試行錯誤の末のファイナルでは新たな発想に驚きも

ファイナルでは、29名のプログラムを実装した装置の動きを全員で見つめる。ボールをどうやって穴へと届けるのか、さらにはハイスコアを得るためにどういった戦略を立てるのか。装置の周りに集まった参加者同士も興味深々な様子だった。

  • ファイナルでは装置を囲むように参加者全員が集まった

    ファイナルでは装置を囲むように参加者全員が集まり、それぞれの挑戦を見守った

ファイナルの実演が、トライアル2回目での得点が低かった参加者から順に行われることもあり、開始前にトライアル2回目のランキングが発表された。するとやはり、シミュレータ問題の成績からは大きく順位が変動しており、実機の動作ならではの対応力が表れていた。

しかしファイナルの結果から見れば、その順位すらも最終結果の参考にはならないほど、まったく予想のできない展開となった。トライアルを試行錯誤のための材料として用いていたのか、ファイナル序盤に登場した参加者が好成績を残すこともしばしば。逆にトライアルでは好成績を残していた参加者でも、障害物のサイズや抵抗の大きさを見定めきれずにスコアが伸び悩むことがあった。過去のDDCCで上位を獲得した参加者も数多く参加していたが、その経験をもってしても物理現象の予測は難しく、“大満足”といった表情を見せる参加者はほぼいなかった。

しかし、予測できないからこそ生まれる奇跡もある。ファイナルでは、障害物であるバーにボールを当てることでボールの軌道を調整し、狙いの穴へと送り届ける例がいくつも見られた。中にはバーに2度当てて穴を狙う参加者もいて、その実演を観た参加者からはどよめきが起こっていた。それらの多くは、トライアルの中で偶然ボールが穴に入ったためにファイナルでも利用したとのことだったが、ディスコの担当者も「ボールの動きを妨げる障害物としか思っていなかったバーを、軌道の調整のためにうまく利用するという発想すらなかった」と語っており、シミュレーションだけでは生まれ得ない新たな発想が見られていた。

  • ファイナルの様子

    さまざまな発想でスコアを上げる参加者たちを見て、ディスコの解説者も驚きを隠せていなかった

たった1人だけ1万点を超えた優勝者の挑戦映像

装置を動かすためのプログラミングが楽しめる人材を

今年で8回目の開催となったDDCCは、オンライン予選を通過した29名が名物の装置実装問題に挑戦し、ハイレベルな戦いを経て幕を下ろした。では、ディスコはなぜこういったプログラミングコンテストを主催しているのだろうか。

ディスコの担当者いわく、当然ながら“人材獲得”といった側面が大きいという。IT技術の発展に伴ってソフトウェア人材に対する需要は急増しており、提供価値を大きく左右するソフトウェア開発能力を向上させるため、人材獲得は喫緊の課題となっている。

そういった世の潮流もあり、若手のソフトウェア開発人材がIT企業へと流れている傾向にあるとのこと。しかし、ディスコの事業領域である半導体製造装置においても、ソフトウェアが果たす役割は非常に大きく、どんなにいい製品があっても、今やそのソフトウェア制御がうまく行かなければ、優れた性能を発揮することは難しい。つまり、ディスコも事業を成長させるためにはソフトウェア人材の確保が不可欠なのである。

では同社は、どういった人材を求めるのか。大会担当者によれば、その理由こそがDDCCでの装置実装問題の出題につながるという。半導体製造装置をはじめ、モノに実装するソフトウェアは、実際に装置を動かした際に性能を発揮できるかがすべてだ。裏を返せば、装置自体のずれや物理的な特性を考慮してプログラムを最適化できなければ、そのソフトウェアは価値を生み出せない。まさにDDCCの参加者たちが直面した課題は、ディスコという企業が日常的に取り組んでいる作業の1つなのだ。

今回の問題に使用された装置は、DDCCのために製作されたもので、前回大会でも同じものを用いたとのこと。ディスコが実際の製品にも搭載するような高品質の部材を使用しているとのことで、装置の製作にも多くの費用がかけられているとする。

  • 問題用の装置

    実際の半導体製造装置でも使用するような部材を用いて製作された問題用の装置

前出の大会担当者は、「一般的なプログラミングコンテストのように画面の中で答えを出すことを目指すのではなく、実際の装置に触れて動かす、という体験を楽しんでもらうために、装置実装問題を出題している」と話す。また同社として求める人材として、「今回問題のように、装置を動かして調整を行う作業が面白いと思ってもらえる人に入ってきてほしい」と話した。

なおDDCC 2024では、本選に参加した29人全員に就職面接パス券が用意され、中でも1位~6位の参加者は、採用フローが役員面接のみとなる。実際にこういった制度を経て入社した例もあるとのことで、大会に際して行われた会社見学では、2019年のDDCCに参加しディスコへと入社したエンジニアによる技術説明も行われた。大会OBである先輩の姿を見て、今大会の参加者たちは何を感じただろうか。

大会優勝者には賞金とトロフィーが贈呈された

大会の表彰式では、半導体ウェハを模したシリコン製のトロフィーと賞金(優勝:30万円、2位:20万円、3位:10万円)が送られた。優勝者は「実際に装置を動かすという貴重な経験ができて、しかも優勝ができたのでとてもうれしい」と話した。過去大会で好成績を残した参加者たちもしのぎを削った中、新たな優勝者が誕生した今大会。次回はどんな装置を舞台に、どういった戦いが繰り広げられるのか。モノを動かすプログラミングの戦いに、今後も注目したい。

  • DDCC 2024の優勝者にはシリコン製トロフィーと賞金が贈られた

    DDCC 2024の優勝者(中央)、2位(左)、3位(右)には、それぞれシリコン製トロフィーと賞金が贈られた