2000年代初頭から現在まで、欧米のパンクロックシーンを牽引し続け、ここ日本でも高い人気を誇るSUM 41。近年は2006年に脱退したデイヴ・バクシュ(Gt)がバンドに復帰し、彼のメタリックなプレイを効果的に取り入れた楽曲で攻め続けている印象も強かった。しかし、2023年5月に来たるニューアルバムとそれに伴うワールドツアーをもってバンドを解散させることを発表。このフェアウェルツアーの一環としてこの3月、SUM 41は屋内フェス『PUNKSPRING 2024』でのヘッドライナーを含むジャパンツアーを実施し、3月29日にはラストアルバムにして初の2枚組作品『Heaven :x: Hell』をリリースした。この一連の流れに、気持ちを揺さぶられたファンも多かったことだろう。
この来日中、メンバーのデイヴにインタビューする貴重な機会を得られた。4年ぶりの来日の感想をはじめ、解散に至った経緯や新作制作について、さらには約30年におよぶキャリアの振り返りやバンド解散後の動向など、デイヴの現在の心境を率直に語ってもらった。
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Photo by 岸田哲平 ©PUNKSPRING All Rights Reserved
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─2020年1月以来のジャパンツアー、および『PUNKSPRING 2024』ヘッドライナー公演の手応えはいかがですか?
デイヴ:今回、札幌に降り立ったその瞬間から馴染みのある雰囲気……この20年間親しんできた雰囲気に戻ることができたんだけど、以来すごくいい調子だよ。日本のオーディエンスもすごく歓迎してくれたしね。日本でライブをすることは僕たちSUM 41のキャリアにおいて不可欠なものの一部だし、日本は初めて訪れたときにもっとも衝撃を受けた国のひとつ。それが今もこうして続いていることは奇跡的だね。
─前回のツアーはまさにコロナ禍に入る直前でしたし、この4年で世の中も大きく変わったと思います。そのへん、日本のお客さんを見て強く感じることはありますか?
デイヴ:音楽活動が表立ってできなかったのは日本だけに限ったことではないけど、4年経ってみて思うのは物事が良い方向に変わってきていること。というのも、特に『PUNKSPRING』のときにそう思ったんだけど、オーディエンスのエネルギーが以前よりも強く感じられたんだ。それは、ライブを再び生で観ることができたことに対する喜びもあるだろうし、そこにフェス独特のマジックが加わったこともあったんだろうね。世界中でいろんな面が変わったと思うけど、パンデミックを抜け出した今はすべてが良い方向に進んでいると思うよ。
デリック・ウィブリー(Photo by 岸田哲平 ©PUNKSPRING All Rights Reserved)
デイヴ・バクシュ(Photo by 岸田哲平 ©PUNKSPRING All Rights Reserved)
─SUM 41は2022年に次のアルバムを制作すると発表したものの、翌2023年5月にはその制作中のアルバムと同作を携えたワールドツアーをもって活動を終えるとアナウンスしました。デイヴの視点でいいので、解散に至った経緯を教えてもらえますか?
デイヴ:今のバンドのラインナップは完璧に近い状態なので、この中の誰かひとりが「ダメだ、辞めたい」と思った瞬間、バンドのケミストリー的にも続けるべきじゃないという考えを、僕だけじゃなくてメンバーみんなが持っていたと思うんだ。で、解散のきっかけなんだけど、ちょうど1年くらい前にデリックから「There's no better way to say this...(これ以上のいい言い方は見つからないんだけど……)」というタイトルのメールを受け取った。僕は最初、その件名だけを見てクビ宣告の通達だと思ってしまったんだ(笑)。でも、中身を読んでみたら彼は真摯に、すごく思いやりの伝わる言葉で想いを伝えてくれた。だから、メンバーの誰ひとりとして彼に対してネガティブな感情はないし、家族のみんなも納得してくれているよ。
─なるほど。
デイヴ:この30年間、デリックは1日もオフがないんじゃないかというくらい、SUM 41というバンドと向き合い続けてくれた。僕が今まで出会ってきた人の中で彼ほど勤勉な人間はいないし、よく冗談で「Busy bee(働き蜂)」というニックネームで呼んでいたくらいなんだ。そういう意味でも、今の彼には自身とじっくり向き合うための休息がたっぷり必要なんだと思う。これがバンドの歩みを止めることになった理由かな。解散する理由を聞くのではなくそこへ至る経緯を聞いてくれて、僕も答えやすかったよ。ありがとう。
─いえいえ。デリックは昨年9月にCOVID-19起因による重い肺炎を患い、心不全を起こしたと聞いています。これ自体は解散を決めたあとの出来事ですが、そういった健康面での不安もバンドを続ける上でのモチベーションに影響したのでしょうか?
