L'Rainが語る歌とサウンドコラージュの秘密、日本の音楽カルチャーに感動する理由

NYブルックリン出身のタジャ・チークによるプロジェクト、ロレイン(L'Rain)。2017年にデビューして以来3枚のアルバムを発表しており、様々なジャンルをコラージュした境界線を揺さぶるようなサウンドが高く評価されている。まさに新時代を象徴するアーティストの一人だ。5月20日(月)・21日(火)にビルボードライブ東京で待望の初来日公演を行なう彼女に、自身のバックグラウンド、歌とサウンドメイクの秘密、好きな日本のミュージシャンについてなど興味深い話をたっぷりと語ってもらった。

フリーフォームな音楽観の背景

─色々なジャンルの音楽がそこら中から聞こえてくるような環境で育ったと聞きました。最初に自分で音楽を作ろうと思ったきっかけを教えてください。

ロレイン:小さい頃からピアノをずっと習っていて。クラシック・ピアノを中心にやってたんだけど、その頃に弾いていた曲が自分が今やってる音楽のすべての土台になっていて……年齢で言うと5歳ぐらいかなあ……。あと笑っちゃうかもしれないんだけど、ピアノと同じくらいリコーダーに相当入れあげてて(笑)。バッハの楽譜を学校の先生に教えてもらいつつ、リコーダーの四重奏を組んだりして、そこから楽譜の読み方だとか、人と一緒に演奏する楽しみを教わったんだよね。それからラジオもよく聴いてた。当時流行っていたR&Bやヒップホップに夢中で。

─アーティストでいうと?

ロレイン:エリカ・バドゥ、インディア・アリー、アリーヤとか。ニューヨークにHOT 97っていうローカルのラジオ局があるんだけど、深夜枠で未発表の曲とか新人アーティストの曲を実験的にかけてて、それを夜更かししてよく聴いてた。そのラジオ局の周辺でかかってた曲がニューヨークのサウンドトラックみたいな……当時について思い出すと、R&B、ヒップホップ、あとはなぜか知らないけど、しっとり系のジャズが思い浮かぶ(笑)。自分がニューヨークに住んでる当時、ラジオからかかってたのがそういう曲だったから。

あとは、もともと歌うことが好きで、適当に歌を作って口ずさんでるような子どもだったから……胎教の効果もあるのかも、母親が妊娠中にもずっとお腹の中にいる私に自分の好きな音楽を聴かせてたらしくて(笑)。生まれてからどころか、生まれる以前から身近に音楽があるような環境で……今言ったクラシック・ピアノとラジオから流れてくる曲は、自分の音楽にかなり大きな影響を及ぼしていると思うよ。

Photo by Tonje Thilesen

─高校時代はアイアン・メイデンのカバーバンドで演奏したそうですね。

ロレイン:そうそう(笑)! 高校になってから初めてバンドに入って……ちなみに、バンド名はSuper Tasty(”激ウマ”の意)だった(笑)。ベースの子がアイアン・メイデンの大ファンで、私はそのバンドに入ったのがきっかけで初めて知ったんだけど、このバンドに入ったことでベースの良さを実感するようになったりして。それから当時は、学校で音楽をダウンロードして聴くっていうのが流行ってた時期で。たくさんの音楽にアクセスできる状態にあって、好奇心が止まらないものだから「とりあえず全部知っておきたい!」ってスポンジみたいに吸収していくような感じだった。

─それと同時期に、アニマル・コレクティヴに影響されたプロジェクトにも取り組んでいたそうですね。その後、一緒にツアーを廻ったりもしてますが、彼らにはどのような影響を受けていますか?

ロレイン:彼らに関しては現在進行形でインスピレーションを受けまくってる。アニマル・コレクティヴがいなかったら、自分は今みたいな音楽をやってたのかな?って本気で思うもの。彼らが背中を押してくれた。まだ大人になって色々知る前に彼らの音楽に触れて、そこで覚醒しまくったというか……あんなに難解でわかりづらい音楽を作っているのに、しかも、あれだけ色んな音楽を引用しているのに、それがすんなり受け入れられているっていう。それが自分に響いたんだよね、カッコよすぎるでしょ……その領域に自分も足を踏み入れてみたいと思ったわけ。当時のガチガチな自分の頭からしたら「そんなことやっちゃっていいの?」「さすがにそれは個性的すぎじゃない?」みたいな感じだったけど(笑)……本当に勇気づけられたな。

それでアニマル・コレクティヴのステージをYouTubeでチェックしたら、メンバー全員ともお面を被ってて、「こんなの見たことない!」ってくらい衝撃的だった。そんな人たちと今では親しくさせてもらってるんだから「人生どうなっちゃってるのんだろう?」って思うけど(笑)、そこはあまり考えないようにしている。だって、それくらい自分にとって思い入れが強いバンドだから。

─アニマル・コレクティヴの音楽と出会ったのは何歳くらいのとき?

