明日の叙景インタビュー J-POPとブラックメタルのその先へ

Rolling Stone Japanが「Future 25」日本代表の一組に選んだ明日の叙景。『現代メタルガイドブック』著者の和田信一郎(s.h.i.)が聞き手を務めたロングインタビューをお届けする。

2022年発表の『アイランド』が絶賛された明日の叙景。「J-POP? それともブラックメタル?」というCD帯コメント通りの複雑なニュアンスを示しつつ、音からアートワークまで絶妙に親しみやすい同作は、アジアやヨーロッパでも歓迎され、近年は国内外でソールドアウト公演を連発している。今年3月にライブアルバム『Live Album: Island in Full』をリリースし、4月6日に大阪・Yogibo HOLY MOUNTAIN、4月29日に東京・渋谷WWWXで同作のリリース公演を開催する4人に、音楽的バックグラウンド、ライブに臨む姿勢の変化などを語ってもらった。

Photo by Jun Tsuneda

バンド結成の経緯、プレイヤーとしてのルーツ

─そもそも明日の叙景は、どういう経緯で結成されたのでしょうか。

等力:まず、リズム隊の二人が小学校からの幼馴染でバンドをやっていたんですね。それで、自分が中学のときの友達の友達みたいな感じで「楽器うまいやつがいるらしいよ」と引き合わせられ、高校のときにこの三人でインストバンドを始めたのが明日の叙景の一番最初のきっかけで。もう12〜13年になりますね。その頃からやってることは基本的に変わらないよね。当時のスタジオ映像を見ると、やり方は分かってないけどまあまあ『アイランド』だし(笑)。

それで、大学生になってライブを始めてみて2〜3回やったところで、ライブハウスのブッキング担当の人に「華が必要じゃないか」みたいなことを言われたんですね。その一方で、当時はisolateやENDONのように、アンダーグラウンドなバンドがブラックメタルの方法論を使って尖ったことをやろう、みたいなムーブメントがあったんです。

布:heaven in her armsやCOHOLもそうだし、Deafheavenが初来日した頃でもありました(2012年11月)。

等力:それで、Twitterを見ていたら、大学のメタル系コピーバンドサークルで布さんが歌っている動画があったんですね。ステージングも良くて。それで、この人を誘ってみようよと話し合ってDMを出して、そこから今に至る感じですね。

布:漫画喫茶で漫画読んでたらTwitterにDMが来て。「よかったらバンドのボーカルやってくれませんか」「いいですよ」というふうに決まりました(笑)。

等力:都内のマンモス校みたいなところにはメタル専門のサークルがよくあるけど、そういうところの役割って相当でかいですよね。それでシーンが成り立っているような側面がある。

布:蓋を開けてみたら、OBがみんなどこかのバンドでやっているという。

─プレイヤーとしてのヒーローみたいな人って、皆さんそれぞれおられますか。

等力:自分は、誰か一人に憧れるのを避けるために、いろんなものに興味を持つようにしているようなところがあります。でも、9mm Parabellum Bulletの滝善充さんはやはり大きいですね。世代的にはまったく避けて通れないというか。同じギター、同じ機材も使ってますし。ギターヒーローですね。

等力桂(Gt) Photo by Emily Inoue

齊藤:一番最初はKISSでした。4歳とか5歳の頃から好きで。オリジナルメンバーのピーター・クリスも、最終メンバーのエリック・シンガーも、一番最初に観て影響を受けたドラマーです。リズムがヨレることに対してネガティブな印象を抱かないのは、KISSによるところが大きいかもしれないですね。その後にLUNA SEAの真矢さんを聴いて、リズムのノリの良さに影響を受けて。DIR EN GREYのトリッキーさや、FACTの手数の多さ、Toolの奇怪さ、PeripheryやAnimals As Leadersみたいなジェントの流れにも影響を受けています。それから、MEINLとかZildjianといったドラムメーカーのYouTubeチャンネルを観て面白いなと思ったりもしています。

齊藤誠也(Dr)Photo by Emily Inoue

関:自分は、THE BACK HORNの岡峰光舟さんですね。よく動くベースラインの作り方が凄く勉強になったし、高校の頃にたくさんコピーしたので、それが馴染んでいるのもあるのかもしれません。それから、メタルをたくさん聴くようになったのは最近なんですけど、テクニカルデスメタルのうねうね動くフレットレス・ベースに出会って、こういうのもあるんだなと思ったり。

