ショップでモノを買う感覚で、オークションを通して気軽に日用品が購入できるようになった今の時代ですが、オークションの“王道”と言えば、やはり美術品や骨董品が思い浮かびます。

「サザビーズ」や「クリスティーズ」といった欧米の美術品オークション会社で、何十億円もの美術品が落札されたというニュースはたびたび世界を駆け回っています。

この2社だけで年間売り上げ3兆円を超えていると言いますから、いかに巨大なマーケットなのかがうかがい知れます。

毎日オークションは1973年の創業以来、日本の美術品市場とともに成長。現在、年間30回以上のオークションを開催しており、取扱高は年91億円(国内シェア37%)と15年連続で日本国内1位を記録しています。

  • 1973年の創業以来、日本の美術品市場とともに成長する毎日オークション 提供:毎日オークション

そんな同社は2024年4月、ブランドリニューアルを敢行しました。アートを通じてより多くの人々と世界をつなぐ架け橋でありたいという強い想いが、今回のブランド一新の背景にあるようです。代表取締役社長執行役員の望月宏昭さんに、美術品オークション市場の変遷なども含めて、多角的な視点から話を聞いてみました。

富裕層と一般層への二極化が進む日本の美術品市場

――日本の美術品オークションの市場は、どのような状況なのでしょうか?

望月社長: 日本国内で美術品オークションを開催している企業は10社程度で、2023年の1年間での国内落札総額は247億円となっています。世界市場から比較すると1%程度の小さな規模ではあります。といっても、日本人の美術品に対する感度が低いわけではなく、美術館等での展覧会の開催数は世界的に見ても多く、美術品に慣れ親しんでいる人口は少なくありません。

しかし、購入して家に飾るまで楽しむ人は、世界に比べれば少数派なのは事実でしょう。それでも近年は利用層が広がってきており、当社のオークション参加者を見ていても、以前は業者さんが7~8割を占めていたのに対し、最近は一般コレクターとの比率は5対5となりました。

もちろん、全体での落札金額は業者の方が圧倒的に多いですし、億を超える落札額になることもありますが、その一方で10万円程度の作品も少なくないだけに、特別なお金持ちでなくとも参加できるようにはなりました。家庭で飾って楽しむ、作品として再販する、美術館に展示する、資産として所有する。まさに現代のオークションハウスは多様なニーズに対応しています。

  • 毎日オークション 代表取締役社長執行役員 望月宏昭さん

――昨今の日本の美術品市場はどのように変化しているのでしょうか。その中で御社が進むべき方向性は?

望月社長: かつて日本は分厚い中流階級を持つ国で、美術品市場でも数百万円単位のミドルクラスの作品が一般的には求められていました。一例を挙げれば、巨匠の本画ではなく、それを版画化した限定100部の作品に人気が集まるといった傾向が見受けられていました。しかし、時代の変遷とともにそれ以上の買い物をする富裕層が増えた一方で、中間層の数が少なくなってきており、傾向としては500万円以上か、10万円程度といった購買層の二極化が進んでいます。

高額作品を求める方にどうしても注目しがちですが、10万円の品が100点売れるのと1,000万円が1個売れるのも同等です。二極化したどちらかの層に傾くのではなく、バランス感覚を持つことがこれからの当社に必要な視点だと考えています。高額品はより丁寧に、気楽に楽しめる作品はより参加しやすい販売チャネルを用意するともに、従来とは異なる開催スケジュール、開催方法を構築しなくてはなりません。

  • 美術品市場も変化

オークションを取り巻く環境の変化を、いち早くとらえるために

**――ブランドリニューアル以前に、2023にはCI(コーポレート・アイデンティティ)の一新、パーパスの策定を行っていらっしゃいます。その背景なども教えてください。

望月社長: オークションの在り方が変化してきたことに加え、働く者たちの意識の変化も見て取れるようになったのが一つのきっかけとなりました。マイナビ(旧毎日コミュニケーションズ)から分社化したのが2001年のことですが、古くから所属するスタッフと新しく加わってくるスタッフとの間で、経験やマインドに変化が生じてきています。さらにはコロナ禍や働き方改革で仕事に対する取り組み方が多様化したのも受け、CIを実行することで自分たちの存在意義を見直すきっかけにすることにしました。

  • 新デザインのロゴと「Since1973」ロゴで、半世紀に渡り⽂化の保存や継承に努めてきた毎⽇オークションの歩みを表現

――パーパス「すべての人と世界をアートでつなぐ『架け橋』となり、文化的で豊かな社会の実現をお手伝いします。」にはどのような思いを込めていらっしゃるのでしょうか?