ロレイン:高校生だったのは覚えてる……だから14、15歳かな。学校の隅っこの方にいたら友達が通りかかって「ねえ、新しいバンド見つけたんだけどマジでいいから聴いてみて!」って。そのせいで授業に遅刻したくらい、音に入り込んでしまい、その場から動けなくなっちゃって……数学の授業に行く途中、学校の廊下で……それまで自分が聴いてきたどんな音楽とも違っていて、まさに魅了された。

─そこから現在の音楽スタイルに至るまでの経緯はどのようなものだったのでしょうか?

ロレイン:さっきも言った通り、もともとクラシック・ピアノをずっとやってて、一生懸命練習して、ミスもたくさんしつつ……とやってるうちに、楽譜どおりの音よりもミスした音のほうに興味があるなってことに気がついたの。ミスから新しいハーモニーを発見したり、断片だけ拾ってみたりするのが楽しくて、その全体のほんの一部を何度も繰り返し弾いて耳に焼きつけるってことをしてたんだけど、そうした作業を通じて「聴く」っていう行為が自然と身についた感じ。

そこから自分なりにアレンジして曲を書くようになって、それを続けていくうちに、ジャンルが異なるとされる音楽も、実は繋がりがあるんだなってことに気がついて……特にバロック音楽とR&Bとか、それってたぶんゴスペル・ミュージック繋がりなんだよね。バロック音楽もゴスペルも、もともとは教会で演奏されてきた音楽じゃない? あのハーモニーがたまらなく好きで、この世のものとは思えないほど美しいなって。それで自分の頭のなかで色んなジャンルの音をかけ合わせたり関連づけるクセがついて……他の人には全然理解できないかもしれないけど……それは周りからもしょっちゅう指摘されてる。iPhoneのフィルター機能ってあるでしょ? あのノリで「タジャ・フィルターがかかってるね」みたいな(笑)。自分のフィルターを通すと、なぜかそういう解釈になっちゃうっていう(笑)。

2ndアルバム『Fatique』(2021年)収録の「Two Face」

─あなたの作り出すサウンドはR&Bやヒップホップ、ジャズ、ロックなど多様なジャンルの要素が混在していますが、なんと形容されるのがしっくりきますか?

ロレイン:自分でもいまだに謎なんだよね。むしろ、他の人が自分の音楽を聴いてどういう印象を抱くかに興味津々なくらい。誰かの感想を聞いて「そっか、なるほど」って気づくことが山ほどある。だって自分でも説明に苦労するサウンドだから……えーっと、以前言われたものだと「アリス・コルトレーンがソニック・ユースを演奏しているみたい」って形容はすごく印象的だった(笑)。

─(笑)ジャンルという枠組みとはどのように向き合っていますか?

ロレイン:ジャンルが果たしている役割も確実にあると思うんだよね。そこからコミュニティが広がっていったりするから。あるいは、それがアイデンティティにも繋がったり、歴史に繋がったりもする。そういうのって大切なことだと思うから。ただ、音楽業界的な視点でいうと、ジャンルって何かを売りつけるために利用されがちで(笑)、個人的にそっちは一切興味がないわけ。

なので、自分はジャンルってものに捉われないようにしている。ジャンルに縛られず、ただ自分にできる一番フリーフォームな音楽を作れたらいいなっていう思いで……あとはジャンルにこだわると、それ自体が先入観となって足かせになることもあるじゃない? 最初に「ロック」と言われたらロックのフィルターがかかっちゃって、本来自分がその音から受けるはずの印象がブレてしまう人もいると思うから。だから、あえて意識を向けて聴かないといけない音作りを心がけている。ジャンルからの印象ではなく、まっさらな状態で自分の音楽と直にアクセスしてほしいから。

─あなた自身が繋がりを感じる「歴史」とはどういうものでしょう?