関拓也(Ba) Photo by Jun Tsuneda

布:自分は、振る舞い的なところで言うと、Bzの稲葉浩志さんとBUCK-TICKの櫻井敦司さんですね。ポルノグラフィティもそうですけど、言葉の乗せ方などを参照しているところもあります。ボーカルラインを入れるときは、メタルでないポップスやロックばかり聴くようにしているときもありますね。BzやBUCK-TICKをシャウトで歌ってみて、そのラインを曲に乗せてみるとか。

憧れという面で言うと、Lorna Shoreのウィル・ラモス。最強でしょう。エクストリームメタルでは、あの人が完成形だと思います。まくし立てるところでもリズムがブレないですし、耳障りにならない芯のこもった高音を安定して出せるのも凄い。低音は言わずもがな。ずっと練習していて真似できないんですけど、凄く参考になります。

布大樹(Vo) Photo by Park Sin Joon

『アイランド』とJ-POPの名盤感

─『アイランド』が発表されてから1年半ほど経ちましたが、メンバーの皆さんにはどういった反応が届いていますか。

布:いまだに好意的な反応をいただいています。その理由として考えられるのは、まず、マニアックなところで影響力のある人たち、Rate Your Musicにいる人たちやSNSのインフルエンサーが取り上げてくださったこと。それからBandcampも大きいです。作品にジャンルのタグ付けをしていると、それがCDなりデジタルデータなりで1つ売れただけでもランキングが上がるんですね。それを見て人が集まり、上位をキープできるとさらに集まってくれる。そうやって、リスナー側の反応が一つ一つ積み重なり続けてくれたから話題になったのだと思います。

等力:そういう展開がメタルの外でも起こったのも大きいですね。日本でも海外でも。SNSで影響力のあるリスナーの方が紹介してくれる、というのが各国でそれぞれ局所的に起こっているんです。例えば、今年の1月に韓国で公演したのですが、お客さんやプロモーターの仲間たちが言うことには、韓国にもインターネット掲示板があって、そこでイケてる音楽インフルエンサーみたいな人が「明日の叙景が良い」と紹介してくれたみたいなんですね。これを聴けばお洒落なんだという雰囲気がネットで生まれた、だからみんな聴いてるんだと。というふうに、今回に関してはメタルの外での広がりが大きかったんだと思います。

─歌詞に対する反応はどうでしたか。自分はリリース直後にBandcampで買ったのですが、デジタル再生すると日本語詞と英語の訳詞が両方表示されるようになっていて。そこも取っ掛かりとして大きかった気もします。

布:英語詞は昔からメンバーで協力して出していましたね。英語が得意なメンバーが多いので、機械的でなくちゃんと曲に合わせた訳を出していて。ただ、確かに『アイランド』以降は海外でも歌詞への言及が増えています。その理由として考えられるのが、歌詞自体の作り方です。今までは、自分が書いたものをメンバーに見せたらそのままOKだったのですが、『アイランド』からは「これだと話のネタが分からない、何を主張しているのか分からない」という突っ込みを受けるようになって。そういうやりとりを重ねた結果、抽象的で詩的、婉曲的だった歌詞が、具体的になっていったんです。散文的な歌詞に挑戦してみたというか。そうすることで受け取りやすくなったからこそ、海外のリスナーからも「並行世界の8月32日に僕らを連れてゆく」みたいな名レビューが生まれたんだと思います。夏を感じさせる歌詞を具体的に書いたことで、そこからも物語を読み解けるようになったのもあるかも。音楽と歌詞とアートワークが三位一体になって情景を思い浮かべやすくなった、個人の体験に落とし込みやすくなったというか。

─確かにそうですね。そこにも関係する話ですが、聴いている方々の年齢層は把握されていますか。

布:基本的には、20代後半から30代前半ですね。自分たちと同じくらいの歳の人が多いです。サブスクやYouTubeを統計的に見る限りでは。それ以外は、若い世代よりも40代くらいの方が多いようです。

等力:統計を見るぶんには、単純に自分たちと同じくらいの世代に刺さってるんだなと思います。

布:個人的には、10代の人たちにもっと届いてほしいですね。

等力:年齢層についてもそうなんですが、個人的に意外なのが、メタルリスナー然としている人たちにも刺さっているということで。そういう人たちや上の世代の方々がCDを買ってくれてライブにも来てくれたりするのが、僕の中では目から鱗でした。

