AI PCは個人向けだけでなく法人向けやモバイルワークステーションにも拡大
2024年3月27日、日本HPはAIテクノロジー内蔵PC新製品発表会を開催しました。
説明会はパーソナルシステムズ事業本部 本部長の松浦 徹氏の「本日はAI PCの第二弾として個人向け・法人向け・プロフェッショナルの製品を発表し、お客様のハイブリッドワークを支援する」の発言でスタート。
法人向け製品発表の背景としては、コロナ禍によって急速に普及したテレワーク・ハイブリッドワークがあります。日本HPにおいては以前からハイブリッドワークを進めており、2016年の時点でも35%の従業員が週一回のテレワークを実践していました。現在では、ほぼすべての従業員が週一回のテレワークを実施。週3日以上の従業員も約4割いると、具体的な数値を出していました。
また、AIはビジネスの生産性を根本的に変え、仕事との関係をよくするツールであると多くのビジネスパーソンが考えているというアンケート結果を出し、その意味でもAIがローカルで動作するAI PCのメリットを示しました。
AIの活用にはスピードとセキュリティがポイントになると、2024年はAI PCのポートフォリオを一気に拡充。個人向けのEnvy、法人向けのEliteBook、プロ向けのZBookをラインナップを取り揃えました。これによって生産性、創造性、UXを向上させています。
セキュリティに関しては、法人向けPCに搭載されているESCチップ(HP Endpoint Security Controller)を刷新。OSブート前のファームウェアの改ざんにもより強力に対応できます。
軽量性に関しては、軽量シリーズとして投入したDragonFlyに代わり、Elitebook 635 Aero G11を投入。これは世界に先駆けて日本で発売される製品となります。さらに社会的要請に応えるサステナビリティ性にも配慮し、リサイクル材料をより多く採用しています。
個人向け製品はOLEDモデルが多く、サウンドもPoly Studioに変更
個人向け製品Envyに関してはコンシューマー製品部 プロダクトマネージャーの吉川氏が説明しました。
Envyシリーズは「確かな性能、先進的な機能、柔軟なスタイルを持つハイパフォーマンスPC」であり、今回発表されたのは2-in-1タイプのEnvy x360 15(Intel版)、Envy x360 15(AMD版)、Envy x360 16の三製品です。
Intel製品はCore Ultra、AMD製品はRyzen AIと共にNPU内蔵で、AI処理をNPUにオフロードすることで性能を上げ、逆に消費電力を抑えられるといいます。
具体例としてAudacityによる楽曲生成のデモを実施。前モデル(Core i7)とNPU搭載の新モデル(Core Ultra 7)の比較では、実行時間を約20%と大幅に削減しています。また、独自ツールのHP Smart Senseはユーザーの利用状況を機械学習することで、温度やファンノイズの最適化と省エネ化に寄与。
Copilot for Windowsが利用できるため、WindowsによるAIアシスタントも当然利用できますし、インテルのAI PCの条件を満たすためにCopilotキーも用意されています。
ハイブリッドワークではビデオ会議が不可欠ですが、Envyには5MPのIRカメラを搭載。Windows Studio Effectsによる背景ぼかしやアイコンタクト、オートフレームといった機能ももちろん利用できます。Intel版にはIntel Unisonが利用できるため、スマートフォンとの連携がより簡単に。カメラを利用した機能としては離席すると画面が消え、近づくと画面オンとなります。
ディスプレイは液晶モデルに加えてOLEDモデルも用意され、こちらはIMAX Enhanced対応で動画閲覧に威力を発揮しそうです。スタンダードモデルがIPS液晶、パフォーマンス[プラス]モデルがOLEDです。以前のHPパソコンはB&Oスピーカーがウリでしたが、今回は傘下のPolyの技術が導入されました。
MPP 2.0アクティブペンに対応(16インチモデルは同梱、15インチモデルはオプション)。少々面白いなと思ったのは、ワイヤレスマウスも同梱されており、タッチパッドがあるのにマウスを追加購入することが多い現状に対応しています(Envy x360 14のIntel スタンダードモデルのみ同梱されません)。
重量は15インチモデルで1.39kg、16インチモデルは1.87kgと15インチなら持ち出せなくはないという重さです。
サステナビリティに関しては本体外装にはリサイクルアルミニウム、内部パーツにリサイクルプラスチックを採用。外箱とを緩衝材は100%リサイクル可能な素材を使用しており、EPEAT Gold with Climate+認証も取得しています。