ロレイン:私の音楽を聴いてジャズの影響を感じるっていう人がよくいるんだけど、それは自分のなかのジャズをリスペクトする気持ちから来ているんじゃないかと思う。私自身、ジャズに関してはほぼ素人なんだけど、それでも自分にとって重要な音楽であることはたしかだし、実際にジャズは世界中の音楽に今でも大きなインパクトを与え続けている。それと同じことをヒップホップにも感じるし、R&Bにもロックにも感じる。今挙げた音楽はどれもアメリカの黒人の伝統に深く関わってきた音楽でもあるし……そう、昨日(取材日の前日)もちょうどそのことについて考えていたの。大胆で勇気ある人々が、その優れた音楽スキルと果てしない想像力を惜しみなく発揮して、彼らのなかにある素晴らしい音楽を形にし、それが大きくなって最終的には一つの音楽ジャンルになったんだなって……しかも、それがカルチャーにまで発展し、世界中に広まっていったという……考えてみたらすごくない(笑)? それって素敵で尊いことだし、まさに音楽が世界や人々にどれだけ力を与えるものかを実感させられるというか、どんなに力強くて勇気づけられることか。

実験性とポップが交差する瞬間

─「LRain」というアーティスト名の由来は?

ロレイン:1stアルバム(2017年作『L'Rain』)を作り終えたときに名前を決めてなくて……いや、あるにはあったんけど、どうもしっくり来ないなあと思って、新しい名前が必要だなと思ったの。当時はAstro Nauticoっていう地元ニューヨークの小さいながらも素敵なレーベルに所属してたんだけど、そこのスタッフから「作品をリリースするならアーティスト名があったほうがいいよ」ってやんわりと促されて(笑)。それでブリックリン橋を一人で歩きながら……ブルックリンとマンハッタンの間を何度も往復しながら、名前を考えなくちゃって歩いてたんだよね。

ちなみに、自分のなかのオルターエゴというか、もう一人の自分の名前が「L」にアポストロフィの「L'」で、母親の名前がロレイン(Lorraine)なんだよね。つい最近亡くなったばかりなんだけど。だから、LRainってアーティスト名には母親への敬意も含まれている。それで後戻りできないように、「LRain」のタトゥーも入れて(笑)。1stアルバムのジャケットは、そのタトゥーの写真を使っている。覚悟の意思表示として。あのジャケット写真は、タトゥーを入れて本当にすぐ撮ったもの、自分の人生のスナップショット的な一枚なんだ。

─音楽性の話でいうと、何層にも重ねられた声のレイヤーがもつ美しさが魅力の一つだと思います。まるで楽器のように声を扱っているような印象です。

ロレイン:嬉しい。今言ってくれたのはまさに、自分のボーカルに対するアプローチそのものだから。本当に声を一つの楽器みたいに扱っているつもり。声と声を重なり合わせることで生まれる感覚にすごく興味がある。だから自分で曲を書くときも、ボーカルを一つだけって想定していることはほぼなくて。色んな声がたくさんあって、それがお互いに呼応し合っているのを聴くのが好きなんだよね……その一つ一つの声の色合いの違いなんかを味わってみたい……そのいくつもの小さな声のなかにも色んな違いがあって、ピッチやトーンなどにもちょっとした違いがあったりして、そこにワクワクしてときめいちゃう。それに自分はシャイだから、味方が大勢いたほうが心強い(笑)。

そもそも声ってすごくパーソナルなものじゃない? その人自身がそのまま楽器になるって、ものすごく個人的な行ないでもあって、ときどき不安で怖くなることもある。それでもたくさんの声が後ろについてたら、少しは恐怖心が薄れるじゃない? 自分一人じゃなくて、友達みんなが後ろについているみたいな感覚だね(笑)。

─その歌唱表現に影響を与えたシンガーは誰か思い当たりますか?

ロレイン:どうなんだろう、難しい。そもそも自分は歌い手なんだかどうか……あ、自分の声で実験するのは本当に好きなんだよ? でも、自分が歌い手であるって意識はそこまで強くなくて。もちろん大好きなボーカリストはたくさんいる。一時期はジャズミン・サリヴァンの映像を観まくってた! もちろん、自分の歌と彼女の歌はまるで違うし、足元にも及ばないんだけけど本当に最高! 彼女の歌が素晴らしいのはもちろんだし、自分の歌や声について語っている映像も好きで、どれだけ真摯に自分の声に向き合い、その可能性をどうやって広げているのかっていうのにインスパイアされまくって。一時期、彼女の動画ばかり観てたくらい。

2ndアルバム『Fatique』(2021年)収録の「Blame Me」

─あなたの作る音楽には、過去に収録した音源やフィールドレコーディングした音などが複雑に切り貼りされたコラージュアートのような面白さがありますが、どのようなアイデアからあのような仕上がりになるのでしょう?

