TBS系日曜劇場『アンチヒーロー』(毎週日曜21:00~)が4月14日よりスタートする。主人公は「殺人犯をも無罪にしてしまう」という弁護士。先日行われたイベントでも主演を務める長谷川博己が「こんなことをやってもいいのだろうか」と不安を吐露するなど、明かされている事柄だけを見ても、ダークな雰囲気が漂う。プロデューサーは昨年7月期の日曜劇場『VIVANT』を担当した飯田和孝氏。放送前から大いなる注目を集めているが、どんな狙いで企画を立ち上げたのだろうか――胸の内を聞いた。
ダークな主人公が生み出されたきっかけとは?
多くのことがベールに包まれている本作だが、長谷川演じる主人公の弁護士は「殺人犯をも無罪にしてしまう」という限りなくダークな人物だ。飯田氏は「視聴者は、主人公がどこまで踏み込んでいくのかという部分に注目していると思うのですが、多分予想よりもよりひどいと思います」と苦笑いを浮かべると「ダークというと、やり方が違法すれすれという想像をすると思いますが、それよりももっと人間の内部の、例えば人の弱みにつけ込むようなところがあるので、そこをちゃんと受け入れてもらえるのか、怖くもあり興味深い感じもあります」とオンエア直前の心境を述べる。
飯田氏と言えば、昨年7月期に放送された『VIVANT』も手掛けているが「『VIVANT』のときと変わらず、とにかく次から次へといろいろなことが起きて、先が見たくなるようなエンターテインメントを作りたいということを念頭に置いています」とコンセプトを説明する。
一方、テーマについて「いまの時代は人を傷つけるのも簡単で、これまで得ていた評価や称賛というものが、一瞬で崩れ落ちてしまうような時代。でもその中には、本当に真実を見ることができているのだろうか……と常日ごろから思っていて、やっぱり自分の目と耳でしっかりと真偽を見極めることが大事なんだということは伝えたかったことです」と語る。
企画自体は、2020年のコロナ禍に生まれたものだという。
「コロナがきっかけかは分かりませんが、僕は2018年に父親が亡くなっているんですね。集中治療室に入っている1週間、夜は病院に宿泊し、朝車で45分の実家に帰り、そこから、会社に通勤していたのですが、ある朝電話があって『悪化しています』と連絡を受けました。実家から車で病院に向かったのですが、その途中にスピード違反で捕まってしまったんです。確か農道の40キロ道路で、『もしかしたら死に際に立ち会えないかもしれない』『これが最後かもしれない』『会いたい』という思いが先立って、スピード超過は絶対にいけないとわかっていつつも、オーバーしてしまって。そういう状況のとき、人はどうするのだろう……というのはずっと考えていたんです。例えば法律上悪いことだとしても、何かを変えるきっかけの悪ならばそれは称賛されてもいいのかも……みたいな発想が漠然と浮かびました」。
その後コロナ禍に入り「マスク警察」などが出てきたことで、飯田氏の漠然とした思いが、より具体化していったという。「そんななかで、最も悪いことって殺人だと思っていたので、一番悪いことをした人を許す、救う、なかったことにする人物を主人公にしたら、より強い思いが伝えられるのかもしれないと思いました」。
一筋縄ではいかない主人公「真っ先に長谷川さんの顔が浮かんだ」
主人公は第1話から、かなりダークな一面をのぞかせる。演じるのは、2017年の『小さな巨人』以来、7年ぶりに日曜劇場への参戦となる長谷川だ。当時も制作に携わっていたという飯田氏は「2020年に最初の企画書を出した段階で、イメージキャストに長谷川博己と書いていました」と語ると「この主人公は、本当につかみどころがない人間で、見ただけでは何を考えているか分からない。でも、胸の奥にはすごく芯を持っているのかもしれない……という一筋縄ではいかないキャラクターを体現してくれる人と考えたとき、真っ先に長谷川さんの顔が浮かびました」と意中の人物だったという。
また、同僚弁護士役の北村匠海については「北村さんが演じるキャラクターはすごく難しい役。弁護士になってあまり年数が経過していない立ち位置で、ある意味で視聴者に一番近い目線のキャラクター。そこをしっかり表現できる力のある俳優さんというと、北村さんの表現力が適しているのかなと思いました。すごく頭のいい俳優さんなのですが、頭で芝居をしていない。ちゃんとストーリーを逆算してお芝居をしていると思うのですが、それが計算ぽく見えないんです」と称賛する。
北村と同じく同僚弁護士を演じる堀田については「クールなキャラクターなので、そういうイメージがない人が良いなと思ったんです。堀田さんは弊社では『危険なビーナス』、『恋はつづくよどこまでも』に出演していただいていますが、僕のなかではとても柔らかいイメージがあったので、真逆であるこの役をぜひお願いしたいと思いました」と起用理由を述べていた。
第1話放送スタートの段階で、ほぼ最終話を除いて脚本もできているという本作。コンプライアンスが重視される世の中において、かなり攻めた内容になっているが、飯田氏は「脚本家にもフルスイングで行きましょうとは話していました。今の時代に伝えるべきことをしっかり伝えるためには、やっぱり世の中にはびこっている毒を描かないと伝わらないと思ったんです」と中途半端になることだけはしないように……と肝に銘じながら製作を進めているという。
第1話の冒頭から、「罪を犯した人間は、罪を償っても社会からは許してもらえない」ということを強いメッセージとして伝える。かなりのインパクトだ。
「テレビドラマだと、大衆に向けて発信するうえで、過ちを犯したらちゃんと謝り更生して償う。そうすれば世の中見てくれる人は見てくれているよという感じになる。もちろん見てくれている人はいると思いますが、その前に潰されてしまうのが今の世の中。殺人犯と認識されてしまったら、絶対に立ち直れない。そこはしっかり現実として描く。だからこそ、殺人犯というレッテルを張らせないように主人公が動くんですよね」。
まさに逆転パラドックスエンターテインメントと呼ぶにふさわしい作品。まだまだ謎が多いが、どんな展開になるのか目が離せない。飯田氏は「しっかり10話をかけて、このドラマが何を言いたいのか感じて欲しいです」とメッセージを送った。
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