2024年4月3日に発売された、『将棋世界2024年5月号』(発行=日本将棋連盟、販売=マイナビ出版)掲載の「藤井聡太の将棋観」より、一部抜粋してお送りいたします。
現代将棋の流行は目まぐるしく、非常に難解です。プロは課題局面をどう捉えているのでしょうか? 最先端をひた走る藤井聡太八冠に本誌の独占取材を依頼し、定跡最前線への貴重な見解を語っていただきました。今回は、2手目☖8四歩からスタートする主要戦型を探究します。
(以下抜粋)
過去の自分と対戦したら、勝率何割?
――よろしくお願いします。本題に入る前に、何点か盤外のことについてご質問します。昨年の王座戦五番勝負で永瀬拓矢王座から3勝1敗でタイトル奪取、八冠獲得されたのは記憶に新しいところです。全冠制覇は1996年の羽生善治七冠(当時)以来の快挙です。羽生七冠は167日間、七冠を保持しています。
藤井 全冠制覇の期間については、いままで意識したことはありません。
――藤井八冠は対局後のインタビューで勝敗に関係なく「課題が残った」という内容の発言をされています。具体的にどのような課題を指していますか。
藤井 将棋界全体としてこれまでよりも序盤からいろいろな戦型が増えてきて、展開も幅広くなってきていますので、それに対応する力やさまざまな形に対する認識を深めていくということを全体的に意識しています。
――藤井八冠は課題の克服によって、どのようなプレースタイルを目指しますか。
藤井 現状は経験の少ない形に進むと、どう判断するべきか難しい局面もありますので、そういった部分を少なくしたいです。
――仮にデビューの29連勝の頃の藤井四段と、ご自身の課題を克服してきた現在の藤井八冠が10局戦えばどうでしょうか。
藤井 そうですね……。9割くらい勝てたらいいかなと思います。実際のデビュー当時の連勝は運の要素が強く、本当に実力が高かったとはいえません(笑)
工夫が求められる、角換わり腰掛け銀
――ありがとうございました。それでは本題に入り、テーマ図を挙げて藤井八冠の将棋観に迫ります。角換わりの先手番で▲6九玉(第1図)と1マス、玉を引く指し方があり、7勝0敗(取材時)の成績を残しています。藤井八冠の前例に続く形で、▲6九玉(第1図)を採用する将棋が増える傾向にありますが、先手の狙いをお聞かせください。
藤井 先手は第1図から1手ずらして、▲4五桂(第2図)の局面に持ち込む狙いです。ここに至るまでにも駆け引きはありますが、先手は第2図に誘導できれば、まずは主張が通ったといえます。
――第1図から△4二玉▲7九玉△5二玉▲8八玉△4二玉▲4五桂なら第2図に進みますね。藤井八冠は第2図の局面を13局経験して、12勝1敗(0.923)の成績を残しています。ご自身の高勝率が、▲4五桂(第2図)の先手番の優秀性を物語っているように思えます。
藤井 以前は▲6九玉(第1図)に△4一玉と歩調を合わせる指し方があり、先手が1手ずらすのは難しいとされていました。ただ玉引きの応酬に▲5八玉(第3図)と上がるのが革新的な一手です(△豊島将之九段戦、22年8月、王位④)。考えたのは私ではありません(笑)。
――第3図で△5二玉なら▲6八玉と寄るのですね。そこから△4二玉▲7九玉△5二玉▲8八玉△4二玉なら第2図と合流します。王位戦の豊島九段は第3図で△4二玉と、第2図への誘導を拒否しましたが、6三の空間があるので▲4五銀とぶつけやすくなりました。以下△5五銀▲5六銀△同銀▲同歩と進みます。先手は手得しながら銀交換に成功しました。
藤井 ▲6九玉から▲5八玉(第3図)の一連の順によって、角換わり腰掛け銀は後手に工夫が求められる状況になったといえます。
(特別インタビュー「藤井聡太の将棋観」 取材/下村康史 構成/工藤光一)
『将棋世界2024年5月号』
発売日:2024年4月3日
特別定価:920円(本体価格836円+税10%)
判型:A5判244ページ
発行:日本将棋連盟
『将棋世界2024年5月号』のAmazonの紹介ページはこちらです。