─個人的な印象でいうと、ギターヒーロー性みたいなのがやっぱり大きい気がしますね。一般的にブラックメタルにはギターソロがあまりないですが、明日の叙景には素晴らしいソロがある。例えばPolyphiaやChonは、メタル出身のバンドではあるけれども、メタルだとあまり認識せずに聴いている人も多いじゃないですか。そこら辺が橋渡しになって、明日の叙景にも繋がっている面もあるように感じます。

等力:それは自分も感じますね。PolyphiaやChonみたいなバンドが、Ibanezのギターでテクニカルなフレーズを弾くというオタク然としたスタイルをお洒落なものにしてくれたわけですが、『アイランド』もそれ以降の作品なんだなと思います。

─そういう文脈的なものも重要ですし、ボーカルやリズムセクションが素晴らしいことに加え、ギターが分かりやすく美しいメロディを弾いているのが本当に大きいなと思います。

布:最近のライブでは、昔以上に「リードギターを前に出してください」というのをPAさんにお願いするようになりましたね。今までは、全員の音を並列的に聴かせる、主役を作らないようにするのがバンドとして正しい形かなと思っていた時期もあったのですが、ボーカルとリードギターを前面に出して、主役というか前後感みたいなのを出さないと、初見の人は曲が分からないんじゃないかと思うようになりました。

等力:あと、アレンジも関係してますね。ギターは基本的に高い音域しか弾かず、そこでパート間の棲み分けをちゃんとしているというのもあります。『アイランド』を作るときも、メンバーの間で「ギターヒーロー感を出していこう」という話がありましたね。

齊藤:特に「キメラ」で。

布:そうそう。リファレンスで『ファイナルファンタジーⅩⅢ-2』の戦闘BGMと、ポルノグラフィティの「空想科学少年」を挙げて、このギターソロで!って(笑)。

─なるほど。別のインタビューで、『アイランド』全体のリファレンスとしてポルノグラフィティの『foo?』(2001年、「空想科学少年」も収録)を挙げていたのには、そういう意味合いもあったのでしょうか。

齊藤:”J-POP名盤感”とギターヒーロー性のリファレンスとして、ということですね。

等力:「キメラ」を作るときは特にそうだったね。それと「ビオトープの底から」を作ったことで手応えを感じて、アルバムを作るときに改めて”J-POP感”ってなんだっけという話をした。そこで「『foo?』って良いよね」という話が出たという流れですね。

─その”J-POP感”というのをもう少し掘り下げてお話しいただけますか。

等力:これ、以前は「捨て曲なしアルバムとしての”J-POP名盤感”」と説明してきたんですけど、2000年代のJ-POP、平成のJ-POPみたいなアルバムを改めて聴くと、アルバム通しての構成には結構ムラがあったりするんですね。でも、「J-POPのアルバムって全曲良い」みたいなイメージがあるじゃないですか。それで、藤井 風の1stアルバム(『HELP EVER HURT EVER』2020年)が全曲良かったんですね。これを聴いたときの衝撃が僕の中で大きかったんですよ。このアルバムって、歴史修正というか、「J-POPのアルバムって全曲良かったよね」みたいなことを打ち出している印象があって。

─よく分かります。昔のJ-POPアルバムは実は全曲良かったわけではないんだけど、このアルバムの完成度により、そういうイメージが後付けで生まれてしまったというか。

等力:そうです、そうです。椎名林檎の1st(『無罪モラトリアム』1999年)みたいに全曲良いアルバムも勿論あるんですけど、BOOK-OFFの250円棚で手に入るようなJ-POPのアルバムって、意外とムラがある。なので、2020年以降のJ-POP再解釈的な名盤みたいなのを作りたかったんだと思います。『アイランド』では。

あともう一つ、僕の中で大事だったのが「1曲目からはブチ上がらない」ということで(笑)。布さんが言っていた「J-POPのアルバムって、1曲目が地味だよね」というのもそうなんですけど、アルバム全体のイメージを掴みながらも、1曲目からキラーチューンというわけではない。そして、それが良い。最初に作った「臨界」でそれができていて、自分の中で「このアルバムいけるかも」という手応えがありました。

布:それこそポルノグラフィティの『foo?』もそうだし、THE BACK HORNの『リヴスコール』(2012年)なんかもそうかなと思う。2曲目でブチ上げるっていう。でも、最初はメンバー間でも意見が分かれたよね。等力なんかは「メタルのアルバムって1曲目からキラーチューンだよね」って(笑)。