デイヴ:これだけは言っておくけど、彼は僕がこれまでの人生で出会った中で、もっとも規律正しい人間のひとり。このバンドの誰ひとりとして今回の解散について軽く考えていないし、もちろん時にはどうしようもなく疲れてしまうこともあるけど、そういった健康状態がバンドを続ける上でのモチベーションに響くことは一切ない。こうやって日本にいられるように、今の自分たちがいかに幸運で、いかに貴重な体験をさせてもらっているかを強く噛み締めれば噛み締めるほど、デリックに限らずメンバーの誰もがバンド活動においてモチベーションを問題にするなんて一度もないはずだ。どれだけ疲れていたって、ステージに向かっていってイントロが流れた瞬間、「これこそ自分たちがすべきことだ!」って気持ちが昂るんだから、それが理由でないことだけはしっかり伝えておきたいな。
『Heaven :x: Hell』がダブルアルバムとなった背景
─わかりました。ここからはニューアルバムにしてSUM 41最後のスタジオアルバム『Heaven :x: Hell』について話を聞かせてください。初期のポップパンクスタイルと近年のメタリックなスタイルが共存するダブルアルバムというアイデアは、どこから生まれたものなんですか?
デイヴ:2006年に僕がバンドを脱退する前から、こういう2枚組アルバムのアイデアは出ていたんだ。でも、「それはありえないだろ?」ということでしばらく棚上げになっていたみたいなんだけど、今回のアルバムのデモを最初に聴いたとき、ヘヴィなタイプの曲も全部良かったし、ポップでパンキッシュな楽曲も全部良かった。それで、誰が言い出したってわけではないんだけど、「だったら2枚作ってリリースすればいいんじゃない?」っていう冗談めかした声が上がったことで、ようやく実現したんだ。
─例えば、それらスタイルの異なる楽曲群を厳選して1枚にまとめようとは思わなかった?
デイヴ:実は過去4、5枚のアルバムでもそうしようとしたんだけど、全然うまくいかなかったよ(笑)。それで、2つの異なるタイプの作品を作ることに決めて、ようやく完成に漕ぎ着くことができたよ。
─「Heaven」サイド(DISC 1)で試みたポップパンクスタイルですが、初期の頃と比べると非常に成熟した感が伝わります。
デイヴ:デリックが送ってくれたデモを聴いたとき、僕たち全員が同じように感じたと思うんだけど……初期の頃に作っていた曲に欠けていた何かが、今回はハマったような気がして。その欠けていた何かというのが、今言ってくれたように成熟の要素かもしれない。あと、曲作りに関しても以前よりも洗練されていて、ビート感やフレーズも過不足なく、あるべきものがあるべき場所に収まっている。個人的にも、今までやった曲の中で一番印象深いものもあったよ。きっと、一旦そういう要素から離れたことでいろんなエネルギーが充満されて、このタイミングにすべて放出されたからうまくいったんだと思うよ。
─その一方で、「Hell」サイド(DISC 2)でのメタリックな側面は、あなたがバンドに復帰して以降のスタイルをより煮詰めた、現時点での最高到達点ではないかと思いました。
デイヴ:そう感じてもらえるのも、きっとライトサイドとヘヴィサイドをそれぞれ別のディスクに分けたからであって、それぞれの側面の究極にまで行くことができたんだと思う。デリックはいつも「行けるところまで行こう!」という姿勢で、さらにそれを共同プロデューサーのマイク・グリーンがサポートしてくれた。そのおかげで「ここまで気持ちよくやれる」というレベルが以前と比べて遥かに高いものになったんだよ。あと、僕個人としては自宅の地下にスタジオを作ったので、朝起きたらコーヒーを飲んで、階下に降りて夕食の時間までギターを弾くことができた。これまで以上に快適に作業することができたのも、作品をより良いものへと仕上げるうえで大切な要素だったのかもね。
─僕は「You Wanted War」で聴ける、あなたのギターソロがお気に入りなんです。
デイヴ:ありがとう! この曲はすごく楽しかったな。
─ギターソロはあなたが中心となってプレイしていると思いますが、普段からどのようにしてソロパートを完成させているんですか?
デイヴ:いつもは1曲に対して8〜10パターンのソロを用意して、その中からいいところを抜き取ってひとつのソロ……僕は”マスター・ソロ”と呼んでいるんだけど、それを仕上げていくんだ、その出来上がったマスター・ソロを聴き返して「ここはもっとこうできるんじゃないか」と、バンドのアレンジ含めて調整しているんだ。
─「Heaven」サイドと「Hell」サイドはそれぞれ独立した作品のようにも映りますが、「Heaven」サイドのラストナンバー「Radio Silence」、そして「Hell」サイドのオープニングナンバー「Preparasi a Salire」というアルバム本編とは一風変わった2曲を挟むことで、2つのアルバムに自然なつながりを与えているように感じました。
デイヴ:デリックはそういうことを、レコーディング初期から考えていたと思う。どのバンドもやるべきことだと思うけど、ビジョンを持ってアルバムのレコーディングに臨むことが一番大事であって、そのビジョンというのは例えばアルバム全体の曲の流れだったり、どういう音を鳴らしたいか、どういうメッセージを伝えたいかということ。デリックはそれがしっかりできていて、今回に関しても彼はいい走順を選んだと思う。彼がこのアイデアを持ってきたとき、僕を含めメンバーもみんな「いいアイデアだ」と納得した。ビジョンを持つこと、そのビジョンを実際に持って進んでいくことは、すごく絶妙なバランスが必要で、デリックはそういう才能に長けているんだよ。
─今メッセージのお話が出たのでおききします。活動を30年続けたパンクロックバンドとして届ける今作のメッセージは、デイヴの目にはどう映りますか?
