NTTの研究結果の開示義務撤廃などを含む「日本電信電話株式会社等に関する法律の一部を改正する法律」(改正NTT法)は、4月17日に参院本会議で可決され、成立した。これに対し、KDDI/ソフトバンク/楽天モバイルの3社は連名で同法への見解を発表した。
NTT法を巡る議論
「日本電信電話株式会社等に関する法律」(NTT法)は1985年に日本電信電話公社が民営化されるのに伴い、成立するNTTの特別な役割を規定したもの。2023年8月に自民党内で「NTT法の在り方に関するプロジェクトチーム」が発足し、廃止を含めた見直しの議論が行われてきた。
NTT法の見直しを推進する立場は、同法によりNTTの活動が制約されていることが国際的なイノベーションや競争を阻害しているとして、政府によるNTT株の売却や規制緩和を進めようとする。これに対し、KDDI/ソフトバンク/楽天モバイルの3社などは、見直し反対の立場から、規制緩和により市場でのNTTの力が強くなりすぎることがむしろ競争を阻害すると主張してきた。
とくにNTTの「特別な資産」と呼ばれる、もとは公社時代に国民負担で構築された通信インフラは議論の焦点になってきた。NTT以外の通信事業者のサービスもこの「特別な資産」を利用しているにもかかわらず、後発他社が同等なインフラを構築するのは極めて困難。この「特別な資産」を保有するNTTと他の通信事業者が公正な競争を行うためにはNTT法による制約は必要なものだというのが、NTT法廃止に反対する側の主張だ。また、NTT法による外資規制が解除された場合、この資産が外国資本に売却されることも安全保障上問題があると指摘している。
こういった問題点の指摘に対して、見直し推進側は、競争の担保は通信事業者法によって実現しうる、外資規制は外為法などによるべきと主張してきた。
また、現在NTT法によって課せられているNTTの研究成果の開示義務については、KDDI/ソフトバンク/楽天モバイルらも見直しに一定の理解を示しており、そのためのNTT法改正には反対しないという姿勢を表明していた。
この日の改正内容は研究結果開示義務の撤廃、外国人役員の容認など
今国会では、3月1日に以下のような内容の改正NTT法が内閣により閣議決定され、国会に提出。審議を経て、4月5日に衆議院で可決、4月17日に参議院で可決となり、成立した。
- 「研究の推進責務」「研究成果の開示義務」の廃止
- 外国人役員に関する規制について、これまで外国人役員を一切認めないとしていたところ、代表取締役への就任および役員の3分の1以上を占めることを禁止すると規制を緩和する
- 役員選任/解任の決議について、「認可」から「事後届出」に緩和する
- 「剰余金処分」の決議についての「認可」を廃止する
- 日本電信電話会社(NTT持株)/東日本電信電話株式会社(NTT東日本)/西日本電信電話株式会社(NTT西日本)の会社名(照合)の変更をできるようにする
また附則には、「日本電信電話株式会社等に関する法律の廃止を含め(中略)制度の在り方について検討を加え、その結果に基づいて、令和七年に開会される国会の常会を目途として、(中略)必要な措置を講ずるための法律案を国会に提出するものとする」という文言がある。今回の改正NTT法の成立でNTT法廃止・見直しの議論が決着したわけではなく、異論の少ない点についての見直しを先行させたという状況だ。
競合3社は議論の方向付け/時限設定を警戒、引き続き「廃止」には反対
そしてこの改正NTT法に対し、KDDI/ソフトバンク/楽天モバイルの3社が連名で、参議院での可決直後に見解を公表した。
3社の見解では、公正競争やユニバーサルサービス義務、経済安全保障に関する事項を総務省の情報通信審議会で検討されている状況において、前述の附則で「日本電信電話株式会社等に関する法律の廃止を含め」検討すること、「令和七年に開会される国会の常会を目途」と時限を設けると規定されたことについて、法制度のあり方を方向づけるもの、拙速な議論を招きかねないものとして強い懸念を表明している。
その一方で、「ユニバーサルサービスの確保、公正な競争の促進及び電気通信事業に係る安全保障の確保等の観点から慎重に検討を行う」こと、「国民生活への影響も大きいものであることから、広く意見を聴取し、国民の理解が得られるよう検討の過程及びその結果について十分に説明を行うこと」を求める付帯決議がなされたことについては、「国益・国民生活を保護する観点から非常に意義が大きい」と評価している。
3社は従来より、あらかじめ「NTT法廃止」という結論や2024年~2025年のゴールを前提として見直し論議が進んでいることに反発を見せていた。今回の改正NTT法成立を受けての見解でも従来と姿勢は変わらず、NTT法廃止を前提とせず、十分な時間をかけて広く議論することを求めており、「引き続きNTT法の『廃止』には反対、より慎重な政策議論が行われることを強く要望」するという内容になっている。