マウント・キンビー(Mount Kimbie)が4枚目のニュー・アルバム『The Sunset Violent』を完成させた。その最大のトピックは、ドム・メイカーとカイ・カンポスによるプロデューサー・デュオだったかれらが、ツアー・メンバーのアンドレア・バレンシー・ベアーンとマーク・ペルを迎えた4人体制となり制作された初めての作品であること。サウンドを特徴づけているのは、90年代のUSオルタナティヴやシューゲイザーにインスピレーションを得たギターのテクスチャーと、リンドラム(80年代のドラム・マシン)をフィーチャーしたプリミティヴで直線的なグルーヴ。ライヴ演奏を重視した3枚目『Love What Survives』(2017年)のアプローチを推し進め、結果、「バンド」としてのダイナミクスが全編を通じて強く感じられるのが新鮮だ。ドムとカイが個々に実験と探求を試みた前作『MK 3.5: Die Cuts | City Planning』をへて、いわば新たなデザインと動力を得て再集結したマウント・キンビー。「この作品は、僕たちにとって新たな方向性を示したものであり、18歳当時と変わらない興奮が息づいている」。そう語るカイと頷くドム、ふたりに『The Sunset Violent』の背景と制作のプロセスについて聞いた。
左からドム・メイカー、アンドレア・バレンシー・ベアーン、カイ・カンポス、マーク・ペル(Photo by T-Bone Fletcher)
─新作の『The Sunset Violent』は、マウント・キンビーが作った「ギター・ロック・アルバム」であり、これまでの作品との比較でたとえるなら「フォーク・アルバム」とさえ形容したくなるようなオーガニックでユーフォリックな手触りが感じられる場面もあります。こうした変化はどういったところから生まれたものだったのでしょうか。
カイ:このアルバムのサウンドに至る前から、自分たちの中では少しずつ変化してきていたという感じだね。1stアルバム(『Crooks & Lovers』、2010年)は現在に至るまで、僕たちが作ったものの中で最もエレクトロニックの要素が色濃いレコードだったと思う――アルバムに先駆けてリリースした2枚のEPはむしろアコースティック色が強いものではあったけどね。そして2ndアルバム(『Cold Spring Fault Less Youth』、2013年)は、よりソングライティングに重きを置いたものへとシフトしていって、3rdアルバム(『Love What Survives』、2017年)はレコーディングの段階からライヴ・バンドとしての側面が強くなり、それはアルバムづくりの後も継続している。今作は、その延長上にあるものなんだ。僕たちはよりミュージシャンの集合体というか、バンド形態で活動することに面白さを感じているし、それが今作のソングライティングにも反映されている。強いて言えば、今作はよりギターを前面に押し出した作りにはなっていると思う。このアルバムの曲のほとんどはギターで書いたものだし、そこに過去のリファレンスが散りばめられている。言ってみれば、”ロック”・アルバムなのかもしれないね。でも、どんな呼び方をしてくれても僕たちはハッピーだよ。
─今作にあたってふたりがシェアしていた、あるいは個々に持ち寄った音楽的なアイデアやコンセプトについて教えてください。
カイ:曲作りはお互いに各自でやっていて、それぞれが書いた曲を持ち寄って演奏してみて、というのを数回、断続的に重ねていってアルバムが完成したという感じで。ただ、今回はその間のインターバルがいつもより長かったね。前作のツアーをかなり長い期間やっていたから、ツアー終了後にちゃんと休もうというのもあったし、世界的なコロナ禍が思ったよりも長引いたというのもある。そうしたものが収束して、いざ新作を作ろうということになった時も、ドムはLAに住んでいたし、僕はロンドンを拠点にしていたからなかなか一緒の作業に入ることが出来なくて。なので、このアルバムはある意味、最も生活的にも社会的にも、カルチャー的にも断絶された中で作られた作品だと言えるだろうね。お互いが、今現在どんなものに興味があるのかもよく理解していなかった。だから一緒に作品づくりに入った時、まずはお互いの興味の中間点を探る必要があったんだ。敢えてどんなサウンドのレコードにしたいかという明確なヴィジョンを予め設けず、それについて話し合うことはしなかった。それぞれが違った視点のインスピレーションや、プロセスに対する異なる好奇心を持っていたことは間違いないよ。これまでの作品の中で最もそれが強かったね。