デイヴ:僕らがレコーディングした楽曲のメッセージはいつも、その時点での僕らの心境が写真のように記録されたものなんだ。さっき成熟というキーワードを挙げてくれたけど、今回のアルバムにはその成熟の部分がもっとも反映された歌詞になっているんじゃないかな。今作はかつてなかったくらい、心地よく制作に臨めたので、そういった面が成熟とともにしっかり表れていると思います。
─本作でもっとも興味深かったのが、オリジナルアルバムとして初めてカバー曲を採用したことです。ローリング・ストーンズのクラシックナンバー「Paint It Black」をカバーした理由は?
デイヴ:デリックはストーンズの大ファンで、たぶん100回くらいはライブを観ているんじゃないかな。彼はもちろん、バンドメンバーのみんなもストーンズの曲を演奏するのが好きで、中でも彼は特にこの曲を弾くのが大好きなこともあって最後に演っておきたいと思ったんじゃないかな。実は、あの曲のギターは全部デリックのプレイで、好きすぎるがあまりに全部演ってしまったんだろうね(笑)。弾きやすい曲なのでリハーサルではよく演奏しているんだけど、いずれライブでも披露してみたいよ。
「夏休み」の終わり、バンド解散後の動向
─夏休みの41日目に観た『Warped Tour』に感銘を受けたことでスタートしたSUM 41ですが、30年近く続いた”夏休みの延長(=バンド活動)”はあなたにとってどんな期間でしたか?
デイヴ:そうだなあ……つい最近、デリックに「自分たちは100億分の1くらいのチャンスを勝ち獲ったんだよな」っていうテキストメッセージを送ったばかりなんだけど、僕らがトロントでSUM 41を始めたばかりの頃は、決して周りから好かれるような存在ではなかった。「自分たち以外みんな敵だ!」ぐらいの気持ちで活動を始めて、気づいたら僕らは”4匹のモンスター”にまで成長していた。もちろん、僕を含めここまでメンバーチェンジも何度かあったけど、新旧メンバー誰もがお互いのことが大好きで、今では彼ら以外のメンバーとは一緒にできないぐらいにまでリスペクトし合えている。そういったバンドの物語を表現する上で”Vacation”という言葉が最適だったんだけど、たくさんの素敵な思い出や出会いに感謝の気持ちを持って、2025年1月30日にこの”Vacation”を終えられそうだよ。
─では、SUM 41が後続たちに与えた影響やシーンに残した功績について、あなたはどう考えていますか?
デイヴ:いろんなバンドから「SUM 41に影響を受けたんだ!」と言われるのはとてもうれしいけど、普段はそんなことまったく意識していなくて。僕らは常にバンドとしてやらなきゃいけないことに精一杯で、誰に影響を与えてきたかなんて考える暇もなかった。ただ、SUM 41が30年間もライブバンドで居続けられたことに対しては、僕は今でも信じられないと思っているし、メンバーの誰もが誇りを持っているはずだよ。
─来年の今頃はすでにSUM 41の活動は終了しているわけですが、あなたはその頃何をしているんでしょうね?
デイヴ:まだまだライブがたくさん控えているので、1年後のことはまだ想像できないんだけど……もちろん寂しかったり悲しかったりすると思うよ。でも、僕は家庭の問題で2006年に一度バンドを離れ、2015年に復帰したわけで、そもそもバンドに戻れるなんて思ってもみなかった。そういう意味では、悲観するよりも自分の幸運さを噛み締めているんじゃないかな。
─すでに次のアクションについては考えているんですか?
デイヴ:自分にとってステージの上で何かを表現することが一番の幸せなので、そういう表現活動を続けているとは思う。ただ、現時点においてメンバー誰ひとりとしてSUM 41の活動を終えたあとについて、話し合っていないんだ。今はとにかくツアー先での一瞬一瞬がもっとも大事だからね。
─わかりました。今はこの最高のラストアルバムがより多くのリスナーのもとに届くことを願っています。
デイヴ:うれしいことに、このアルバムからはすでに20年ぶりの全米No.1ヒットが生まれているんだ(※リード曲「Landmines」がBillboard Alternative Airplayで1位を獲得)。僕らは「お客が来ようが来まいが楽しもう!」という思いで今回のこのラストツアー開催を決めたんだけど、ツアーを始めて数ヶ月経ってみて「最高の”最後の1年”になりそうだ」と確信できたところ。アルバムの仕上がりに関しても僕ら自身誇りを持っているので、君が言ってくれたように多くの人に聴いてもらえることを願っているよ。
SUM 41
『Heaven :x: Hell』
発売中