起業する時、オフィスはどのように決めればいいのでしょうか。以前までは、一定の人を雇うなら賃貸オフィス、1人で起業するなら自宅兼オフィス、と選択肢はさほど多くありませんでした。しかし最近では、さまざまな形態のオフィスが登場し、選択肢が増えた分、どれを選ぶべきか頭を悩ませてしまう人が多いようです。
そこでこの記事では、6つの形態のオフィスについて、メリットやデメリット、費用の目安をまとめました。また、オフィス選びのポイントもご紹介していますので、どの形態のオフィスにすべきか迷っている方は、ぜひ参考にしてください。
■オフィス形態別に見る、メリット・デメリット・費用の目安
近年はオフィスの形態が多様化し、ビジネススタイルや予算に合わせて多くの選択肢からオフィスが選べるようになりました。主な形態のオフィスについて、概要やメリット・デメリット、費用の目安などを見てみましょう。
【1】賃貸オフィス(賃貸事務所)
最も一般的なオフィスの形態といえば、管理会社と賃貸契約を結んで借りる「賃貸オフィス」です。最初から複数の社員を雇って起業する場合、または、起業時からある程度の利益が見込め、資金に余裕がある場合などは候補になるでしょう。
<メリット>
賃貸オフィスのメリットは、「自社オフィスがある」ということで社会的な信用が得やすいことです。また、オフィスの内装やレイアウトをある程度自由に設定できる、セキュリティ面で安心、大きな面積を専有できる点も賃貸オフィスのメリットです。
<デメリット>
デメリットとしては、他の形態のオフィスと比べて費用がかかる点でしょう。賃貸オフィスを借りるとなると敷金や礼金、前払いの賃料が必要で、それらを合計すると数百万円に達することもあります。加えて、毎月の家賃や電気・ガス・水道、通信費などの費用がかさみます。
<費用の目安>
賃貸オフィスの賃料は、たとえば、50〜100坪の中型ビルの場合、東京都渋谷区なら1坪あたり2万円前後が目安となります。ただし、地域やオフィスの立地、設備によって金額は大きくは変わります。また、入居時は賃料の10〜12ヶ月分程度の初期費用がかかります。
【2】自宅
最近では、パソコンがあれば時間や場所を選ばずできる仕事が増え、自宅で開業する人も多くいます。起業したてで費用を抑えたい人には、特に向いているオフィスの形態です。
<メリット>
自宅をオフィスにする一番のメリットは、オフィスを構えるために新たな資金が必要ない点です。固定費として増えるものは、事業によって生じる電気・ガス・水道代、通信費等に限られます。また、通勤時間がかからないのもメリットでしょう。
<デメリット>
自宅をオフィスにするデメリットとしては、プライベート空間で仕事をするため、事業に集中しにくいことが挙げられます。また、自宅が持ち家なら法人登記は可能ですが、賃貸の場合、登記が認められていないケースが多いです。なお、家賃を経費にする場合、事業で使用している分を家事按分して計上する必要があります。
<費用の目安>
起業のために新規に取得した物件でなければ、賃料、初期費用ともに0円となります。
【3】レンタルオフィス
レンタルオフィスとは、月々の賃料を支払うことで、個室空間をレンタルできるサービスです。後述するシェアオフィスやコワーキングスペースと違い、フロアが完全に仕切られているため、セキュリティも安心です。
賃貸オフィスとの違いは、1つの事業者が全ての空間を独占できるわけではなく、「業者が複数人に提供している個別スペースの1つを使える」という点です。
<メリット>
レンタルオフィスのメリットは、賃貸オフィスと同じような使い方ができるにもかかわらず、料金がリーズナブルに抑えられるという点です。また、フロントスタッフが常駐しているオフィスや、共用部分に打ち合わせスペース・会議室を備えているオフィスも多く、使い勝手がいいのも魅力でしょう。
さらに、レンタルオフィスは個室空間を持てるため、税理士などの許認可が取得できます。
<デメリット>
オフィス内を自由に改装できない、坪単価あたりの賃料が割高な点は、レンタルオフィスのデメリットです。また、多くの在庫や大きなスペースを必要とする業務には不向き、店舗として物販などを行うことは基本的にできないなどの制約もあります。
<費用の目安>
レンタルオフィスの賃料の目安は、4~10万円程度です。地域や施設のほか、レンタルオフィスが提供するサービスによっても価格は異なります。また、初期費用として保証金(賃料の1~2ヶ月分程度)や、別途入会金が必要なケースもあります。
【4】シェアオフィス
シェアオフィスとは、複数の人が1つのフロアを共有して使うオフィスのことです。ベンチャー企業や個人起業家などの利用が多く、1時間単位や1日単位のスポット利用ができるところもあります。
<メリット>
シェアオフィスのメリットは、必要な時だけ借りることで費用が抑えられる点です。また、会議室やOA機器が設置されているところが多く、インターネット環境もあるため、それらにかかる初期費用を省けます。さらに、他の利用者と交流できるため、人脈を広げ新たなビジネスチャンスをつかむ可能性もあるでしょう。
<デメリット>
一方のデメリットは、他の利用者への配慮やセキュリティへの備えが欠かせない点です。また、固定電話や在庫スペースなどが必要なビジネスには向きません。シェアオフィスの中には法人登記できないオフィスもありますので、その点も注意したいところです。
<費用の目安>
シェアオフィスの費用の目安は、5,000円〜4万円程度です。長期間利用する場合、利用するごとに料金を支払うより、月額制のほうが割安になる傾向にあります。地域や施設のほか、シェアオフィスのサービス充実度によっても価格は変わります。また、初期費用として、保証金が月額の1~3ヶ月分程度かかったり、別途入会金が必要になったりすることもあります。