ロレイン:そこを指摘してくれて嬉しい。私自身、曲作りに対してコラージュ的なアプローチで接していることが多いかも。こうして人前で表現しているプレッシャーゆえに……プロの音楽家としてやるなら何もかも完璧でなくちゃいけない、技術的にある程度のレベルに到達してないといけないみたいなプレッシャーを感じることもある。ただ、毎回それに応えるってしんどいし……だったら、コラージュみたいな形にしちゃえっていう。最初から完璧であることにこだわらず、自分だけのパーソナルな表現にしようって。それこそ直感だけがすべてみたいな……それはニューアルバムにもインタールードという形で出ていると思う。もはや曲ですらない、めちゃくちゃ短い断片とか入っているしね。それもやっぱり今言ったのと同じ気持ちから生まれたもので。というか、純粋に楽しいじゃない? 体裁に捉われず、ただクリエイティブであることのほうが、完璧であることよりもよっぽど楽しい。

─あなたの作品では、そういった20秒にも満たない曲から6分超の長尺曲まで、アルバム全体が1つの曲であるかのようにシームレスに繋がっていますよね。

ロレイン:そうなの。毎回ベンジャミン・カッツとアンドリュー・ラピンっていう2人の親友、自分の音楽人生にとって一番のコラボレーターである2人と一緒に話し合いながら作っているんだけど、特に曲順はものすごくこだわっていて。曲が完成する前から順番が決まっていることもあるくらい(笑)。アルバムを聴いた人がどんなリスナー体験をするのか考えながら作っているから。時代遅れって言われるかもしれないけど、私は今でもアルバム信奉者なんだよね。アルバムの最初から最後まで一つの作品として流れるようにしたい。

─2ndアルバム『Fatigue』収録の「Find It」で、ゴスペルの名曲「I Wont Complain」の一部が使われていたのが印象的でした。ゴスペル音楽と自分の音楽の関連性について教えてください。

ロレイン:私自身がゴスペルに魅了されてきたから。子供の頃からゴスペルに親しんできたわけでもないし、教会にも通ってなかったけど、地元のブルックリンにいくつも教会があって、日常的にどこかからゴスペルが聞こえてくるような環境ではあったんだよね。実際、何度か観に行ったこともあるし……なかでもブルックリン・タバナクル・クワイアっていう地元で有名な合唱団があって、それが本当にいいの。もう圧倒的で、言葉を失うくらい。あとはオルガンが使われているのも個人的にグッとくるポイントで。そこでまたバッハの曲を思い出しちゃう。バッハの曲って、もともと教会のために書かれた曲だからね。ゴスペルのハーモニーとバッハは通じ合っている気がする。

ゴスペルに惹かれるもう一つの理由は、歌い手たちの溢れんばかりのエモーション。もうまさに身体の中から湧き起こってくるみたいな……自分たちの肉体以外の一切に頼らず、身体を震わせることですべてを表現しているっていう。それと、ゴスペルでは女性が先頭に立ってオルガンを弾いて歌ってるでしょ? それが当たり前のように。ゴスペル以外で、そこまで女性にスポットライトが当たっているジャンルってないと思うから。自分はゴスペルにそこまで詳しくないから、今のはお子様的でナイーブな意見かもしれないけど、好きなゴスペルのミュージシャンは大半が女性でオルガン奏者だったりもするから。そこがすごくいいなって。

─最新アルバム『I Killed Your Dog』のコンセプトを改めて教えてください。

ロレイン:まずはタイトルだけど(笑)、人間関係についてぶっちゃけたかった。自分が作っている音楽って、どうも知的なものだと思われている節があって……「一生懸命、頭で考えて作った音楽なんだね」みたいにレッテルを貼られがちだけど、全然そういうのとは違う。自分の感情のなかから生まれた音楽だから……普通に生きてれば誰もが通る経験を元にしているもので、それこそ人間関係についてだったりする。それは恋人との関係かもしれないし、大切な友達との関係かもしれない……色んな関係性があるけど、生きていれば誰もが経験することだと思うから。それなら誰でも共感できると思ったの。終わりを迎えるときって辛いよね、もうどんなに苦しいか……その感覚をタイトルにもほんの少しだけ、スパイス的に取り入れてみたかったの。その結果、あんな毒のあるタイトルになっちゃって!

