転職する際に何を基準に選びますか?
・年収
・スキルが活かせる
・新しいチャンレンジ、スキルアップ
・勤務地
これを機に是非、加えて頂きたい基準があります。それが、"決算書"です。決算書を読み解くのは難しいと思われがちですが、ポイントさえ押さえれば数十分で、また慣れてくれば2~3分程度で企業の概要が掴めます。
決算書を分析する事で企業の安全性、成長性、課題、戦略を知る事ができます。候補企業の採用条件やホームページ、人事部との面接だけで決めるのは「お付き合いをする相手を雰囲気で決めていること」と似ている気がします。
お相手がどのように過去に努力され成長していらっしゃったかを知れると、もっと好きになりませんか? 決算書にはそういう本質的なポイントを教えてくれる魅力があるのです。
転職候補の会社の決算書を読み解くことで、現状と将来性が見える
経営の安全性をみよう!
企業の経営の安全度を確認するには貸借対照表を見るとわかります。
貸借対照表とは「今、会社はどんな資産をいくら持っているのか?」そして、「その資産を買うために過去お金をどのように調達してきたか?」が表されています。
「貸借対照表」 見るべきポイントは
(1)自己資本比率 自己資本比率(%)=純資産÷総資産×100
会社が今持っている全資産は借金と過去に努力して積み上げた利益や出資金で買っているのです。自己資本とは株主からの出資や過去積み上げてきた利益です。
よって、自己資本が高いほど過去にちゃんと利益を出すように努力されている企業様という事で安全と判断されます。
50%以上あると優良とみられ、20%以下はリスクがあり、10%を切っていると経営が危ない可能性があります。一般的に、自己資本比率が40%を超える企業は倒産リスクが小さいとされています。
(2)固定比率 固定比率(%)=固定資産÷自己資本×100
固定資産というリスクもある資産を自己資本で賄えているのか? 固定資産とは、土地、建物、機械等、特許権等です。この資産達はピンチの時でも直ぐに現金化できないというデメリットがあります。
私の会社は自動車部品を作っている会社なのですが3年前コロナで売上が20%落ち、資金繰りが苦しくなっても固定資産を売って現金を得るという手段は取れませんでした。
建物や機械を売ってしまうと景気が回復した時に営業できませんし、それに買い手がすぐに付くというもの考えにくいのです。このように、固定資産はリスクがある資産なのです。
よって、安全なのは借金で固定資産を賄うのではなく、自己資本で賄えているという事です。その安全率をみています。
100%以下であれば安全で120%程でも安全だとみられます。
たとえ、高すぎる場合でも今の時期がその企業にとって"攻め"の時期で新しい工場を建てたりしていると200%と高くなったりする事もあります。大事なので3~5期分ざっとみて傾向を見て下さい。
(3)流動比率 流動比率(%)=流動資産÷流動負債×100
この1年間で支払わなければいけない金額を支払う資金があるのか? 企業の支払い能力を確認します。流動比率が100%を切っていると、流動資産よりも流動負債のほうが大きいということなので資金が回らなくなる危険性があります。
そして、100%以上あっても安心はできません。何故なら流動資産には在庫等すぐに現金化されないものも含まれているからです。よって、もう少し掘り下げてみていく事が大事です。
さらに解像度をあげて見てみる
流動資産には在庫等すぐに現金化されないものも含まれているため、よりリアルに見極めるなら当座比率と現金比率もみてみましょう。
当座比率 当座比率(%)=当座資産÷流動負債×100
当座資産とは流動資産から在庫等現金化しない可能性のある資産を除いて、より現金化しやすい資産だけに絞ったものです。こちらも100%を切っていると当座資産の方が流動負債よりも少ないという事になりますので危険です。
現預金比率 現預金比率(%)=現金及び預金÷流動負債×100
現預金比率とは 企業が有している支払い能力を表すための指標で、比率が高いほど短期的な支払い能力が大きいとされる。業種によっても平均が異なりますが、全業種の平均は80%程度です。
このように自己資本比率からは「過去に頑張って利益をしっかり積み上げているのか?」、固定比率からは「固定資産投資を無理し過ぎていないのか?」、流動比率は「返済する体力はあるのか?」と会社がこれまでみんなでチカラを合わせて努力してきた結果やリスクを取りながらもチャレンジしている姿が表れ、健全な経営がなされているのか企業の安全度を確認することができます。
企業としての成長性や将来性を見てみよう!