─なるほど。
カイ:僕自身で言えば、ソングライティングに対して出来る限りシンプルなアプローチをしてみたかった。もちろん、在る一定のクオリティはソングライティングに込めたかったから、それを両立させるにはどうしたらいいか考える必要があったんだ。ギターとリンドラムを通して、その解決の糸口が掴めた感じだった。
ドム:まず、カイのギター・サウンドを聴いたことで考えがクリアになったところはある。一緒に作業に入る前に、彼がギターで弾いたごく初期のラフなインストゥルメンタルのデモを送ってくれて。すごくシンプルなリフに、メロディとヴォーカルを書き足したら完璧にしっくりきたんだよ。だから、僕はカイのインストゥルメンタルにインスパイアされたと言えるだろうね。それに、長い間一緒にやっていなかったから新鮮さもあったし、それぞれが違う経験をしてきて、その経験を通して得た各々の知識をひとつにまとめて曲に込めるという作業が、本当に楽しくてエキサイティングだったんだ。
─「それぞれが違う経験をしてきて」というところでいうと、『Love What Survives』と今作の間には、ふたりが個々に制作した音源をコンパイルした――マウント・キンビーの「3.5枚目」のアルバムという位置付けの『MK 3.5: Die Cuts | City Planning』(2022年)がありましたね。
ドム:個々にアルバムを作るというやり方は、ある意味反乱に近くて、僕はとても難しく感じていたよ。これまで意識したことのなかった、音楽的に信頼出来る誰かと一緒に作品づくりをすることの素晴らしさを再確認したし、誰か頼れる人がいるというのは素晴らしいことだ。だから、あの作品は僕にとって大きな挑戦だったんだ。そうした経験や気付きをマウント・キンビーという生命体に吹き込むことが出来たのは良かったね。今作は、アンドレアやマークもより深く制作プロセスに関わったし、そうしたみんなの初期衝動や活気がアルバムの制作全体に行き渡っていた。『3.5』を作ることで、バンドとして作品を作ることがどんなに素晴らしいことか、再確認出来たことが最も大きな収穫だと思う。あれを経て、ここから新しいページ、新章を新鮮な気持ちで始められるということにとても興奮しているんだ。
サウンドの実験と探求、その影響源
─カイが話してくれた「ギター・サウンド」に関して言うと、今作はシューゲイザーやドリーム・ポップだったり、あるいは『C86』辺りのインディ・ロックも連想させる多彩なスタイルが特徴的です。制作過程でカイは「かつてないほどギターに手を伸ばしている自分に気づいた」とリリース・インフォにありますが、具体的に今作のギター・サウンドのアプローチはどういったものだったのでしょうか。
カイ:デモを作る段階から、ギターで曲作りを進めたんだ。スタジオではなく僕たちが借りた砂漠の一軒家でレコーディングをしたから、ギター・アンプは持ち込みたくなくて、ディストーション・ペダルを2つくらい、それに最も重要なのがAMS DMXというクラシックな80年代のディレイ・ユニットだね。個人的にはマーティン・ハネットの作品(ジョイ・ディヴィジョン『Unknown Pleasures』、ドゥルッティ・コラム『LC』他)がいちばん有名だと思うけど。とてもユニークなサウンドになるんだ。オーバードライブのギターをそれに通した。ギターのピッチを変えられるから、この手法はかなり使ったね。ディレイよりも、むしろピッチを変えることに使ったんだ。このユニットはステレオだから、ギターをモノで録音して、左右のピッチを変えることで壮大なサウンドになるんだよ。それに、アンプやマイクを通さないことでダイレクトに音が伝わるし、空気音が入らないからクリーンでアグレッシヴな音色になる。このやり方がすごく気に入って、楽器を演奏することの楽しさに繋がったんだ。
他には、色々なチューニングを用いたことかな。ほぼランダムにチューニングを変えてみて、どれがいちばんしっくりくるか試してみたんだ。その時に重要なのは自分の耳で、耳だけを頼りに音楽づくりをしたという感じだよ。これまで自分自身を「ギタリスト」と呼ぶことには抵抗があったんだけど、自分のやり方を模索して、ひとつのチューニングについて学んでリフを生み出すという意味では意義のあるものだったね。
─特にその手応えを感じている曲はどれでしょう?