─(笑)。

ロレイン:それでもいいから感情をかき立てたかった。あと、自分なりに意味を考えたかった……自分の愛する人や隣人を傷つけてしまうことって、生きていれば往々にして起こってしまうから……そう、アルバムの根底にあるのはそういう想い。ちなみに、私は犬好きだから(笑)。いい人アピールするみたいだけど(笑)。スタジオのなかに何匹も犬がウロウロしているような環境だったんだよね。周りもみんな犬好きだし。私も最近になってから犬を飼い始めたんだよね。そういうのもひっくるめて全部象徴しているタイトルなんだよ(笑)。

─実験的でありながらポップな質感もある楽曲が並んでいて、特に「Pet Rock」はロレインなりのポップミュージックを鳴らしているような印象を受けました。ご自身のなかでポップな音楽を作ろうという意識はあったのでしょうか?

ロレイン:私がカルチャーにおいて興奮するのは、アンダーグラウンドの風変わりなアイデアがメインストリームを凌駕する瞬間なんだよね。メジャーとマイナーが交差する瞬間にすごく興味があって、それを実際にやってのけるアーティストに魅了されてしまう。それこそ、さっきも話した敬愛してやまないアニマル・コレクティヴなんかにしろね。独特すぎる美学を貫きながら、普通に親しまれていて……もう正に、それを自分の音楽でもやろうとしている。それこそビョークもそうだし、レディオヘッドがあれだけポピュラーになったのとか考えてみれば謎すぎる。超快進撃だよね、あれだけ奇妙で美しい音楽が受け入れられているって(笑)。だから、自分のキャリアにおける野望の一つは、超ビッグなプロジェクトに関わりつつ思いっきり変化球をかますっていうこと(笑)。ああ、大事な人を忘れてた。アンドレ3000というかアウトキャスト! あんな変てこりんな音楽が万人に受け入れられているってあり得ない、大好き!

─あなたの書く歌詞や楽曲のタイトルは、聴いていてドキッとさせられたり、心地のいい違和感や矛盾を感じる、不思議なテイストのものが多い印象です。歌詞を書いたりタイトルを決めるときのプロセスやルールがあれば教えてください。

ロレイン:歌詞に関してはパッと思いついちゃうところもあって。最初に歌詞を書き始めた頃は、真っ先に浮かんだ言葉をそのまま歌詞にしていた。それが自分に降りてきたリアルな言葉だから。そのあとザ・ストロークスのジュリアン(・カサブランカス)のインタビューだかを読んで、ジュリアンも歌詞についてたまにそういうことがあると発言していたから、お墨付きをもらったような気持ちになった。彼がそう言うなら間違いないって(笑)。

でも、歌詞って本当に不思議。パッと思いついちゃうこともあるし、コンセプトについてじっくり考えながら書くこともある。あと、それこそ純粋に言葉の響きだったりもする。「a」の音か「o」の音か、何音節でどういうリズムの言葉かっていう、要するに語呂合わせだよね(笑)。言葉としての響きと意味とをマッチングさせていくみたいな。だから、まだ一言も歌詞を書いてないんだけど、言葉の響きだけは完璧に出来上がっている、みたいなときもある。そういう場合は音を頼りに、後から言葉を当てはめていくようにしている。

初来日公演に向けて、日本の音楽カルチャーへの興味

─今回が初来日となりますね。

ロレイン:そうなの、もうドキドキ(笑)。昔からずっと日本に行きたいと思ってたから。日本には素敵な音楽好きの人たちがたくさんいると知ってるから……みなさんの気持ちに応えたい、ベストのライブをお届けしたい。もう本当にその気持ちだけ。

─あなたの楽曲はライブで演奏するのが難しそうなものも多い気がしますが、制作段階からライブでの演奏は意識しているのでしょうか?