等力:それは、Convergeの『Jane Doe』(2001年)は最初の2曲とそれ以降に落差があるんだけど、最初の2曲が良いから名盤なんだという話で(笑)。そういう「最初の2曲が良いから後はどうでもいい」という考え方もできて、実際「美しい名前」なんかはアルバム制作の過程でもう少し地味な曲になる可能性もあったんですけど、後半になって(齊藤)誠也が持ってきた「遠雷と君」のデモが素晴らしくて。そのメロディを聴いたときに、これを一番最後の曲にして、全曲名曲にしなくちゃダメだなと思ってしまったんです。僕の中での良いアルバムの基準って、全曲地味か、全曲神かのどっちかだなと思うんですね。それで、「臨界」で始まって「遠雷と君」で終わる曲順ができた。という経緯です。

─齊藤さんはどういった楽器で曲を作られているのでしょうか。

齊藤:発想はギターからですね。制作はCubaseで、自分でギターもベースも弾いて、ドラムも打ち込んで。「遠雷と君」は、”J-POP名盤感”という方向性に自分が乗るなら赤い公園みたいな感じかなと思ったので、赤い公園っぽいコード進行やメロディを作りました。それから、ブラストビート(※スネアドラムとバスドラムを高速で連打するエクストリームメタル奏法)で変なことをしたいというのもコンセプトとしてありました。

等力:「ブラストビートの脱権威化」というのもキーワードとしてありましたね。ブチ上げパートとしてのブラストビートって、もうやらなくていいんじゃないかというのがあって。この曲では、最初にギターソロが入るところで、ブラストもしているんだけど、金物のアクセントが8ビートになっています。そういうのが続いていって、最後にオーソドックスな8ビートが出てくる、というグラデーションを描きたかったんですね。

齊藤:幹の部分がそれで、枝葉としては、途中にはバスドラを抜いたブラストビートが出てきます。それを楽曲の中で活かすためにはこういう展開に組み込むのがいいな、みたいなことを考えて作りました。

─アレンジは皆さん全員が関わるのでしょうか。

等力:各々のパートは自分でやりつつ、最終的には僕がCubaseでまとめます。そこにメモを書き込んだりとか、Google Docsで「何分何秒の何小節目のここの音が要らないと思うんだけど」みたいなのを各メンバーに送って。

布:ボロカスに言われます。

等力:(苦笑)。「ボーカル直し資料」みたいなのをバンド外の人が見たらビビるよね。1曲につきA4用紙30枚くらいあったりする。『アイランド』では、ボーカルが主人公という感じで一番目立つ音量にしていて、リズムで曲を引っ張っていくことに気をつけていましたね。

布:一番はリズムだよね。ボーカルを楽器隊の一部と捉えて、バンドアンサンブルの中で心地よいリズム、フロウを作るということですかね。それと、変化をつけずに一貫性を持ってやっていくこと。高音と低音の使い分けとか吸いガテラルみたいな飛び道具は入れずに、シンプルに一つの声色でやっていこうという。

─それに関連して伺いたいのが、バンドアンサンブルとしてのリズム表現です。ブラックメタルというとどうしてもリズムが偏平でアクセントに乏しくなりがちですが、明日の叙景はそうなっていない。そういうグルーヴ作りとか休符の使い方みたいなことを、特にリズムセクションのお二人に説明していただきたいです。

関:自分は基本的には誠也が打ち込んできたデモなどを聴きながら考えているんですけど、メタルであることはあまり意識していないですね。『アイランド』では、J-POP感を意識するみたいな話もあったので、リズミカルなフレーズを入れてもいいよね、自分たちもそういうの好きだし、というふうにやっていきました。

齊藤:自分はそもそも、リズムとかアクセントをつけたくなっちゃうというのがあって。比較的メタル然としている「忘却過ぎし」などは、自分の中では抑えている意識があって、すごい我慢してアレンジした記憶がありますね。好みとして、やはり起伏のあるリズムにしたいというのがあります。

─メタル度とハードコアパンク度の配分、跳ねない質感と跳ねる質感のバランスみたいなことは考えていましたか。

等力:『アイランド』でいうと、そういったことを意識していたかはわからないですが、僕自身としては「踊れるアルバム」を作りたいというのがありました。家で踊れるアルバムを作りたい。コロナでそういう状況でもあったので。