カイ:アルバムが完成して、最初に聴き直した時、「Dumb Guitar」がこのアルバムの方向性……キャッチーさやポップさを体現する最も適した見本だという風に感じたかな。この曲が僕たちと世界やみんなを繋げてくれるような気がしてとても興奮したんだ。「Fishbrain」は同じような面を、より興味深く表現している曲だね。でも、このアルバムが完成してまだ日が浅いから、いつかライブの環境でみんなが一緒に歌ってくれる光景を見られたらなと楽しみにしているんだ。そういう経験は、これまでになかったからね(笑)。
─今作に関連してSpotifyで公開しているプレイリストには、インスピレーションになった楽曲として、フォールやソニック・ユースと並んで、ピクシーズやガイデット・バイ・ヴォイシズ、ラッシュといったアメリカのオルタナティヴ・ロックやUKのドリーム・ポップ/シューゲイズ・バンドが多く収録されています。今回の制作を通じて、ギター・ロックを「再発見」した、その魅力をあらためて実感した、といったような感覚が強くあったのでしょうか。
カイ:そうだね。このアルバムの制作にあたって、4〜5曲をまず固めて、他の曲をどのように制作していくかということを学ぶというか、そこにある要素をある意味コピーして他の曲に反映させていくというようなやり方をしているんだけど。そうした面で、ギター・ミュージックはスタジオで制作する原動力のような働きをしてくれたよ。音楽を制作することの楽しさ、より良い曲を作るための手助けしてくれたんだ。僕はギター・バンドが好きだし、僕たちはいろいろなスタイルの音楽に常に立ち返っているけど、良い曲というのは未来永劫残るものだと思っていて、そうしたソングライティングに関してはギター・バンドからインスピレーションを受けているよ。
─そうしたギター・ミュージックの魅力や、ギターを使って曲を作ることにあらためて惹かれたのには、何かきっかけのようなものがあったんですか。
カイ:2年ほど、エレクトロニック・ミュージックに特化して仕事をしていた時期があったんだ。同じことをずっとやっていると、何か他のことをやりたくなるというごく自然な反応がきっかけだったと思う。小さなことが積もり積もって、エレクトロニック・ミュージックにフラストレーションを感じるようになっていったんだろうね。同じように、エレクトロニック・ミュージックの世界に深くはまっていったのも、ギター・ミュージックに対するフラストレーションからだったんじゃないかな。だから、どちらが優れているかということではなくて、いろいろなフェーズのフラストレーションを乗り越えてきたことが、そうした音楽遍歴となって現れているんだと思うよ(笑)。
─7年前の来日時にインタビューした際、『Love What Survives』についてドムが「ソウル・ミュージックが重要な要素の一つだった」と話していて、オルガンにドラムマシーンの音を組み込んだり、スライ・ストーンのアルバムから面白いパターンを拾ってきたりしたと明かしてくれたのが印象に残っています。今回のアルバムでも、ビートやプロダクションの部分に関してそうしたリファレンスや新たなアプローチはありましたか。
ドム:僕もカイもリンドラムに惚れ込んでいたというのが大きいね。個人的には、始めにグルーヴ感が独特で面白いなと感じたよ。そこから、あまり複雑な手を入れることなく、ただ流れのままにそのビートに合わせてプレイしていったという感じなんだ。トリックを使う必要がないというか。その感じがすごくクールで、サウンドの持つ個性みたいなものがとても気に入っているよ。それとひとつ、僕もカイもお互いに共有し合っているのがソウル・ミュージックに対する愛情なんだよね。僕個人としては、あの時代のヴォーカルに影響を受けているよ。曲を書く時、そうした音楽の持つ記憶に残るメロディが多大な影響を与えていると思う。あの時代の音楽やメロディに僕が受けた衝撃を、僕らの曲を聴く人たちにも同じように感じて欲しいんだ。リズムやドラムに関しては、リンドラムはこのアルバムを制作する初期の段階から採用していて、アルバム全体の枠組みを形づくる存在だと思うね。
