ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手が3月25日(日本時間26日)、自身の通訳を務めた水原一平氏の違法賭博関与の発覚に伴い、初めて記者会見に応じた。だが、賭博に関することは、疑問が残る内容も多くあった。ここでは、プロスポーツにおけるコンプライアンスとガバナンスの観点から、今回の騒動を解説していく。
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日本人選手が海外で活躍するための“障害”とは
大谷選手と元通訳・水原一平氏の違法賭博に関する事件は捜査が動き出している。大谷選手のようなスター選手に関わることなので、クローズアップの度合いも世界規模で大きい。疑問に思うのは、このような大事になる前に、対処できなかったのか、という点だ。
元通訳を雇わなければこうならなかったが、大谷選手の語学対応のみならず公私共におけるサポートが必要だった、それが水原氏に代えがたかった、その水原氏が私生活に問題を抱え、そばにいる富裕者、大谷選手の懐へ介入したというのが、大まかな背景になるだろう。
語学の問題に焦点をあてて話をすると、日本人のアスリートはこの課題を抱えてしまうのが顕著だ。日本全体の英会話能力は世界的にも「話せない」レベルだろう。比べて隣の韓国の英会話能力はおおむね高い。国の教育政策の違いなのだろうが、かねてから指摘されているように日本人の英会話能力の低さは、明らかだ。
例えば、NFL(プロフットボール)で、日本人選手が出てこない、大きな要因の一つがこの語学に関することだ。フットボールは細かいしかもいくつかに分かれたパターンの攻撃、守備体系をその場に応じて、合わせていく必要があり、その際語学がネイティブに近い状態でないと、理解ができない。フィジカル的には日本人はNFLレベルにいる者がこれまでもいた(特にキッカーとパンター、スペシャルチームのリターナー)しかし、語学力のことがたびたびチーム関係者からはネックになっていることが指摘されている。
MLBでは、通訳の同伴が可能なので、こうしたことが可能なのだろうが、今回はそれが逆に弊害になったという皮肉な状態だ。スター選手における自らの好みや意向に沿った内容、また人選が基本的に優先されている。それをチームが了承する代わりに入団も受け入れているような格好だ。
これが一般企業ならどうだろう。一社員がものすごく営業利益を上げ、「広告塔」として会社の利益に貢献してくれるなら、人事に関することや福利厚生面でも、本人の介入がここまで進むのだろうか。もし仮に特別扱いするにしても、それは社外でしてもらうことが、コンプライアンス上正常な対応になるだろう。社内で入れたい人材を入れること、そこに、自分の給与口座を他者が操作できるような状態にするならば、逆にペナルティを受けて当然だろう。企業の正常なコンプライアンスはそういうものだ。
それがプロスポーツ、とりわけスター選手を取り巻く環境は逆転している。そうでもしないと、スター選手が入団してくれないからだ。様々な条件をチームが飲むことと、そこにコンプライアンスがなし崩し的にされている現状がある。スター選手は「お得意様」であり「大事なお客様」でもある風潮に、一石を投じる必要がある。MLBは機構としてもガイドラインを設ける必要がある。
日本プロ野球での“現状”は?
日本においてもプロ野球で、外国人を含め、理解しにくいことがたびたび起こっている。
先日もプロ野球チームに「助っ人」で来ていた外国人選手が、二軍で調整をするように指示されたことに不服を呈し、退団するというニュースがあった。シーズンがこれからという時に、その直前で監督の指示に従わない、ほとんど仕事らしい仕事をしないで、莫大な契約金はどうなるのか、などおよそ理解しがたい。入団時に監督の指示にしたがうのは当然契約に含まれていただろうし、そういう環境を遵守するのはチームの秩序を守り、ガバナンス面からも重要なことだ。
このような「わがまま」が通る世界がプロスポーツ内に残存しているうちは、ガバナンス面でも向上はしない。こうした状態がチーム全体に与える影響は少なくない。いわゆる「不協和音」の元は、こうした部分からも派生しかねないのだ。
MLBが今後取るべき対策は?
スター選手のサポートをチームがどこまで許容しうるかは、機構がまずガイドラインを示すべきだ。それに基づいて、各チームはその範囲を逸脱しない範囲で対応することが重要だ。今はその境界がグレーではっきりしない。
そのガイドラインでは、選手の不利益になるようなことへの行動制限は言うまでもないが、選手のプライバシーやプライベートに関わることへの関与が焦点である。仕事とプライベートをしっかりと切り離せる選手はそういない。とりわけ外国人になる「日本人」には相談できる人材、手足となって動ける人材は必要だ。そのカテゴライズを遵守させられるかが問われる。
今回の事件はプライベートに関わることだろうが、そこに球団職員でもあった者が関わっていたことをチームとしても、きちんと認識してもらいたい。解雇したから、我関せずでは済まされない。リスク対策として、こうした問題が生じた時にどうするか、また問題が生じないようにどうすべきなのか、この辺は全く後手にまわっていて、極論すれば全く考えていなかったに等しい。
しっかりとしたガイドラインの提示とその遵守、また監視体制の強化が必要だろう。また、スター選手を取り巻く「誘惑」にはろくなものがないので、そのへんをどう除去していけるか、むしろその対応をする人材をスペシャリストで置くほうがよっぽど、良いと思う。コンプライアンスとガバナンス面からも、また健全なチーム作りにも社会的な信用度が向上するのではないか。
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プロフィール
古本 尚樹(ふるもと なおき)
学歴
・北海道大学教育学部教育学科教育計画専攻卒業
・北海道大学大学院教育学研究科教育福祉専攻修士課程修了
・北海道大学大学院医学研究科社会医学専攻地域家庭医療学講座プライマリ・ケア医学分野(医療システム学)博士課程修了(博士【医学】)
・東京大学大学院医学系研究科外科学専攻救急医学分野医学博士課程中退
職歴
・浜松医科大学医学部医学科地域医療学講座特任助教(2008~2010)
・東京大学医学部附属病院救急部特任研究員(2012~2013)
・公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター研究部 主任研究員(2013~2016)
・熊本大学大学院自然科学研究科附属減災型社会システム
実践研究教育センター特任准教授(2016~2017)
・公益財団法人 地震予知総合研究振興会東濃地震科学研究所主任研究員(2018~2020)
・(現職)株式会社日本防災研究センター(2023~)
専門分野:スポーツ選手やチームの危機管理・コンプライアンス・ガバナンス、防災、BCP(業務継続計画)、被災者、避難行動、災害医療、
※キーワード:防災や災害対応、被災者の健康、災害医療、地域医療
(株)日本防災研究センター
(医学博士、阪神・淡路大震災記念人と防災未来センターリサーチフェロー)
古本 尚樹
個人ホームページ https://naokino.jimdofree.com/
【了】