3月26日12時に応援購入サイトMakuakeに登場した、明治の人気チョコスナック「きのこの山」をかたどった完全ワイヤレスイヤホン。29,800円という値付けながら、用意された3,500台は即完売してしまい、関係者一同もまさかの事態に驚いているようだ。
今回、Makuakeが主催する家電製品の体験会にも同製品が登場していたので、気になるあれこれを全部“中の人”にぶつけてきた。無事に購入手続きを済ませて配送を心待ちにしている人や、実際どうなの? と感じていた人、さらには「たけのこの里」の商品化を気にしている人に向けて、取材の結果をお届けしたい。
なお、きのこの山ワイヤレスイヤホンの詳細については3月25日の発表会や、明治の特設サイトで既に紹介しているので、ここでは注目ポイントに絞ってピックアップしていく。
「きのこの山ワイヤレスイヤホン」のねらいは何?
日吉氏によれば、明治は現在、人気商品の「きのこの山」「たけのこの里」をグローバル展開していくことを構想しているものの、海外ではきのこの山のみしか販売できておらず、2製品の認知がまだまだ広がっていないという課題があるという。そこで「きのこの山ワイヤレスイヤホン」を限定数量ながら販売し、これを通じて“言葉の山”を超えることでコミュニケーションの幅を広げ、「きのこの山」、「たけのこの里」を広く知ってもらう一助にしたい、という思いがあるそうだ。
もともと、きのこの山を模したイヤホンは明治の公式X(旧Twitter)で投稿された「架空のおもしろ雑貨」企画のうちのひとつだった。それが想定以上の反響をうけ、正式に商品化を決定。立体商標も取得しているきのこの山のデザインを忠実に再現しつつ、左右独立の完全ワイヤレスイヤホンとしてもしっかり使えるよう、既に翻訳機能付きのワイヤレスイヤホンを展開しているウェザリー・ジャパンと協業して製品開発。応援購入サイトとして多数の実績をもつMakuakeが販路に選ばれた、というわけだ。
きのこの山ワイヤレスイヤホンの実機を手に取ってみると、実物(食べられる方)のデザインを本当によく再現できていることが分かる。さらに細かく見ていくと、実物は上が「カカオが香るチョコレート」、その下に「まろやかなミルクチョコレート」を使った2層構造になっているのだが、イヤホンの方でも微妙に色合いの違う2色を使うことでそれを忠実に表現している。
ただ、かたちやデザインにこだわり抜いてあまりにも本物っぽくできてしまうと、今度は誤飲のリスクが高まるという懸念がある。それを防ぐためにも、耳穴にいれる部分は「これがイヤホンである」ことが分かるよう、あえて白い部分を残したのだそうだ。
開発段階では、耳穴に入れる部分を白ではなく、チョコと同じカラーリングにすることも考えていたようだ。しかし食品メーカーとしては、たとえ関連グッズであっても絶対に誤飲事故を起こすわけにはいかない。X(Twitter)などで反応を見ていると、当初の見た目とのギャップから「思っていたのと違うデザインだな……」と感じている人も少なくないようだが、この変更は致し方のないところだろう。
ちなみに担当者によれば、誤って口に入れても飲み込まれないよう苦い成分などをあらかじめイヤホンに塗っておく……という案もあったという。だがこれは製造上の都合で実現せず、かわりにあえてイヤホンらしい外観を残しつつ、さらにパッケージへの注意書きも加えることで、誤飲リスクへの対策をしたそうだ。
デザインへのこだわりは充電ケースにもあらわれている。こちらも実物(食べられる方)の紙箱パッケージをかなり忠実に再現しているのだが、よく見ると「明治チョコスナック」が「明治ワイヤレスイヤホン」になっていたり、右上の葉っぱの上に書かれている「ほっとひといき」が「翻訳機能付き」に置き換えられていたり……(しかも、しっかり韻まで踏んでいる)。実物のパッケージ同様に、数十台にひとつくらいの割合で隠し絵の要素があってもいいように思うが、製造コストがさらにあがってしまうだろうか?