【5】コワーキングスペース
コワーキングスペースはシェアオフィスと似た仕組みで、1つの開放された空間を複数の人で共有して使うものです。コワーキングスペースの場合、賃料ではなく、利用料という形で支払うのが一般的です。また、最近では特定の業種に特化した施設や起業家向け施設なども登場しています。
<メリット>
コワーキングスペースのメリットは、シェアオフィスと同じく費用が安く済む点です。また、多くの場合受付スタッフがいるため、来客対応や郵便の受け取りなどをしてくれます。利用者同士でコミュニケーションを取り、人脈を広げたり事業の相談ができたりする点も魅力といえます。
<デメリット>
デメリットとしては、ほとんどのコワーキングスペースには仕切りがないため、パソコン画面を不特定多数に見られてしまうなどセキュリティの確保が難しいという点です。それに、周囲の打ち合わせの声が気になる…という状況が考えられますし、逆に自分の打ち合わせの会話を他人に聞かれてしまう心配もあります。
また、コワーキングスペースには法人登記できないところが多いため、注意が必要です。
<費用の目安>
コワーキングスペースの費用は、5,000円~3万円が相場です。中には格安で利用できるところや、フリー席と固定席で料金が異なるところもあるようです。シェアオフィスと同じく、初期費用として保証金(月額の1~3ヶ月分程度)や入会金がかかるケースもあります。
【6】バーチャルオフィス
バーチャルオフィスとは、その名の通り「仮想(バーチャル)」のオフィスのことで、実際の空間を借りるのではなく、事業用の住所や電話番号、FAX番号などを借りられる仕組みです。固定のオフィスを必要としない起業家に向いています。
<メリット>
バーチャルオフィスのメリットは、一等地のオフィス街の住所でも格安で利用できる点です。初期費用、利用料ともに抑えられますし、プライバシーの問題も心配ありません。さらに、バーチャルオフィスによってはさまざまな事業サポートが受けられる場合もあります。
<デメリット>
バーチャルオフィスは、たとえ一等地に住所を置くことができたとしても、会社所在地としては実態がありません。そのため、信用度としては逆効果になる可能性があります。また、事務所の設置が定められている業種では許認可が取れない、他の多くの利用者と住所が同じになってしまうのもデメリットといえます。
<費用の目安>
バーチャルオフィスの費用は、2,000円〜1万円程度が目安です。また、初期費用として、入会金が必要なところもあります。
■成功するオフィス選びのポイントとは
ここまで解説したように、オフィスにはさまざまな形態があります。また、同じ形態のオフィスでもそれぞれ条件が違うため、いざ選ぼうとすると何を基準にすればいいのか迷ってしまうことでしょう。そこで最後に、成功するオフィス選びのポイントをご紹介します。
<初期費用>
起業するにあたり、初期費用はできるだけ抑えたいもの。はじめから社員を多く雇う場合は賃貸オフィスが候補となりますが、1人や数名での起業なら、初期費用が抑えられるレンタルオフィスやシェアオフィスがおすすめです。
レンタルオフィスやシェアオフィスであれば事業を始めるための環境が最初から整っているため、パソコンだけ持ち込めばすぐに事業を始められます。
<賃料>
毎月の固定費となる賃料も重要なポイントです。大きな負担にならない賃料なのか、よく見極めてオフィスを決めましょう。ただし、いずれの形態のオフィスも、賃料が安ければ安いほどいいわけではありません。
たとえば、費用を抑えるために立地の悪いオフィスを選ぶと、自身や社員のモチベーション低下、集客の悪化につながる恐れがあります。負担のない賃料でありながら、優先順位の高い条件を満たしているかどうかも意識しましょう。
<オフィスの立地>
前述の通り、賃料が安くても、立地の悪いオフィスだとモチベーション低下や来訪者の利便性の悪さが懸念材料となってしまいます。一方、駅の近くなど立地の良い場所であれば、集客はしやすくなるでしょう。
また、周辺の環境も大切です。役所や金融機関、コンビニや飲食店があるなど、便利な場所であれば事業の効率化やモチベーションアップにつながります。ただし、立地条件の良いオフィスであるほど賃料は高くなる傾向にありますので、賃料と妥協できる点、優先したい点のバランスが取れたオフィスを見つけましょう。
<利用可能時間>
「自分が利用したい時にオフィスが使えるか」という点も大切なポイントです。賃貸オフィスやレンタルオフィス、シェアオフィスは24時間365日利用できるところが多いですが、コワーキングスペースは利用できる時間帯が限られている場合があります。
また、ビルによってはお盆期間や年末年始は利用できないこともありますので、入居前に確認しておきましょう。
<法的手続きができるか>
賃貸オフィスやレンタルオフィス、シェアオフィスは基本的に法人登記可能なところが多いですが、コワーキングスペースではできないケースが多いです。法人登記や許認可を取得する場合は、法的手続きができるか必ず確認しましょう。
■自分に合う形態のオフィスを見つけよう
オフィスにはさまざまな形態がありますが、できるだけ初期費用を抑えて起業したいなら、賃貸オフィス以外の選択肢から選ぶといいでしょう。また、横のつながりを作りたい場合は、シェアオフィスやコワーキングスペースから選択するのもおすすめです。ビジネスの成功を目指し、自分に合う形態のオフィスを見つけてみましょう。