─リンドラムのどんなところに魅力を感じたんですか。
カイ:リンドラムの魅力は、サウンドをほとんどいじれないところかな。サウンドを微調整することがほとんど出来ないんだ。それと、どこか大胆な手触りがあって。人工的なところが、もはや面白いとさえ感じられてね。最初はひとつのオプションと考えていて、曲が出来たらリンドラムのパートは外そうと思っていたんだよ。実際にセッションしてみて差し替えをしようと思ったんだけど、でもその時点でリンドラムがサウンドの要になっていることに気付いてね。それで、デモで録音していたリンドラムのサウンドをそのまま再利用したんだよ。いろいろな機材を使うことの面白さは、例えばコンピュータだったらタイムコードを常にチェックして、全く同じパターンを繰り返すから違ったグルーヴやフィーリングを感じることはほとんどないと思う。でも、リンドラムにプログラミングすることで、面白いグルーヴを生み出すことが出来るんだよね。とても興味深いニュートラルな質感をサウンドに与えることが出来るんだ。
─ちなみに、カイは先ほどの7年前のインタビューの時、『Love What Survives』について「スライ・ストーンとスーサイドを自分たちなりにミックスした中間点がちょうどこのサウンド」という、とてもキャッチーな表現をしてくれて。それに倣うなら、今作についてはどう表現することができそうですか。
カイ:そうだな……クリーナーズ・フロム・ヴィーナス(Cleaners From Venus)とリル・アグリー・メイン(Lil Ugly Mane)の中間という感じかな。
─というと?
カイ:クリーナーズ・フロム・ヴィーナスはより分かり易いリファレンスだと思う。このアルバムを聴いたら、英国的な感性を感じ取ってもらえると思うから。それと、ドラム・マシンのDIY的な部分とギターとのコンビネーションもね。僕はデモづくりだったら、一日中座って続けられるけど、完成品にはそこまで興味がないんだよね。それと、ドムとリル・アグリー・メインを較べるつもりはないけど(笑)、より現代的でLAの雰囲気がヴォーカルに感じられるところ、プロダクション全体に目新しさが感じられるところがちょっと彼を想起させる気がするんだ。
─先ほどのプレイリストには、ウェンズデイのような現行のアメリカのインディ・バンドが収録されているのも新鮮でした。新たにプレイリストに追加したいアーティストは誰かいますか。
カイ:どうだろう……スティル・ハウス・プランツ(Still House Plants)を加えたいかな。彼らは、グラスゴー出身のとてもエキサイティングなバンドなんだ。アルバムのレコーディングに入る直前に彼らのライヴを観たんだけど、ギターについて違う角度から考えるきっかけを与えてくれたんだ。最終的には、彼らのサウンドとは似ても似つかないものにはなっているけどね。
ドム:それと、ティルザも加えたいね。彼女のヴォーカルは本当に素晴らしいんだ。彼女やミカ(・リーヴァイ)のヴォーカルは完璧ではないからこそ、クリエイティビティを引き立ててくれる魅力があると思う。彼女が音楽を創ることの楽しさを教えてくれて、それをレコーディングに持ち込むことが出来たんだ。彼女はインスピレーションを与えてくれる存在だね。あれこれ試しながら音楽を創ることの楽しさ、そこにあるハッピーな気分を思い出させてくれる。自分がやっていることを楽しめるのがいちばんだからね。もし、創っている過程を楽しめなければ、完成した音楽から幸せや満足感を得ることは出来ないから。ティルザの曲を聴いているとそれを実感するよ。
西海岸のスピリチュアリズム、キング・クルールへの信頼
─今回の曲作りの多くは、ユッカ・バレーというカリフォルニアの田舎町で行われたそうですが、そのユッカ・バレーを含むジョシュア・ツリー地域といえば、ドノヴァンやグラム・パーソンズをはじめ、60年代や70年代、それ以前に遡る時代からスピリチュアルなものを求めるミュージシャンやアーティストを惹きつけてきた場所でもあります。今作について、そうした土地柄や、アメリカ西部の自然と紐づいた文化や歴史みたいなものにインスパイアされたところもありましたか。
