藤井聡太名人に豊島将之九段が挑戦する第82期名人戦七番勝負(主催:毎日新聞社・朝日新聞社)は4月10日(水)・11日(木)に東京都文京区の「ホテル椿山荘東京」で開幕。横歩取り調の力戦に進んだ対局は、終盤で一瞬の隙を突いて逆転に成功した藤井名人が141手で勝利。防衛に向け好スタートを切りました。

春の風物詩は力戦から

さわやかな青色の和服に身を包んだ二人が盤を挟んで春の風物詩が始まります。振り駒が行われた開幕局は後手となった豊島九段が序盤早々から趣向を披露。端歩を突いてタイミングをずらしたのは定跡を外して戦う意図で、盤上は早くも横歩取り調の力戦の様相です。

中央に作り合った馬が交換に持ち込まれて盤上は第二次駒組みへ。戦いが2日目に入ると繊細な駆け引きを前に両者長考が続きます。狭いところに角をねじ込んで8筋の先手の飛車を追ったのは豊島九段の創意の一手。この手を境に形勢の針は豊島九段に転じました。

最終盤のエアポケット

ひと足先に飛車を入手した豊島九段は自陣の桂を軽快に跳ね出して攻めに厚みを加えます。開き直った藤井名人の攻め合いに対して攻防兼備の香打ちで応戦したのも絶好手。評価値と持ち時間の両方で優位に立った豊島九段が勝ちをつかむのは時間の問題と思われました。

竜の王手で藤井玉が囲いから追い出された局面が本局のハイライトに。予定通り香を打った豊島九段ですが、玉を手順に5筋に逃げ出されてみると、意外と先手玉への寄りがありません。代えては怖いようでも金を取って手を渡せば先手玉への2手スキがほどきづらい形でした。

勝ち将棋鬼のごとし

九死に一生を得た藤井名人は手にした豊富な持ち駒で最後の反撃に出ます。一局を通じて遊んでいた自陣の右桂を跳ね出す手が間に合っては後手に受けはありません。終局時刻は21時22分、最後は華麗な寄せでまとめた藤井名人が逆転で開幕勝利を飾りました。

最終盤、豊島九段は水面下に張り巡らされた先手からの攻防手に悩まされた形で、すべてをかいくぐったうえで先手玉を長手数追い回す筋にしか勝ちがなかったのが不運となりました。第2局は4月23日(火)・24日(水)に千葉県成田市「成田山 新勝寺」で行われます。

水留啓(将棋情報局)

  • 感想戦では両者すぐには言葉が出ないほど難解な最終盤を制した藤井名人(提供:日本将棋連盟)

    感想戦では両者すぐには言葉が出ないほど難解な最終盤を制した藤井名人(提供:日本将棋連盟)