2023年の交通違反別取り締まり件数が公表された。減った違反、増えた違反は?

違反別の交通取り締まり件数の、2023年分が公表された。警察庁のWebサイトのちょっと深いところにその一覧表がある。2022年分も載っている、2023年と2022年の、交通取り締まりの総数はこうだ。

2023年  547万6654件

2022年  614万1535件

2013年には1047万4402件もあったのに、近年は減少し続け、とうとう半分ほどになってしまった。原因は何か。やっぱり、交通事故死者数の減少により、取り締まりのモチベーションが薄れた=現場警察官に対する取り締まりのノルマ(努力目標)が軽くなった、そこがひとつ大きいのだろうと私は見る。

事故死者数のピークは1970年、事故発生後24時間以内だけで1万6765人もの方が亡くなった。2度目のピークは1992年で1万1453人。その後ぐんぐん減り、2023年は2678人だ。ただし、じつは2023年は前年より少し増えている。今後が心配だ。

【参考記事】交通死亡事故者がついに増加に転じた…2024年は「あの取り締まり」激増が予想される 

次に、違反別の取り締まり件数を見てみよう。

■速度違反は右肩下がり

速度違反の取り締まりは、かつては200数十万件と“王者”だった。だが、2014年に200万件を割って183万5930件となり、2022年には100万件を割った。

2023年  88万8500件

2022年  93万2260件

クルマ社会も高齢化し、女性運転者の割合が半分に近づいた。セダンよりミニバン、軽自動車が売れる。時代なんですかねえ。

一覧表には超過速度別の取り締まり件数が載っている。2023年分はこうだ。

超過50以上     1万2508件

超過30以上50未満 12万2218件

超過25以上30未満 18万3204件

超過20以上25未満 29万2723件

超過15以上20未満 27万7769件

超過15未満        78件

超過15キロ以上25キロ未満、つまり超過20キロ前後が約64%を占める。「20キロオーバーぐらいが普通の流れでしょ」と思ってるあなた、やばいですぞ。

超過15キロ未満は、昔はもっと少なかった。2013年なんか、たった15件だった。ところが2019年、突然340件に爆増した。「通学路、生活道路の速度抑止」を目玉に導入された可搬式オービス(※)が、制限30キロ程度の道路で取り締まったことが考えられる。しかしその後どんどん減り、2023年は78件に。じつに興味深い。 ※ネットでは「移動式オービス」とよく呼び変えられる。

さて、そんな中で、じつは取り締まりが増えた違反がある。いったい何の違反か、一覧表の現物を見ながら、少しチェックしてみよう。

■全体に減るなかで取り締まりが増えた違反は

【無免許運転】 無免許の取り締まり件数はこうなった。

2023年 1万7599件

2022年 1万6761件

前年比838件、5.0%の増加に過ぎない。でも、全体に減るなかで増えたことは注目していいだろう。

私は裁判傍聴マニアでもある。無免許で公判請求(正式な裁判への起訴)をされて法廷へ出てくるのは、建築関係など現場仕事の人が多い。「道具などを積んでクルマで現場へ行かねばならず、運転できる職人が休んでしまい、やむを得ず」といったケースが目立つ。“コロナ明け”で仕事が増えたのだろうか。

【酒酔い運転】

2023年  642件

2022年  562件

前年比80件、14.2%の増加だ。そういえば2023年、東京地裁で酒酔い運転の裁判によく遭遇した。例えば、「罰金前科3犯の30代男性が、埼玉で飲酒したのち池袋のガールズバーへ行こうと普通自動二輪を運転」とか。その判決は懲役6月、執行猶予3年だった。

【酒気帯び運転】

酔っていなくても、体内に基準値(呼気1リットル中0.15mg)以上のアルコールを保有する状態だと酒気帯び運転になる。

2023年 2万0825件

2022年 1万9258件

1567件、8.1%の増加だ。「飲み会へクルマで出かけ、クルマは置いて帰るつもりだったのに、やっぱり運転した」とか「自宅で飲酒し、さらに居酒屋へ(または酒を買いに)行くため運転した」なんてのが多い。アルコールという合法薬物のせいで脳が緩み、自己コントロール能力が失われるのかも。

酒酔いも含め飲酒運転が増えたのは、やっぱりコロナ明けで飲酒の機会が増えたってことなのだろうか。

【超過50キロ以上の速度違反】

前述のとおり速度違反の取り締まりはぐんぐん減っているのに、超過50キロ以上だけは増えた。

2023年 1万2508件

2022年 1万2396件

112件、0.9%の増加に過ぎないけれども、大幅な速度超過だけがなぜ増えたのか。あの“仮説”が当たっているのだろうか。

【参考記事】「スピード違反50キロ以上」が増加中…しかも「富裕層」が多い!? 捕まったらどうなるのか 

【消音器不備・騒音運転等】

以下の件数は、左側が消音器不備、右側が騒音運転等だ。

2023年 2458件 235件  

2022年 2128件 222件

消音器不備は330件、15.5%の増加。騒音運転等は13件、5.9%の増加だ。そんな取り締まりがなぜ増えたんだろう。もしや…。「暴走族の実体及び検挙状況」というデータを見てみた。「グループ数」は121から137へ、「人員」は5770から5850へ、「い集・走行回数」は2093から2513へ増えている。その関係かと思われる。 ※い集=蝟集。群れ集まること。

コロナ明けでいろいろ動きが活発になったせいで増えた違反は、2024年も増える可能性がある。裁判用語でいえば「遵法(じゅんぽう)意識が欠如した」運転者たちは、何をやらかすか、わかったもんじゃない。そういう者は一定数、どうしようもなくいるのだと、刑事裁判の傍聴席で感じる。被害を受けないよう、巻き込まれないよう、注意したい。

文=今井亮一

肩書きは交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から交通事件以外の裁判傍聴にも熱中。交通違反マニア、開示請求マニア、裁判傍聴マニアを自称。