カイ:そうだね。あの土地は、さまざまな文化的側面について論及されているからね。カリフォルニア全体に独自のライフスタイルが根付いていて、それが多くの人たちを惹きつけていると思う。特に、太陽の光が他のどの土地にもないような存在感を持っている。LAは大都会だけど、わずかな距離を運転するだけで、自然と隔離された空気感の場所へと辿り着くんだ。LAの都会的な雰囲気と、それを取り巻く環境とのコントラストは本当に独特だと思う。逆に、そうした隔離された地域からLAへと入っていくと、まるで違う惑星に来たような衝撃があるよ。なにかのプロジェクトに集中して取りかかるのに最高の場所だし、一方でそれを取り巻く環境へと逃げ込めば、完全に姿を消してそこで生活を始められるような感覚にも満ちているんだ。多くのミュージシャンは、その両方を求めていると思うんだよ。人里離れた場所で、じっくり熟考する自分の時間を持ちたいし、その期間を満喫したあとは、自分が創ったものを他の人たちとシェアしたくなるものだからね。そういうものが、なぜこの土地が人々を魅了しているのかという答えになると思うけど。
─あからさまな形での「フォーク」や「サイケデリック・ミュージック」ではないにせよ、それこそプレイリストにも収録されているムーンドッグだったり、あるいはブライアン・イーノやデヴィッド・バーンのいくつかの作品におけるミニマル・ミュージックやアンビエント・ミュージックに流れるスピリチュアリズムやユーフォリックな感覚、フォークロア的な手触りみたいなものを、例えば「Dumb Guitar」や「Fishbrain」といった楽曲の背景や底流には感じたりもするのですが、いかがでしょうか。
カイ:そうしたスタイルやアーティストが、ごく初期の頃から僕たちの音楽、特にサウンドのディテイルに多大な影響を与えているのは間違いないよ。そうした遺産は、僕たちのプロダクションの根底にいつも流れていると思う。レコーディングする時はいつでも、リヴァーヴやディレイといった、アンビエント・ミュージックの痕跡がどこかしらに現れていると思うんだ。そういう効果が、いろいろな曲に質感を与えてくれていると思うんだよね。最終的にアンビエント・ミュージックとはまったく違ったサウンドになっていたとしても、そうした影響はどこかに感じ取れると思うな。「Shipwreck」なんかもその良い例だね。
─実際、ユッカ・バレーではスピリチュアルなものを感じる瞬間はありましたか。
カイ:そうだな……ヤバイ人と思われない言い方が難しいけど、エネルギーのようなものは確かに感じていたよ。それは必ずしもポジティブなものばかりではなくて、あの土地の持つ禍々しいエネルギーのようなものもね(笑)。そういうものが、空気の中に漂っているんだ。
ドム:(笑)分かるよ。谷間でUFOを見なかったか何度も訊かれたんだけど(笑)、むしろ説明のつかない電流というのかな。不思議なシュールレアリズムのような空気感をプラスしてくれたことは間違いないね。すごく興味深い土地だよ。それと、ちょっと奇妙で奇抜な人たちが人里を離れてそこで生活している。スピリチュアルな面で言うと、砂漠は平穏で長閑なところだし、僕たちが住んでいたところは主要幹線からも遠く離れた片田舎で、とても静かだった。夜には、借家の外にあるプールサイドに座って、静寂に包まれて時を過ごしたりしたよ。真夏だったからとても暑くて空気が重くて。カイが言うように、禍々しい空気を感じたのも確かだね(笑)。どこかコミカルな意味でね。
─今作には前作に引き続き、キング・クルールがヴォーカルで参加した曲が収録されています。彼とは創作をシェアする関係が長く続いていますが、キング・クルールというアーティストのどんなところに魅力を感じ、またどんなところに信頼を置いているのでしょうか。
