今春、新たな門出を迎えた新社会人の皆さんにとって、初めてもらうお給料は感慨深いものでしょう。お世話になった人へのプレゼントを買ったり、自分へのご褒美を買ったり、初任給の使い道を考えるのは楽しいものです。しかし、給与明細を見て、「あれ? 思ってたのと違う!」とならないように、額面から何が引かれて手取りになるのか、給与明細の見方を確認しましょう。給与明細の見方がわかれば、そこから社会の仕組みが読み取れるようになりますよ。
給与明細の見方
会社によって給与明細の形式は異なりますが、多くの給与明細は次の3つの要素で構成されます。
- 1. 勤怠
- 2. 支給
- 3. 控除
1. 勤怠
勤怠の欄には、働いた実績が記載されています。勤務日数、労働時間、欠勤日数、有給取得日数、残業時間、深夜残業時間、休日労働時間、有給残日数など、ここに書かれている数字をもとにして給与金額を計算します。そのため、給与明細をもらったら、まずはここの数字が間違っていないか確認しましょう。確認する際に気を付けたいのが、締め日と支払日です。会社によって異なりますが、たとえば15日締め日、25日支払日であれば、前月16日から当月15日までの働いた分の給料が当月25日に支払われます。
2. 支給
支給の欄には、勤怠に記載された実績をもとに計算した金額が書かれています。基本給と手当で構成され、これらを合計したものが総支給額になります。
基本給とは、各種手当を除いた給与のベースとなる固定賃金のことで、年齢や勤続年数、経験や仕事内容などをもとにして決められます。
手当には、時間外手当、役職手当、資格手当、通勤手当、住宅手当、家族手当などがあります。通勤手当は、社会保険料の計算の際には、月給(標準報酬月額)に含めますが、所得税の計算では、所定の金額まで非課税となるため、総支給額から差し引きます。
3. 控除
控除の欄には、給与から差し引かれる社会保険料や税金が記載されています。社会保険料は、健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料、雇用保険料です。税金は所得税、住民税が記載されています。総支給額から、これらの控除の合計額が差し引かれて、差引支給額として給与口座に振り込まれます。これが手取り(可処分所得)となります。
控除の金額はどのように決まる?
総支給額から社会保険料や税金などが控除されて手取りとなりますが、控除の種類と金額を詳しくみていきましょう。
*健康保険料
健康保険は、会社員や公務員が加入する公的医療保険です。本人とその家族がケガや病気をしたときに、保険給付が行われます。健康保険料は、月給(標準報酬月額)および賞与(標準賞与額)に保険料率をかけて計算します。保険料率は加入している健康保険組合によって異なります。ここでは、全国健康保険協会(協会けんぽ)の令和6年度の東京都の保険料率を紹介します。
<協会けんぽ/令和6年度(東京都)の健康保険料率>
9.98%
保険料は会社と折半して負担するため、従業員の負担は4.99%となります。
月給20万円の会社員は、20万円×4.99%=9,980円となります。
*介護保険料
介護保険は、老化によって介護が必要になったときに、給付や支援が受けられる制度です。
40歳以上65歳未満の人は、健康保険料に介護保険料が上乗せされます。介護保険料も健康保険組合ごとに異なります。全国健康保険協会(協会けんぽ)の令和6年度の東京都の介護保険料率は1.6%となっており、健康保険と合わせて11.58%となります。
<協会けんぽ/令和6年度(東京都)の介護保険料率>
1.6%
保険料は会社と折半して負担するため、健康保険と介護保険を合わせた従業員の負担は5.79%となります。
月給20万円の40歳以上の会社員は、20万円×5.79%=1万1,580円となります。
*厚生年金保険料
厚生年金は、会社員や公務員が加入する公的年金制度です。厚生年金に加入することで、国民年金にも加入していることになり、国民年金(基礎年金)とその上乗せである報酬比例部分の年金を受け取ることができます。厚生年金保険料は、月給(標準報酬月額)および賞与(標準賞与額)に保険料率をかけて計算します。保険料率は、現在18.3%で固定されています。
<厚生年金保険料率>
18.3%
保険料は会社と折半して負担するため、従業員の負担は9.15%となります。
月給20万円の会社員は、20万円×9.15%=1万8,300円となります。
*雇用保険料
