4月15日は年金支給日です。年金は2カ月に1回支給されます。ただし、年金決定通知書に記載された受給額がそのまま指定口座に振り込まれるわけではありません。実際に振り込まれるのは、保険料や税金が引かれたあとの金額です。
「ただでさえ少ないのに…」と思われるかもしれませんが、一定以下であれば課税されず、また保険料には軽減措置もあります。そこで、年金から何がどのくらい引かれるのか、年金がいくらであれば引かれないのか、年金から天引きされる保険料や税金について詳しく解説します。
年金から引かれる社会保険料
公的医療保険(国民健康保険料または後期高齢者医療保険料)と介護保険料は、保険制度ごとに決められている金額以上の年金を受給している場合には、年金からの天引きとなります。これを「特別徴収」といいます。
<年金から天引きされる社会保険料>
・介護保険料
・国民健康保険料
・後期高齢者医療保険料
75歳未満の場合は国民健康保険、75歳以上になると後期高齢者医療保険に変わります。それぞれ細かくみていきましょう。
*介護保険料
40歳以上になると、原則すべての人が介護保険に加入して保険料を納めます。40歳から65歳未満の公的医療保険加入者の場合は、医療保険の保険料とあわせて徴収されます。
65歳以上の者は、市区町村が所得段階に応じた保険料を徴収します。公的年金の年間の受給額が18万円以上の場合は年金から天引きされ(特別徴収)、18万円未満の場合は、納付書を使って納めます(普通徴収)。
*国民健康保険料
会社を退職すると、国民健康保険に切り替えることになります。保険料は市区町村によって異なり、前年の所得に応じて負担する所得割と所得に関係なく一律に負担する均等割があります。
世帯単位で徴収し、世帯主が支払います。65歳以上75歳未満の年金受給者のうち、年間の受給額が18万円以上の場合は年金から天引きとなります。ただし、国民健康保険料と介護保険料の合計額が、各支払期に支払われる年金額の2分の1を超える場合は、天引きにはなりません。
*後期高齢者医療保険料
75歳(一定の障害状態にある人は65歳)以上になると、これまで加入していた国民健康保険から脱退し、新たに後期高齢者医療保険に加入します。国民健康保険と同様に、所得割と均等割があり、保険料率は都道府県によって異なります。
後期高齢者医療保険は一人ひとりが被保険者となるため、保険料は個人単位で支払います。公的年金の受給額が18万円以上の場合は年金から天引きとなります。ただし、後期高齢者医療保険料と介護保険料の合計額が、各支払期に支払われる年金額の2分の1を超える場合は、天引きにはなりません。
年金から引かれる税金
一定以上の年金収入がある人は、年金から所得税と住民税が引かれます。
<年金から天引きされる税金>
・所得税
・住民税
*所得税
年金収入は雑所得に分類されます。雑所得は年金収入から公的年金等控除額を引いたものとなります。公的年金等控除額は年齢や所得金額に応じて控除額が異なります。
雑所得は他の所得と合算して総合課税となります。 所得税の求め方は、他の所得と合算した総所得金額から、基礎控除や扶養控除などの各種所得控除と介護保険料や国民健康保険料などの社会保険料を引いて課税所得を求めます。課税所得に所得税の税率をかけて税額を出します。
(公的年金収入-公的年金等控除額-各種所得控除-社会保険料控除)×税率
65歳以上の単身者で、公的年金以外の収入がない場合、年金額が158万円(公的年金等控除額110万円+基礎控除48万円)以下であれば、非課税となります。扶養配偶者や扶養親族がいる場合は、この金額以上でも非課税となります。
*住民税
年金受給者の場合には、年間の受給額が18万円以上であれば、特別徴収となり年金から天引きされます。所得税はその年の年金額をもとにした税額が徴収されますが、住民税は前年の年金額をもとにした税額が徴収されます。