担当者も「(決して廉価なモノではないので)持った瞬間にいいものだな、と感じてもらえるようにしたい」と話しており、ケースへの印刷精度の向上や、ツヤ有りのグロス加工にするといった構想を実現するべく動いているそうだ。
翻訳機能はどれくらい使えるの?
「きのこの山ワイヤレスイヤホン」のもうひとつの注目ポイントが、「144言語対応の同時自動翻訳機能」を搭載している点だ。専用のスマホアプリとの連携で実現しており、通訳したい言語はアプリから選べる。
144言語対応の内訳は、74カ国の言語と70の方言アクセントとなっており、日本語と英語(米国、イギリス)、フランス語、ドイツ語、スペイン語、ロシア語、韓国語、中国語、タイ語、ベトナム語といった代表的な言語はひととおりカバー。細かいところでは、スワヒリ語やアルバニア語、ラオ語(ラオスの公用語)などにも対応しているという。
翻訳モードには、お互いの会話をリアルタイムかつハンズフリーで通訳する「タッチモード」と「フリートークモード」、スマートフォンを通じて話した言葉を音声で外国語に変換する「スピーカーモード」を用意。日常会話レベルであれば、そつなく翻訳→再生までをこなしてくれる。
きのこの山イヤホンの開発に携わっているウェザリージャパンは、これまでイヤホン型リアルタイムAI通訳機「Wooask」(ウーアスク)を手がけてきた実績があり、きのこの山イヤホンでも既存製品と同じアプリを使うことで翻訳機能を実現している。
成田空港で発表日に見た実機デモでは、日本語と英語の相互翻訳にだいぶ時間を要していたのだが、今回のMakuakeでの体験会では、実機デモは比較的スムーズに進んでいた印象で、本当にたった数秒程度で日本語から翻訳された音声が流れていた。
翻訳機能を効率よくスムーズに使うには、ある程度短いフレーズにして、翻訳が終わるのを待ってからまた発話する……といった使いこなしが必要になる模様。空港のように不特定多数の人が会話している場面や、アナウンスなどが流れる環境ではやはり翻訳精度が落ちてしまうようだ。周囲の雑音が少ない落ち着いた環境で使えば、翻訳機能も本来の実力を発揮してくれることだろう。
使い勝手や音質はどう?
オーディオ・ビジュアル関連を中心に取材している筆者にとっては、きのこの山イヤホンの使い勝手や音質も気になるところ。ウェザリージャパンのAI翻訳ワイヤレスイヤホン「Wooask M6」と似ているが、仕様を比較しながら眺めてみたところ、きのこの山イヤホンのほうが新しい部分も多々見受けられる。
キモとなるドライバーユニットには、10mm径のダイナミック型ドライバーを採用。「他のイヤホンに負けないくらいのパワフルな音圧とダイナミックな音質」を追求しており、音楽や人の声の聞きやすさを考慮したチューニングを施しているという。
今回、きのこの山イヤホンのサウンドを改めて確かめるために、自前のスマートフォン(ワイモバイル「Libero Flip」)を持ち込み、Apple Musicなどの音楽ストリーミングサービスや、手持ちの音楽ファイルからいくつか聴いてみた。
相性が良いのはやはり洋楽(特にEDM)やJ-Pop。ザ・ウィークエンド「アイ・フィール・イット・カミング(feat.ダフト・パンク)」、MORISAKI WIN(森崎ウィン)「パレード」、Uru「アンビバレント」といった楽曲は特に楽しく聴けた。低音やビートの鳴り方に特徴があり、ユニークな見た目をいい意味で裏切る“重低音イヤホン”といってもいいだろう。
逆に言えばそれ以外のジャンルの音楽とは相性があまり良くなく、聴く楽曲によっては薄っぺらく感じられてしまう場合があるかもしれない。どんなジャンルの曲もそつなく鳴らす“万能選手”であればうれしかったのだが、そこは割り切ったようだ。