雇用保険は、失業時に受け取れる失業保険の給付や職業訓練のための給付などを行う制度です。令和6年度の労働者負担の雇用保険料率(一般事業)は0.6%です。
<雇用保険料率/一般・労働者負担>
0.6%
月給20万円の会社員は、20万円×0.6%=1,200円となります。
*所得税
所得税は、1年間に得た所得に対して課税される税です。会社員の場合は、毎月の給与や賞与から所定の方法により計算した所得税額が天引きされ、会社が納税者本人に代わって国に納付します。この仕組みを「源泉徴収」といい、源泉徴収された金額に過不足があった場合は、「年末調整」によってその年の最後に精算します。
令和6年分の源泉徴収税額は、国税庁の「給与所得の源泉徴収税額表(令和6年分)」に、次の金額を当てはめることで求めることができます。
その月の総支給額から、通勤手当(非課税となる額)と社会保険料を差し引いた金額
たとえば、その月の総支給額が20万円、通勤手当が2万円、社会保険料が2万9,500円だった場合、15万500円がその月の社会保険料等控除後の給与等の金額になります。
扶養親族がいない場合、2,980円が源泉徴収税額として、給与から天引きされます。
*住民税
道府県民税と市町村民税を合わせて住民税といい、その年の1月1日時点の住所地で前年の所得に対して課税されます。住民税は、前年の所得をもとに課税される「所得割」と、所得にかかわらず均等に徴収する「均等割」で成り立っています。所得割は一律10%(道府県民税4%、市町村民税6%)です。均等割は令和6年度以降、5,000円(都府県民税1000円、市町村民税3000円、森林環境税1000円)です。
会社員の場合は、特別徴収となり、その年の6月から翌年の5月までの12回に分割して給与から天引きされます。前年の所得がない新入社員は住民税の徴収はなく、2年目の6月から徴収されます。
月給20万円の新入社員の手取りは?
控除の内容がわかれば、支給額から控除を差し引いて、実際の手取りを計算することができます。月給20万円の新入社員の手取りを計算してみましょう。
<条件>
東京都に勤務の新入社員のAさん(23歳)独身
総支給額20万円(うち通勤手当2万円)
健康保険料: 9,980円
介護保険料: なし(40歳未満)
厚生年金保険料: 1万8,300円
雇用保険料: 1,200円
所得税: 2,980円
住民税: なし(前年の所得がないため)
20万円(総支給額)-3万2,460円(控除の合計額)=16万7,540円(手取り)
月給20万円の新入社員Aさんの手取りは16万7,540円となりました。
2年目はいくらになる?
Aさんは新入社員なので、住民税の徴収はありませんでしたが、2年目からは住民税が引かれます。2年目の手取りがどう変わるのか計算してみましょう。
<条件>
月給20万円(ボーナスなし)、その他の条件に変更なし
年収240万円−給与所得控除額80万円=給与所得160万円
総所得金額160万円−所得控除78万3,760円(社会保険料控除35万3,760円+基礎控除43万円)=課税所得81万6,000円(1,000円未満切り捨て)
*所得割
区民税: 課税所得81 万6,000円×6%-1,500円(調整控除)=4万7,400円(100円未満切り捨て)
都民税: 課税所得81 万6,000円×4%-1,000円(調整控除)=3万1,600円(100円未満切り捨て)
*均等割
5,000円
所得割と均等割を合わせて、住民税は8万4,000円となります。
12回に分割して徴収されるので、住民税はひと月7,000円となります。 よって、2年目は手取りが7,000円減って、16万540円となります。
まとめ
給与の額面(総支給額)から、社会保険料と税金が引かれて手取りとなりますが、社会保険料や税金の計算が難しいと感じる人もいるでしょう。社会保険料の従業員負担は、健康保険組合などによって異なりますが、協会けんぽの場合、介護保険料「なし」の場合は14.74%、「あり」の場合は15.54%なので、ざっくりと社会保険料の金額を知りたい人は月給の15%と計算するといいでしょう。
また、月給20万円の手取りを試算した結果、16万7,540円、2年目からは16万540円となったことから、額面のおよそ80%が手取りになるとわかります。この割合は年収や家族構成、各種控除によって変わってくるので、一概には言えませんが、大まかに手取りを出したい場合に知っておくと便利です。