布:等力はヒップホップが好きで、クラブに遊びに行くタイプでもあったし、誠也はドラムの師匠がジャズ系でそちら方面がバックボーンとしてある。

齊藤:そうですね。それから、リズムの起伏感でいうと、たぶんLUNA SEAのノリが相当染みついていると思います。バックビートが強い、乗るためのフレーズで作られている感じが。

布:メタル的な話でいうと、この中では関が一番聴いてますよ。

関:でも昔は全然聴いてなかったですよ。誠也とバンドを組み始めた頃でいうと、LUNA SEAやそのメンバーのソロ作をコピーしたりとか。J-ROCK的なやつですかね。THE BACK HORNは高校の頃にめちゃめちゃハマった。リズムという観点ではわからないけど、フレージングは影響が大きいかもしれないです。ベースラインがよく動いていて、裏メロ的な役割を担っていたりする。そういうのがすごい好きで、明日の叙景みたいな音楽でやりたいなというのはありますね。

等力:そうだよね。だから、メロディとかリズムなど細かい要素を見ていくとメタルじゃないんだけど、音作りとかテクスチャーは凄くメタルにこだわっている。サウンドプロダクションはメタルであることに保守的で、鉄板の機材を使ってメタルが培ってきたノウハウで作るんだけど、中身は別のことをやりたいな、というのはありますね。

ライブでの伝え方、サウンドについて海外での学び

─『アイランド』を全曲演奏した昨年8月の代官山UNIT公演は素晴らしい内容で、今年3月に『Live Album: Island in Full』としてもリリースされます。これ以前はあまりライブが多くなかったですが、最近はかなり増えてきました。ライブに臨む姿勢は変わってきましたか。

等力:かなり変わったと思いますね。人に見せようという意識が、パフォーマンス的な部分でも音的な部分でも出てきたと思います。以前はあまり考えていなかったことを考えるようになりました。

布:お客さんからのアクションとリアクションを両方ちゃんと受け取りたいと思うようになりましたね。最初は、こっちがパフォーマンスすることでお客さんからのリアクションが返ってくる、ということだけを思っていたんですけど、実はまずお客さんからのアクションがあって、それによってこちらの気持ちの置きどころみたいなものも変わる。そうやって、作品の捉え方や音楽に向き合う姿勢も変わるのが面白いなと思うようになりました。人前で積極的にやるのも大事だなと感じましたね。

等力:ライブ活動を再開したのが1年前(2022年12月18日、渋谷CYCLONE)なんですけど、ライブ毎の動画を見返していくと、今のほうがちゃんと前を向いているんですね(笑)。前の動画を見ていると、自分は本当にギターの指板しか見ていなかったのですが、今はお客さんのほうを向くようになっている。我ながら良いことだなと思います。

齊藤:代官山UNITの動画を自分が編集していたんですけど、各メンバーの動きをずっと見ているわけですよ。良い動きを毎秒探していく。そうすると、自分も”見せる立場”にあることを意識せざるを得なくなるのはありましたね。

─ステージ上の服装についてのこだわりはありますか。音楽ジャンルとファッションの対応など、思想やスタンスみたいなことも示せる部分なわけで。Kornのジョナサン・デイヴィスがアディダスのジャージを着て、後続もそれを真似するみたいな。

等力:最近は「これ着たほうがいいよね」みたいなことも話しますね(笑)。その上で、それぞれのメンバーのキャラが立つようにしつつ、本人が着たいものを着る。自分がジャージを着ているのは、メタル然としてなくていいという感じですかね(笑)。もちろんKornみたいな先例もあるわけですが、いまジャージ着てメタルやるのも一周回っていいな、いい加減で、と思います。

布:自分たちがブラックメタルをやっているという意識はもはやないかもしれないですね。自分たちのプレイスタイルがブラックゲイズやポストブラックメタルと合うと思ったからやっていただけで、ジャンルについての思想や愛着みたいなものは乏しいかもしれないです。僕以外は。

─先ほど出た「細かい要素はメタルじゃないんだけど、音作りとかテクスチャーは凄くメタル」という話でいうと、『アイランド』から一気にブラックメタル的でないタイプの硬さ、豊かに響くメタルサウンドになったじゃないですか。そういうサウンド面でのリファレンスなどはありますか。

等力:サウンド的には、Svalbardの3ndアルバム(『When I Die, Will I Get Better?』2020年)が凄く良かったので、そのプロデュースを手掛けていたルイス・ジョーンズさんに(ミキシングエンジニアを)頼んだというのがまずあります。その際には、明るいサウンドにしたい、エナジーが伝わるものにしたいということを伝えていました。自分の感覚としては、できるだけ明るく、倍音豊かなものを作りたいというのもありました。それから「メタルの気持ちよさってあるよね」というのも意識しました。ギターはこういう音が気持ちいいよね、ベースやドラムもこういうのが気持ちいいよね、という音質的な心地よさはだいぶ意識しています。