4月、6月、8月に徴収される住民税は、前年度の年金に係る税額の半分を3回に分けて年金から徴収します(仮徴収)。10月、12月、翌年2月に徴収される住民税は、6月に確定した1年間の税額から仮徴収した税額を差し引き、残りを3回に分けて年金から徴収します(本徴収)。そのため、徴収される金額は月によってバラつきがある場合があります。
住民税は所得割と均等割で成り立っており、所得割は一律10%(道府県民税4%、市町村民税6%)、均等割は令和6年度以降から、都府県民税1,000円、市町村民税3,000円、森林環境税(国税)1,000円をあわせて5,000円となっています。
65歳以上の単身者で、公的年金以外の収入がない場合、年金額が155万円(公的年金等控除額110万円+非課税基準45万円※)以下であれば、住民税が非課税となります。
※非課税の基準は市区町村の条例で定められており、住んでいる地域によって異なります(45万円は東京23区など1級地の場合)。また、非課税となる限度額は、扶養配偶者や扶養親族の数によっても異なります。
実際に計算してみよう
次のケースを例にして、社会保険料および税金がいくらになるのか計算してみます。
<条件>
東京都八王子市在住
夫(68歳):公的年金収入200万円
妻(66歳):公的年金収入100万円
その他の特別な条件なし
令和6年度の制度に当てはめて計算
*住民税
【夫】
年金収入から公的年金等控除額を引いた所得金額は90万円になります。
以下の式に当てはめて非課税限度額を出します。
<非課税になる合計所得金額>
35万円×(本人+同一生計配偶者+扶養親族の数)+31万円以下
35万円×2+31万円=101万円
所得金額90万円は、非課税限度額101万円以下なので、夫の住民税は非課税となります。
【妻】
妻の年金収入は公的年金等控除額110万円以下なので、住民税は非課税となります。
夫も妻も住民税は課税されません。住民税非課税世帯に該当します。
*介護保険料
介護保険料は市区町村ごとに定められた所得段階から保険料を求めます。
※参考:令和6年度から令和8年度の介護保険料(所得段階)|八王子市公式ホームページ|八王子市公式ホームページ
夫は第3段階、妻は第2段階に当てはまるため、保険料の年額は、夫4万8,900円、妻3万4,600円になります。
*国民健康保険料
東京都八王子市の令和6年度の保険料から求めます。
※参考:年間保険税の決め方(令和6年度)|八王子市公式ホームページ
所得割額:(前年の総所得金額等-基礎控除43万円)×10.56%
均等割額:加入人数×6万3,100円
所得割は夫4万9,632円、妻は年金収入が110万円以下なので0円となります。均等割には、軽減措置があり、このケースでは5割軽減に当てはまるため、6万3,100円となります。
所得割と均等割を足した世帯の合計は11万2,732円となりました。
所得税
所得税は以下の式に当てはめて求めます。
(公的年金収入-公的年金等控除額-各種所得控除-社会保険料控除)×税率
【夫】
200万円-110万円-48万円(基礎控除)-38万円(配偶者控除)-11万2,732円(国民健康保険料)-4万8,900円(介護保険料)=▲12万1,632円
課税所得がマイナスとなるため、所得税は非課税となります。
【妻】
公的年金収入が110万円以下であるため、所得税は非課税となります。
夫も妻も所得税は非課税となりました。
まとめ
シミュレーションの結果、年金から差し引かれるものの中では、社会保険料の負担が大きいことがわかりました。令和6年4月から、65歳以上の介護保険料が改定され、6割超の自治体が保険料を引き上げました。今後も高齢化が加速していくことで、保険料負担は一層重くなると見込まれます。
一方、所得税や住民税は公的年金等控除によって、所得金額が抑えられることで、非課税となるケースは多くなります。住民税非課税世帯に該当すると、高額療養費制度や高額介護サービス費の限度額が下がるなどのメリットがあります。
これから年金を受給する方は、老後の生活設計のためにも、税金や社会保険料の負担がどの程度になるか試算してみるといいでしょう。