ドム:彼がもたらしてくれる自然体のエネルギーに魅力を感じているよ。最初に会った時、すごく感動したのは、彼はつねに頭をフル回転させてアイデアを生み出していることだった。彼と一緒にいることがすごくプラスになっているよ。しかも、彼にはなにかを制作に持ち込んで欲しいとお願いしたことは一度もないんだ。むしろ、はじめから僕たちの制作過程の一部のような存在になっていて。同じスタジオを使っているし、同じミキサーにミキシングをお願いしているし、多くのものを共有しているというところも大きいだろうね。アーチーに僕たちが作ったものを聴かせて、彼が自分で「じゃあこれ」って選んで、そこからすぐにレコーディングを始めるという、とても流動的で自然な方法で一緒にやっているよ。僕たちは彼が作る音楽も大好きだし、そもそも大好きな友人なんだ。
─ここ数年、イギリスではロンドンを中心に若い世代のギター・ロック・バンドのシーンが活気付いていますよね。個人的に、マウント・キンビーが今のような「バンド」形態になり、ポストパンク的なエッジを纏うようになった『Love What Survives』にかけてのサウンドは、当時台頭し始めたロンドンのギター・ロック・シーンを先行するものだったと思うし、彼らを触発してきた部分も大いにあったように思います。逆に、そうした若い世代の動きに刺激を受けたり、実際にライヴを見たり作品を聴いたりして関心をそそられたりするようなところもあったりしますか。
カイ:もちろん、当時のギター・バンドの中には今でも好奇心をそそられる人たちもいるよ。でも、この新作ではそうしたシーンを大きく飛躍させた音楽からはかなり遠いところに前進していると思う。いくつかの曲にはその要素があるけどね。僕個人としてはテクノやクラブ・ミュージックの環境に身を置いていたことに対する反応から、クリエイティブな面でのフラストレーションを感じていて、何かまったく違ったものを作りたいと思うようになっていったところが大きいね。
ドム:そういえば僕たち2人とも、昔ウー・ライフというバンドがすごく好きだったのを思い出したよ。短い間しか活動していなかったんだけど、すごく良かった。バンド音楽はずっと好きだけど、違う方向に進んでいったのはごく自然な流れだったんだ。アンテナを敏感にしていれば、今のUKミュージック・シーンがすごくエキサイティングだというのはよく分かるけど、だからといって誰か特別なアルバムやライヴが僕たちの進化に影響を与えるということはないね。
─前作のリリース・インフォには「これまで自分たちの成功の基盤だったものをすべて払拭することから始まった」というカイのコメントが記載されていたのを覚えています。現時点で、今作を完成させたこと、またその内容や出来についてはどんな手応えを感じていますか。
ドム:かなり大胆なことを言ったね(笑)。
カイ:このアルバムに関して言えば、今は眼前に拓かれているすべての可能性に対してとてもエキサイティングに感じている時期、ということかな。どの曲もすごく楽しんで作ったし、リリースしてどんなリアクションが待ち構えているのかわくわくしているんだ。これから時間をかけて、自分自身でも違った楽しみ方が出てくることもそうだし、こんな素晴らしいことを職業にしていることに対する喜びを享受できることも楽しみだね。経験を積み重ねると、初期衝動のようなものを保つのがとても難しくなる代わりに、自信や客観的な視点というものを身につけていけるよね。その中で、アルバム一枚一枚が、最終的な目標を達成するための一歩ではなく、昔と変わらず自分たちが変わらず興奮して楽しめるものを作りたいと思っている。プロフェッショナルで輝きを失ったミュージシャンにはなりたくないからね。この作品は、僕たちにとって新たな方向性を示したものだと思うし、18歳当時と変わらない興奮が息づいている。そう感じることが、またこの作品に生命を吹き込むんだと思うよ。
マウント・キンビー
『The Sunset Violent』
国内盤CD:ボーナストラック追加収録、歌詞対訳・解説書
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