─なるほど。やっぱりその、サウンド的な身体感覚とか根本的な嗜好みたいなところに、メタルが根付いているということでしょうか。

等力:そうですね。というか、根付かせました。2nd EP(2020年の『すべてか弱い願い』)を出した後に、自分はメタルの勉強が足りなかったなと思って。そこから、メタルのYouTuberをたくさん観たんですよ。そうすると、こういう音がいいよね、こういう音は悪いよねということを学習できるんですね。『アイランド』のサウンドについて、例えばDeftonesみたいだよねと言われることがあるんですが、それはYouTuberがDeftonesっぽいことをやっていてそれを真似したからこうなったのもあるんです。いくつか好きなYouTuberがいて、そこから「こういうのがメタルで良しとされるんだ」と意図的に学習した結果という。録音の仕方なども。英語の文章で上がっている動画をとにかくみんなで観る、そうやって音の価値観を向こうに合わせるということをやっていました。

齊藤:録音の話とはちょっと違うんですが、EU〜UKツアーに行ったときに、どこの会場もPAが良い、音が良いというのはありましたね。そこで感じたのが、言語の関係もあると思うんですけど、どこかにノウハウの壁が絶対にあるなということでした。

EU〜UKツアーでのライブ写真

Borisとの座談会でもその話が出てましたね。日本では全体のバランスを整えるのに対して、向こうのライブハウスは、ボーカルやギターといったリードパートを際立たせる傾向にあるという。

布:ライブハウスって、やっぱりボーカルとかリードギターみたいな旨みになる部分がよく聞こえてこないと、新規のお客さんは曲がわからないじゃないですか。例えば土日の8バンドくらい出るブッキングイベントをやったときに、知らないバンドも観てみようかなと思ったお客さんが「どういう曲やってるのかわからないな」となる感じでは、やっぱりよくないですよね。シャウトしてる音楽性だったら、シャウトボーカルの声がドンと出てこないといけない。ボーカルを出してくれるライブハウスが日本で多くないのは、良し悪しの問題というよりも、そうやって出さないのが常識になっているからなのだとも思います。

等力:なので、「海外ツアーに行くと現場が過酷」という話もよく聞くんですけど、自分の印象ではむしろストレスがなかったんですよね。今日の箱、機材めっちゃショボいじゃん…と思っても、実際に音を出したら超いいじゃん、みたいなことも多い。

布:ある種のサービス精神みたいなのが必要なのかもしれないですね。燻し銀な感じとか、エンジニア気質みたいなのよりも、その音楽を知らないお客さんが楽しめるようなわかりやすさが必要なんじゃないか。均一な音作りだと、曲を知っているファンからしたら「低音ガッツリ来た!最高!」となるのもわかるんですけど、知らない人には伝わらなかったりする。

 『アイランド』は、キャッチーめな曲が多い一方で、音数を意図的に少なくした部分もあって、ちょっと薄いかな、ローが足りないかなと思うこともあります。でも、音の壁にしちゃうとよくわからなくなっちゃうんですよね。CDで聴いていても、ライブでやっていても。音の隙間がちゃんとあって、メロディをはじめとした曲の旨みが伝わりやすいように引き算してあると、伝わりやすくなるのかなと思います。それは歌詞の作り方に関しても同様だったんだろうなと思いますね。

4人のフェイバリット、次回作の展望

─そろそろ終わりの時間なので、あと2点ほど。最近好きで聴いている音楽について伺えますか。

等力:BAD HOPですね。先週行った東京ドームのラストライブ(2024年2月19日)が死ぬほど良くて。5万人のヒップホップファンが集まった瞬間がまず凄かったし、ライブも最高でした。それで、ここ10 年くらいの自分の音楽的嗜好とか、マインドセットの変化が起こったタイミングって何だったっけ、と思い返してみると、やっぱりヒップホップと共にあるんですね。KOHHが出てきた瞬間とか、歌詞でこうやって新しい表現ができるんだと思いましたし、Tohjiが浜崎あゆみのようなJ-POPを肯定する発言を繰り返していたからこそ、明日の叙景でJ-POPを肯定的に扱えるようになったのもあります。新しい表現というか、今の表現をやりたいという感覚は、やっぱりヒップホップから来てるんだなと思いましたね。