望月社長: 『架け橋』はオークション会社=仲介者のメタファーです。日本にある美術品を海外に紹介してマーケットを拡大する。元の所有者から新しい所有者に、過去から未来に文化を継承する。物質的なモノとしての美術品流通だけでなく、精神的にも豊かな気持ちで生活できる社会づくりに寄与することで、多様なモノコトをつなぐ架け橋になりたいとの想いをパーパスに込めています。また、パーパスのもとに社内で働く者たちが共通認識を持つようになり、自信と誇りを持って仕事に取り組んでほしいとも願っています。

――ブランドリニューアルに対しての想いを教えてください。

望月社長: 毎日オークションではパーパスの策定などを通して、広く社会に対して「アートの可能性の扉を広げ、今までの生き方にとらわれない、新しい未来が見えるようなサービスを提供し続けていきたい」との姿勢を表現しています。

当社が今後実現したい理想の世界観を示しているわけですが、恐らくは私たちの世代だけで形にできるものではないでしょう。だからこそ、毎日オークションの中で働く者たちが、既存の枠組みや先入観、思い込みに囚われることなく、柔軟に変化を受け入れる姿勢を持ち続けなくてはなりません。

心新たに取り組んでいく姿勢を改めて打ち出すべく、今回はビジュアルアイデンティティを軸としたブランドリニューアルを進め、ロゴ、オークションカタログ、オフィシャルサイトを順次切り替えていきます。ビジュアルを改めたことにより、お客さまをはじめ、今後新たに当社と出会う方にも、毎日オークションらしさや誠実な佇まいが届くことを期待しています。社内の働く者たちにとっても、今回のリニューアルが個人の意識を見つめ直すタイミングとして有効活用してほしいと期待しています。

  • 毎⽇オークション(MAINICHI AUCTION)の頭⽂字であるMとAを使⽤したエンブレム

半世紀の歴史を大切にしながら、新たな未来を開拓し続ける

――リニューアルのパートナーにStudio Per 社を選んだ背景は?

望月社長: プロジェクトメンバーとも議論を重ね、現時点での毎日オークションのポジションを踏まえた上で、今後目指したい方向性を丁寧に汲み取ってくださったのがStudio Per さんでした。180度異なるブランドに変化させるわけではなく、50年にわたって培ってきた毎日オークションの良さを残しつつ、パーパスに込めた想いや姿勢を表現してくれたのが決め手となりました。実際、新しくデザインされたロゴには「Since1973」のワードも入り、半世紀にわたって文化の保存や継承に努めてきた毎日オークションの歩みを表現してくれています。

――新しいスタイルのオークションも始まっているようですね。

望月社長: 最近はお客さまの声を受けてワインを含めたラグジュアリーオークションを開催しました。また、単発となりますが、日本人MLB選手のサイン入りユニフォーム、ビートルズのサイン入りジャケットといった美術品の枠を超えたアイテムも数多く扱い始めてます。アニメのセル画を手掛けていたこともありますので、将来はカルチャーをテーマにしたパッケージのオークションを単独開催していくことになるかもしれません。さらにアニメ・MANGAや日本の戦後美術、現代に活躍する作家が、世界のアートディーラーやコレクターから高い関心を寄せられていることから、将来的には海外にも拠点を作っていくことも視野に入れています。

  • 最近は特集はじめ、さまざまな企画開催を試みていると話す望月社長

――美術品オークションに慣れ親しんでいない皆さんにメッセージをお願いします。

望月社長: 高額な作品ばかりではなく、手ごろな価格帯も多く扱っていますので、ぜひ一度、オークション会場を覗いてみてください。コロナ禍以降はオンライン参加が定着し、いっそう気軽に参加できるようになりました。アートを身近に感じ、新たな発見や楽しみを見つけていただければ幸いです。