本国開発に特にアピールした超軽量ノートを投入
法人向けPCに関しては岡氏が説明。ビジネス向けは2024年の第一弾として8製品を発表し、すべてAIテクノロジー内蔵となります。
岡氏が特に強調したのは、超軽量製品となるEliteBook 635 Aero G11です。日本が強く要請したことで開発され、世界も先行して販売されるモデルということで、発表会後に「売れてくれないと(今後開発リクエストが通りにくくなるので)困る」という本音も。
金属材料を多用することで頑丈性と持ちつつ約1kgを実現(注:公称値は1kgを超えていますが、検証機の実測値は1kg切りだったそう)。
ビジネス向けの上位製品がEliteBook 1040 G11で、最新のパワーとモダンデザインを両立したといいます。また冒頭に紹介されたESCチップの更新がポイントとなります。スタンダードとなるのが800シリーズで、こちらはIntel vPRO U/Hシリーズと管理性を上げているのが特徴で、EliteBook x360 830/830/840/860が投入されます。
モバイルワークステーションに関しては、Firefly G11とPower G11を投入。Power G11は新設計のデザインでポート数が多くなりました。ドックの類があまり好まれていないため、増やしたといいます。こちらもIntel版とAMD版が用意されています。
共通項目としてはHP Smart Senseの利用によって最大40%静か、最低でも40%パフォーマンス向上と製品にもAIを活用したことをアピールしていました。
Elite 1000/800シリーズとZBookシリーズはコラボレーション能力も強化。HP傘下にPoly(旧Plantronics & Polycom)を保有したことで、ビデオおよび音声コラボレーションに強いPoly製品との親和性と機能を追加しています。
具体的にはPoly Studioが含まれるようになり、AIノイズキャンセリングやダイナミックボリュームコントロールに加え環境光を感知してホワイトバランス調整を行う機能が入りました。これによりノートパソコンだけでも快適なビデオ会議が行えます。また、Poly製のヘッドセット等がワンクリックでペアリングできるようになっています。
もちろんNPUを搭載しているので、Windows Studio Effectsの背景ぼかしやオートフレーミング、アイコンタクト(よそ見をしていてもカメラを見ているように瞳を動かす)が使えます。
また、HPはリサイクル素材の幅広さに定評があります。製品によって異なりますが、最大で90%のリサイクルマグネシウム、21%のリサイクル食用油、30%の海洋プラスチック、そして今回リサイクル素材に漁網が加わりました。
法人向けモデルでは耐量子コンピューターセキュリティ搭載
少々わかりにくいセキュリティに関しては、大津山氏が補足解説しました。ESCはHPが独自に組み込んでいるセキュリティチップで、パソコンのハッキングを抑制するものです。
Gen5となったESCは「ポスト量子セキュリティ」に対応しました。電子署名は改ざん防止のための技術で、力任せに解こうとすると数万年かかるため、現実的には改ざんできないという事が前提になっています。
ところが、十数年後に実用化されるとされると言われている量子コンピューターを使うと、現実的な時間で改ざんできるという可能性が指摘されています(注:実用的な量子コンピューターには100万量子ビットが安定して動く必要があるといわれていますが、現在公開されている最大の量子コンピューターはまだ1000ビットにも到達していない上に、量子ビットの安定度も低く、現時点では問題になることはありません)。
セキュリティ業界ではすでに、量子コンピューターでも解読に膨大な時間がかかるであろう暗号化手法である耐量子計算機暗号(PQC)がいくつか定められており、今回Gen5でこの機能に対応しました。
現在実用になっていない量子コンピューターへの対応が今必要な理由は、量子コンピューターが犯罪者が悪用する前に、PQC対応製品のみが稼働している状況にしていなければならないためです。
また、ESC内に変更ログを記録していることが公表されました。ログを参照することでサプライチェーン攻撃を受けた際に有用といいます。サプライチェーン攻撃は近年問題になっているサイバー攻撃の手法で、取引のある企業を通じて攻撃するものです。
強力なハッキング耐性を持つESCは今後を考えると有用な技術だと思いますが、現状は企業向けモデルのみの搭載で、個人向けには想定されていないとのこと。個人でも法人モデルの購入はできるので、必要な人は法人モデルを購入してほしいとのことでした。