企業の成長や将来性を見るには損益計算書を見ます。損益計算書は1年間の売上、費用、利益が書かれています。
「損益計算書」 見るべきポイントは
(1)営業利益率
営業利益とは本業でいくらの利益が出たのか?を表していて、営業利益率は売上に対する営業利益の比率を示しています。利益がしっかりでているのか? また、この利益額と利益率が3年間で伸びているのか? をみると会社の成長性が分かります。
重要なことは、3年分の損益計算書を用意し、それぞれの年に総資産回転率と営業利益率を割り出し観察することです。すると、転職候補会社の収益性や成長、将来性が見えてくるのです。
(2)総資産回転率
総資産回転率とは資産をいかに有効活用して売上を作っているか? を見る指標です。
総資産回転率(回転)=売上高÷総資産
例えば、A社の総資産が100億 売上200億、B社の総資産が200億、売上100億とした場合、各社の総資産回転率は以下のようになる。
A社:200÷100=2(回転)
B社:100÷200=0.5(回転)
回転数の多いA社のほうが、少ない資産を有効活用していると考えられます。
転職先の「絞り込み」だけじゃない、自分の価値を表す最大の武器
自己能力ついて理論的に説明、魅力を最大限で伝えられる
転職先の決算書を予め分析しておくと、その会社が直面している問題だけでなく、どのような方向に向かおうとしているのか? が理解できます。そして、未来だけでなく、過去の歴史も数字から理解できます。
このようなことを元に、決算書の数字も随所に織り交ぜながら商品やサービスに対して自分はこうしていきたい、と伝えることで採用後に即戦力として活躍できることをアピールしたプレゼンができると思います。
例えば、その企業様が投資した直後だったとします。
すると「自分は営業でずっとやってきました。チャレンジが好きで新規営業が得意です。御社が前期新しい工場に10億投資しておられましたが、既存製品だけでなく、新製品も10%増売上られるように努めます。また、私はコスト管理も得意で前職では全製品の限界利益額に減少はないかモニターしておりました」と伝えると、決算書がしっかり理解できる頼もしい人材だという印象を与えるでしょう。
転職後、求められることへ力を発揮できる
どんな仕事であっても決算書が読めないと自分の力を発揮できません! 社長やリーダーから「わが社の営業利益目標は15%、その為にも売上総利益目標は35%に保つように」と言われたとします。
"利益"といっても、売上総利益、営業利益、経常利益、税引前当期純利益、当期純利益があります。
どの利益がどういう意味なのかを理解しておけば、会社側から発信される内容が腑に落ち、その利益の目標を達成する為にどの費用をどう落とせばいいのか? 等自ら考えられるようになります。
また、リーダーは会社の数値目標を達成する為に自分のチームをどう動かしていくのか? プランを立てる時にも決算書がとても役立ちます。
例えば、DXチームを任されたとします。「業務の効率化が必要だ。工場の機械のデータを自動的にとれると便利と現場が言っていた。まずはその業務からDX化しよう」という具合に始める事があると思います。
そこでさらに決算書が読めると、
・自社の経費はどこが多いのか?
・その経費のモニターできるアプリがあれば使い過ぎる前にアラートが出せる。
・そのような仕組みが作れるのではないか?
・機械のデータが自動で取れるようになると決算書にいくら効果が生まれるか?
・DXチームの人件費はいくらなのか?
・時間とエネルギーをかけてまで今すぐやるべき事はなんだろう?
といったように、思考をより広く、深く数字を見ながら計画を立てる事ができます。
私自身、DXチームを立ち上げリーダーとしてプロジェクトを進めたのですが、この会計思考が非常に役に立ちました。
DX化しないといけない業務は沢山あり、それぞれの部署、メンバーからの要望も多岐にわたります。
しかし、みんなで決算書をベースに「今やるべき事はこれだ!」と方向を指し示す事で全員が腹落ちしてプロジェクトを張り切れるのです。効果も金額で測る事で自分達の貢献度も伝える事ができました。
会計視点を持つことは、自分の可能性を広げる
転職先選びに失敗しない決算書の活用方法について解説しました。重要なポイントは、「安全性」「収益性」「成長性」の3つを測ることです。
これら3つの数値を理解することができれば、転職先選びに失敗しにくくなります。「規模が大きい=安定性あり」「知名度が高い=成長性あり」といったようにイメージだけで判断すると、「入社してみたら思っていたのと違った」といったことになりかねません。
思わぬ落とし穴に陥らないためにも、決算書を読み解く知識を身につけましょう。また、一度身につけた会計視点は、転職活動の実践現場や入社後、自分が活かせる働き方を築き上げる武器にもなります。
著者プロフィール:松本めぐみ
Star Compass株式会社 代表取締役、松本興産株式会社 取締役
独自考案した風船会計メソッドにより全社員へ会計視点を理解させ、「パーパス」、「数値的戦略」、「会計思考」を軸に働き方、業績の改善に成功。社員と経営者が幸せでいられる会社を築く。