布:自分にとっては、2023年は日食なつこの年でしたね。以前、中村佳穂を聴き込んでいて、サブスクのおすすめも中村佳穂経由でいろいろ出てくる、それを聴こうという時期があったんです。そこで日食なつこに出会って、一発でハマっちゃって。全部の曲を聴きましたが、「エピゴウネ」「音楽のすゝめ」の2曲が特に刺さりましたね。それで、ライブのチケットも速攻で買って、ライブに行って度肝を抜かれて。という流れでした。

齊藤:ジェネラルなのとエクストリームなのでいうと、まずエクストリームはSleep Tokenですね。メタルとR&B的な感覚を両方ともちゃんと取り入れているバンドが、Issues以降はなかなかいなくて。そういうバンドが来たのが嬉しかったですね。アートワークも含めたトータルプロデュースも好きです。ジェネラルでは、TOMOOですね。去年の1月に「Cinderella」が出てからずっと聴いています。曲も素晴らしいんですけど、MVとかアートワークも含め、チームとして凄くノっている感じがあって強いなと思っています。

関:去年はLUNA SEAをめっちゃ聴いてました。『MOTHER』『STYLE』の再録盤が素晴らしくて。その発売前にあったライブにも行ったんですけど、これまではリアルタイムで体験できていなかったこともあって感動しましたね。昔の映像もよく観るんですけど、個々のスキルが高いことに加えて、バンドとして一体になったときの強さみたいなのが凄くて。そういうところに憧れています。

─ありがとうございます。それでは、次回作の話を。聞ける範囲で伺いたいです。

等力:予定は立っているわけではないんですけど、作ります。基本的には活動のペースに合わせていく感じで、締め切りがあるとやるタイプですので。イメージはぼんやりあるんですけど、具体的には決まってないですね。

布:「ブラックメタル? J-POP? いや、J-POPで」っていうのは…

等力:ああ、それはまだよくわかってないかな。自分の中で2つあるんですよ。「超J-POP作るぜ」という気持ちと、「いや、メタルっしょ!」みたいな気持ちがまだ混じってて。結局、「J-POP?それともブラックメタル?」という問いかけの答えを出せなくて、3rdアルバムもそうなってしまうのかもしれないと思いつつ、別にそれでもいいのかなと思ったりもします。J-POPとメタル、それぞれについての解像度が上がった状態でまたやります、みたいな。

─その二つはやっぱり大事な軸なのでしょうか。

等力:うーん、そうかもしれないですね。それと、「J-POP? それともブラックメタル?」とは言ったんですけど、次回作はもしかしたら「J-POP? それともメタル?」かもしれないです。J-POP or メタルか、それともJ-POPメタルか。やったことのないリズムをたくさんやりたいですね。面白いアルバムになると思います。

Photo by Jun Tsuneda

─音以外の部分についてはどうでしょう。『アイランド』は特に、このアートワークでこんな音をやるんだ、という衝撃を受けた人も多かったように思います。アニメやゲームから受けた影響についてもいろんなところで話されていますが、それがとても良いかたちで出ていました。

等力:これは今まで話したことなかったのですが、僕は自分のキャリアを考えるうえで何を参考にしているかというと、庵野秀明とか新海誠のようなアニメ映画監督が何歳のときに何を作ったのか凄い気にしてるんだな、ということに気付いたんですね。アルバムを作るという感覚が、アニメ映画作品を作るという感覚に近いように思っているというか。新海誠について言うと、たぶん『秒速5センチメートル』(2007年)が出たときに、高校の社会科の先生が、教え子が制作に関わったみたいな話で、DVDを学校で見せたんですよ。それでめちゃめちゃ食らって。これかもしれない、みたいなことを思った瞬間があったんですね。それ以来、新海誠に引っ張られている部分はやはりありますね。『君の名は。』(2016年)で売れたときも、自分の表現をやりきってあそこまで行けるんだみたいなことを思って。それと自分を重ねている部分は相当あることに気付きました。

なので、アニメを凄く観ているかというとそうでもないんですけど、方法論とかキャリア的な意味では、サブカルチャーのいろんなところを参考にしている、引用しているのは凄くあります。方法論とか、こういうふうにやっていくんだみたいなのも、アニメスタジオとか制作会社からインスピレーションを得ていることが多いなと思うので。お金の流れだったりとか、どういうふうに成り上がっていくのかみたいなのを参考にしています。だって、『エヴァンゲリオン』があれだけ人々に観られるんだよ、と思ってしまうんですよね。

