の曲。「Intl Players Anthem (I Choose You)」は初めてビルボードチャートに入った曲だからだね。
―ある世代のリスナーにとっては、あなたといえば2000年代での凄まじい客演の数という人も多いと思います。膨大な客演曲の中で特に印象に残っている曲と、そのエピソードを教えてください。
バン・B:全ての曲が思い出深いし楽しかったから、なかなか選べないね。「Big Pimpin」や「Sippin On Some Syrup」とか、過去のレベルを超すことに成功した曲はもちろん思い出深いけど、全ての曲の制作は本当に楽しかったんだ。
―あなたはこれまでにジェイ・Zやビヨンセ、リル・ウェインやドレイクなど大きなセールスを持つアーティストの作品にも多く客演で参加してきました。彼らのようなアーティストと交流する中で、受けた刺激は何かありますか?
バン・B:リル・ウェインとドレイクは初めて会った時はまだ若かったけど、俺はもうバン・Bとして確立されていたんだよね。ジェイ・Zやビヨンセとも会った時には既に確立されていたけど、ビヨンセからは間違いなく色々な刺激を貰ったよ。
楽しく音楽を作ること、コラボレーションの魅力
―近年のあなたは、スタティック・セレクターとの『Trillstatik』シリーズやコーリー・モー(Cory Mo)と『Mo Trill』、レス(Le$)との『Distant』と、誰かとのコラボ作品を中心にリリースしている印象があります。ソロ作ではなく、コラボ作を多く作る理由は何かあるのでしょうか?
バン・B:コラボというか、昔はラッパーの作品は一人のプロデューサーとやることが多かったから、そういうやり方をやっているだけだよ。俺はプロデューサーではないから、どこかでビートを手に入れなくてはならない。スタティックもコーリーも、レスもプロデューサーだからね。そういう意味では全てがコラボなのかな。
―スタティック・セレクターとは三枚作っていますが、特別な相性の良さを感じたのでしょうか?
バン・B:スタティックとはめちゃくちゃ相性がいいね。ピンプ・Cを除くと、彼は最もレコーディングしてきた一人だ。友達だからね。お金の為とかではなく、カルチャーを盛り上げて貫くためにやっているし、やっていて楽しいんだ。
―コーリー・モーともかなり長く一緒に制作していますが、2022年作『Mo Trill』までコラボアルバムはなかったですよね。あのタイミングであのアルバムを制作したきっかけは何かあったのでしょうか?
バン・B:俺たちは沢山の曲を作っていたから、コーリー・モーがすごくリリースしたがっていたんだよね。すごく。だから楽しくやるために一旦リリースすることになったんだ。
―あなたはかなり多くの客演を迎えてアルバムを作る印象があります。こういった作りをする理由はなんなのでしょうか?
バン・B:もちろん一人でも作れるけど、楽しく作りたいからね。楽しく作って、新たな世代、地域のファンベースに聴いてもらえるチャンスがあるって最高なことだと思っているよ。
―スタティック・セレクターやコーリー・モーのようなプロデューサーとのアルバム制作において、あなたがビートのディレクションをすることはありますか? プロデューサーから送られてきたビートにラップを乗せていくような形でしょうか?
バン・B:ディレクションをすることはないけど、ただ提出されたビートにラップするわけでもないな。何曲も聴いて、自分にフィールするものを選ぶ感じだね。「ビートをこういう風に作ってくれ」とも言わない。プロデューサーの感覚を重視して生まれたビートが良いからね。自分と合わなそうなビートは次に聴く人に譲っているよ。
―あなたの作品には若手ラッパーもたびたび参加していますが、今気になっているラッパーは誰かいますか?
バン・B:今は沢山の若手と制作しているけど、興味があるのは全く違う人たちとパートナーを組んでの制作かな。『Yokozuna Trill』もそうだし。アフロビーツにも興味があるね。EDMのアーティストでもアフロジャックやデッドマウス、ディプロとか友達が沢山いるから何かできたら面白いと思っているよ。だから興味があるのは若手のラッパーだけではなくて、素晴らしい色々なジャンルのプロデューサーだね。
―例えばヤングボーイ・ネヴァー・ブロークアゲインなどの作品を聴いていると、オルガンを使ったソウルフルなビートにUGKの影響を感じることが多くあります。彼やロッド・ウェイヴなどのスタイルのルーツを辿るとUGKの行き着くのではないかと思うのですが、あなたは彼らの音楽をどのように聴いていますか?