ロレイン:スタジオとライブは私のなかでまったくの別物なんだよね。スタジオは独立した空間で曲を生み出す場所で、曲作りもほぼ自分一人でやってるし、すごく親密な場というか。一方で、ライブはもっとオープンなコラボレーションの場っていう感じ。ライブ専用のミュージシャンを雇う人もいるけど、私は普段から一緒にいて居心地のいい人たちに囲まれていたいから、友人どうしが集まって一緒に音を鳴らす感覚を大切にしていて。お互いの信頼関係が根底にあるから、バンドメンバーにも自由にやってほしいし、「自分の個性をどんどん出してね」といつも言ってる。だから、そのとき演奏するメンバーによってまるで違う曲になるんだよね。楽譜をなぞるというより各々の解釈で演奏してもらっているから、私自身ものすごく新鮮だし、曲の新たなバージョンに出会えるチャンスみたいに思ってる。自宅でアルバムを聴くことでは味わえない、特別な空間を体験してもらいたいから。

ライブに関しては、ベンジャミン・カッツのアドバイスが大きかった。ステージに立ち始めた頃は、自分のバンドもなかったから毎回違う人たちと演奏していたんだけど結構苦戦して。そうしたらベンに「これだけ一筋縄でいかない音楽をやってるんだから、そりゃ当然だよ」と諭され(笑)、「ちゃんと自分のバンドを立ち上げて、自分の音楽を理解してもらったうえで一緒に育てていかないと」と言われたんだよね。あのアドバイスには本当に感謝している。

─今回の来日公演は、そのベンジャミン・カッツ(音楽監督:Key, Sax)に加えて、Strugglin'という名義で実験的サウンドを手がけるジャスティン・フェルトン(Gt)、カマシ・ワシントンやアンブローズ・アキンムシーレ、ミゲル・アットウッド・ファーガソンとも共演したことがあるティモシー・アングロ(Dr)も参加するそうですね。

ロレイン:それぞれ自分でも音楽を作っていて、色んなところでコラボしていて、私も純粋にファンとして聴きに行ったりしている。みんなが関わっている音楽も、奏でる音も、ミュージシャンとしての心意気も大好き。本当に特別な3人だよ。

ベンジャミン・カッツ、ティモシー・アングロが参加したライブ映像

─日本の音楽にも興味はありますか?

ロレイン:コーネリアスが好きで、彼と同時期の周辺アーティストにもすごく興味があって……日本で高く評価されて、そこからキャリアが開けていった話も気になる。日本のあるレコードコレクターがビヴァリー・グレン・コープランドの作品を猛プッシュして、それがきっかけで広く聴かれるようになった、みたいな……あと、ASA-CHANG&巡礼も大好き。初めて聴いたときから脳味噌爆発!みたいな。ディープなレベルでインスピレーションをかき立てられる。YMOもそうだし、メンバー3人のソロ作も好きでよく聴いてた。本当にキリがないね(笑)。日本に行くのが待ちきれない、今からもう大興奮。日本のカルチャーなのか風土なのか、音楽への愛情をすごく感じるんだよね……それにすごく感動してしまう。アメリカの音楽業界にいると、そういう気持ちを忘れてしまいそうになることもあるから。本当に今から楽しみ。日本で心から音楽を愛する人たちと同じ空間を分かち合いたい。

─現在廻っているUK/EUツアーでは、大森日向子さんがサポートアクトとして帯同していますよね。

ロレイン:日向子の音楽も、楽器に対するアプローチもすごく好き。本当に素敵なアーティストだと思う。私も一緒にツアーしながら彼女のパフォーマンスを近くでずっと観ているけど、場をコントロールする力が凄まじい。たった一人でステージに立って全部自分でコントロールするとか、どれだけ難しいことなんだろう?って思うけど、彼女は見事にやってのけるんだよね。あと、彼女の持つサウンドがまた素晴らしい! まさにピンポイントでツボを突いてくる感じ。シンセサイザーって割とポピュラーで誰でも気軽に弾けるものだけど、音を聴き分ける能力にものすごく特化した耳を持っているんだろうね……その曲にふさわしい最適解をいつも掘り当てている。すごく特別なアーティストだと思う。もちろん人間的にも素敵で、一緒にツアーを廻っているからみんなで旅の一座みたいになるわけじゃない? 最高に素敵な旅の仲間だよ(笑)。

─素敵なお話をありがとうございました。

ロレイン:こちらこそ、楽しかった!

ロレイン来日公演

2024年5月20日(月)・21日(火)ビルボードライブ東京

1st Stage 開場17:00 開演18:00

2nd Stage 開場20:00 開演21:00

サービスエリア¥8,200-

カジュアルエリア¥7,700-(1ドリンク付)

>>>詳細・チケット購入はこちら

L'Rain Asia Tour

15/05/2024 (Wed) VASLIVE 瓦肆现场 - Shanghai, China

16/05/2024 (Thu) Mao Livehouse - Guangzhou, China

17/05/2024 (Fri) KT&G Sangsangmadang - Seoul, South Korea

『I Killed Your Dog』

ロレイン

発売中

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