布:自分の場合は、端的に言えば鬱アニメと鬱ゲーですね。『ドラッグ オン ドラグーン』に始まって、『エルフェンリート』ですよね。で、そこからいろいろこじれて、『無限のリヴァイアス』とか。暗黒小説というか、ノワール小説とか歴史小説みたいな、主人公が負けるのが確定している話とか多いじゃないですか。残酷なんだけど、俺はこういうことがやりたいんだとか、人間性を失ってしまうような部分もあるけど人間の善良さも信じたいよね、みたいなことを覗かせるものも多くて。制約がないぶん、人の本音が出やすい類の作品なのかなと思います。

─そういうところからの影響が歌詞にも出ているのでしょうか。

布:葛藤は描きますよね。良いことばかりにはしたくないし、悪いことばかりにもしたくないし。善良でありたいけど、間違うこともたくさんしてしまうし。間違ったことをしたからといってすぐ謝れるわけでもなくて、別の良いことをしていれば過去を清算されるかな、というふうにズルいことを思っちゃうみたいな。自分に対して甘い、自分を追い込めない。そういったところの弱さは常に描いています。

齊藤:今ハマっているというだけの話にはなりますが、最近のニチアサですね。歴史ある戦隊シリーズの中で、海外の最先端のブロックバスター映画のノウハウを取り入れながら作っていて、凄く面白いです。最近は脚本というものの面白さを感じられるようになってきて。言葉とか事象とか登場人物のリプライズが面白い。そういうリプライズが、ドラムのフレーズを作るときにも参考になるんですね。うまいリプライズは、忘れかけた頃に出てくる。

『アイランド』の曲で言うと、いったん印象付けさせて、それを忘れさせてから出すというのが、「遠雷と君」のダーンダン(音源では11秒〜)のところで。曲の前半1/3で2回出して、最後の最後にもう一回出すという。

─なるほど! そしてそのフレーズはタイトルの「遠雷」にも絡められますね。

等力:そうですね。単純なフレーズで。

齊藤:覚えさせることが必要というか、思い出せるくらいの印象の強さが必要ということで、ああいうフレーズになりました。

等力:BAD HOPもそうでしたね。8人いて、それぞれの曲はだいたい3人くらいで歌うんですけど、一番最初に歌ったメンバーが後半で合いの手みたいに出てくるんですね。こうやって忘れた頃にやってくる感じも大事ですよね。

齊藤:そうすると、人生に意味があると思えるというか。

等力:そうだよね。どこかで回収するみたいな。

布:面白いところだよね。いろんなことを繰り返してるんだけど、最後に「あ、これ繰り返しだよね」となるのは印象に残ったところだから、自分が取捨選択した結果なんだと思うんだよね。だから、「繰り返し来たね」と思えたものが、自分の人生にとって大事なもので、それが人生の正体なのかなというか。小さい頃に思ったことを、今の青年期にも考えて、老人になってからも「あ、そういえばこんなことあったよな」となる。それがたぶん、人生の本当の姿なんじゃないかなと思います。

等力:じゃあ、次のアルバムもそういう感じで!

一同:(笑)。

等力:まあ、アルバムの構成についてはそこまで意識しているわけじゃないんですけど。『アイランド』を作っていたときに印象的だったのが、「ドラムロール多くね?」みたいなことを言われて。本当か?と思って、どの曲にどういうフレーズが入っているか、どういう意味で入ってるかというのを表にしたんですね。そうすると、意外とどの曲も違う意味で入ってるし、その位置もアルバム通してみたら分散していました。そういうふうに、これでいいんだっけとなるたびに表にしていましたね。

布:疑問を疑問のままにしておかない。コミュニケーションとったよね。

等力:頑張りました。

─ありがとうございます。今後の展開もとても楽しみしています。

一同:ありがとうございました。

明日の叙景

『Live Album: Island in Full』

発売中

配信・購入:https://ultravybe.lnk.to/islandinfulllive

”Live Album: Island in Full” Release Concert

2024年4月6日(土)大阪・Yogibo HOLY MOUNTAIN

2024年4月29日(月・祝)東京・渋谷WWW X

東京公演ゲスト:kokeshi

公演詳細:https://www.creativeman.co.jp/event/asunojokei-island-in-full/