バン・B:もちろん聴いたことはあるんだけど、正直に言うと若手の作る音楽を愛聴しているとは言えないな。ヤングボーイやロッド・ウェイヴとか若手の曲は若い世代に向けてのメッセージだから、ドライブとかでは聴かないんだ。でも、彼らの世代が俺たちのやってきたことを、今の世代に広めてくれるアイデアには本当に感謝しているよ。
―今回の来日は『Yokozuna Trill』のリリースツアーとのことですが、この作品を作ってみていかがでしたか?
バン・B:IITIGHT MUSICのShuがこのアイデアを持ってきてくれた時に、すごく良いと思ってやりたくなったんだ。アルバムがツアーを、ツアーがアルバムを盛り上げるという部分と、自分の曲を新しい人たちに聴いてもらうこと、自分のファンに新しい音を届けることは大好きだ。『Yokozuna Trill』は日本で活動しているプロデューサーと自分の音楽文化の交流だと覆っている。最高な作品に仕上がったよ。
―今回のツアーでは、どのようなライブをしたいと考えていますか?
バン・B:ぶちかましにステージに上がるよ。今回回るクラブには楽器やバンドは持ち込めないし、俺は楽器を弾かないから、来てくれるみんなとライブを思いきり楽しみたいと思っているよ。
―以前あなたのライブを観たことがあるのですが、UGKの曲をピンプ・Cのヴァースまで一人で歌っていたのが印象的、そして感動的でした。UGKの曲をパフォーマンスすることへの思いを聞かせてください。
バン・B:UGKのファン、ピンプ・Cのファン、バン・Bのファン、そうじゃない人も、コンサートに来てくれている全員で一体となって、UGK、ピンプ・C、バン・Bの曲を楽しんでもらうことに努めているよ。会場のみんなが歌ってくれると最高な空間になるからね。
―ピンプ・Cとの会話で、今も心に残っており、音楽活動に活きていることは何かありますか?
バン・B:音楽活動では常に自分でいるだけだよ。それが俺たちが意識していたことだからね。
―現在制作している作品が何かありましたら、言える範囲で教えてください。
バン・B:『Way Mo Trill』というコーリー・モーとの作品が、『Yokozuna Trill』の次に出るかな。『Trillstatik 4』の制作も進行中で、今年中に出る予定だよ。NYでレコーディングする予定だったけど、別の雰囲気を出すためにテキサスでレコーディングしようかと思っているんだ。あとはイーストコーストやウェストコースト、サウスの若手との制作かな。
BUN B ”YOKOZUNA TRILL RELEASE JAPAN TOUR”
2024年4月26日(金)東京・町田 MACHIDA CLASSIX
2024年4月27日(土)東京・渋谷DESEO
2024年4月28日(日)大阪・PURE
AFTER PARTY @ 大阪・MADAM WOO OSAKA
2024年4月30日(火)福島・#9
前売りチケット・詳細:https://www.2tight.jp/shopdetail/000000025805/
Bun B『Yokozuna Trill』
2024年4月26日(金)リリース
〈収録曲〉
Intro [Beats by LilYukichi]
2. Brand New (feat. Lil Keke, Jessica) [Beats by DJ☆GO]
3. Yokozuna Trill [Beats by OVER KILL (FUJI TRILL & KNUX)]
4. On The Low [Beats by BOHEMIA LYNCH]
5. Lets Get To It [Beats by Koshy]
6. At Night (feat. Jay Worthy, Jack Freeman) [Beats by DJDEEQUITE]
7. Cherry Blossom [Beats by DJ RYOW & SPACE DUST CLUB]
8. Lets Get To It (Remix) (feat. Cz Tiger) [Beats by TRIGGA BEATZ]