ちなみに、きのこの山イヤホンに内蔵しているチップはクアルコムのエントリーBluetooth SoC「QCC3040」シリーズで、Bluetooth 5.3に準拠。対応コーデックはSBC、AAC、aptXとなっているが、手持ちのLibero Flipに接続するとより新しいaptX Adaptiveコーデックが使えることも分かった。aptX Adaptive対応=高音質というわけでもないのだが、チップ回りの素性がいい点は(マニア的には)好印象。せっかくなので専用アプリにも翻訳機能だけでなく、イコライザー機能を追加して好みのサウンドに調整できるように機能強化してほしくなるところだ。
なお余談ながら、Libero Flipは比較的安価に買える折りたたみスマホとして注目を集めた新製品で筆者も早々に入手したのだが、試用しているうちに使えるBluetoothコーデックの種類が結構充実していることも分かってきた。こういったワイヤレスイヤホンの検証にはもってこいの1台だと思う。
使い勝手の面では、きのこの山のチョコ部分に指で触れることで各種操作が行える(製品ページなどには特に記載はない)。担当者によれば、左右とも1回タッチで再生/一時停止、右の2回タッチで曲送り、左の2回タッチで曲戻しが可能。また、電話がかかってきたときは1回タッチで着信応答操作ができる。さらに数秒間長押しで、接続したスマートフォンの音声アシスタントを呼び出せるとのことだ。
充電ケースに関しては、USB-Cの有線充電のみ対応で、置くだけワイヤレス充電には対応しない。今回は試せなかったが、きのこの山のパッケージにケーブルをブスッと刺している……という図は、なかなかシュールなものになりそうだ。
「たけのこの里」はどんな商品化を?
きのこの山ワイヤレスイヤホンはある意味、コレクターズアイテムのようなものなので、個人的には既存の他社製イヤホンと価格やスペックを比較することにそれほど意味はないのではないか、と感じる。
実際、明治はきのこの山イヤホンをオーディオ製品やガジェットとして売る、というよりは“コミュニケーションツールとして楽しんでもらう”ことに重きを置いたアピールをしており、同社の日吉氏も「きのこの山イヤホンをつけていることでコミュニケーションが生まれ、笑顔や楽しさといったものを付加価値として提供できると思う。(既存の製品とは)ちょっと違った楽しみをお客様に提供したい」と語っていた。こうした思いや商品化までのストーリーを適切に伝えるために、クラウドファンディングではなくあえて“応援購入サイト”という言葉を掲げるMakuakeが選ばれたのもうなずけるところだ。
ただ、大きな注目を集めた「きのこの山ワイヤレスイヤホン」ではあるが、執筆時点では既に完売。Makuakeによると、本来このプロジェクトは4月29日18時まで先着順で受け付ける仕組みだったが、「想定をはるかに上回るアクセス集中」により注文処理が追いつかず、結果として「購入できたはずなのに在庫切れキャンセルになった」という事態が起きてしまった。Makuakeではキャンセル分の在庫が戻る場合など、一時的に購入が可能になるケースもあるとアナウンスしている。
今後追加販売をするのかどうか、海外でもイヤホンを買えるようにするのか、といった問合せは各方面から両社に届いているそうだが、現時点では具体的な発表はなされていない。日吉氏は「我々(明治)の目指すところに今後どうしていけば到達できるか、検討していきたい」と語っていた。
最後に、ユニークなサイト構成やデザインも注目されていた、きのこの山イヤホンの特設サイトの最下段にしれっと登場した「たけのこの里」らしきシルエットについて。
こちらについては、日吉氏によれば「きのこだけにかたよらず、きのこ・たけのこ両方が話題になって楽しんでもらうことをめざしており、たけのこも“何もしないわけじゃないんです、ちゃんと考えていますよ”……というメッセージも含めて(たけのこの里のシルエットを)載せている」とのこと。たけのこの里でどんな商品化を行うのか、電気が通るモノなのかそうでないのかも含めて、現状特にアナウンスできる情報はないそうだが、続報を気長に待ちたいところだ。