3月15日と16日に開催された2024ジャパンパラゴールボール競技大会で準優勝だった女子日本代表。2023年はIBSAワールドゲームズ(イギリス・バーミンガム/8月)、アジアパラ(中国・杭州/10月)、アジアパシフィック(中国・杭州/11月)でも準優勝となり、主要国際大会で頂点に立てない苦しい状況が続いている。パリ2024パラリンピックで欲しいのは金メダルだけ。悔し涙をうれし涙に変えるべく、チームは進化を続けている。

ターゲットはパリの金メダル

ここ最近、金メダルという結果を出せないのはなぜか。どこが足りないのか。エースの萩原紀佳は、悩んだ末にチャレンジすることにした新たな攻撃の引き出しを披露。「すごく練習してきた」という角度をつける助走は、ジャパンパラで得点にもつながった。

金メダルへの強い思いを口にするエースの萩原

「(見えない状態の)相手は助走でボールがどこに来るか判断しているので、くの字に投げたり、投げる方向とは別の方向に走って最後の一歩で(体をひねり)投げたりしている。(そうすることで)角度がつくので相手を惑わせるひとつの武器になるのではないかなと思って」

パリの金メダルにつなげる大会にしたい、と話したジャパンパラで大きな収穫を手にした。

同じく報道陣の前で「金メダル」という言葉を口にしたキャプテンの高橋利恵子は、ディフェンスの要でもある。パリの出場権を決めたアジアパシフィック以降、ディフェンスを課題に挙げて強化したと話す。今大会では世界トップスピードを誇るリヒ・ビン・デビット(イスラエル)の球を受け、チームの弱点となっている場所やスピードボールを受ける態勢などを再確認し、本番まで残り5ヵ月でやるべきことを明確にした。

東京パラリンピックにも出場したキャプテンの高橋

また、東京パラリンピック以降、レフトポジションを強化するチームでパフォーマンスを上げているのがベテランの天摩由貴だ。

「ずっとライトプレーヤーだったが、レフトに行く可能性もあるんじゃないかというのを自分の中で考えて挑戦していて、今大会でも持てる力を発揮していた」(辻美穂子ヘッドコーチ)

日本代表のポイントゲッターでレフトの欠端瑛子が手首の故障で戦線を離れていることもあり、パリで天摩の活躍は欠かせない。

天摩は昨年、日本代表メンバーから外れることもあったが、復調を見せた

代表の座をつかむのは誰だ?

その天摩とともにレフトウイングを担う21歳の新井みなみも、代表候補に名乗りを上げる。

世界で戦う若手の萩原(左)と新井

「新井選手はすごくコントロールがいい選手。ちょっとずつ跳ねるバウンドが得意で、グラウンダーとの高低差をつけられるので(ライトポジションの自分としては)すごくやりやすいです」(萩原)

新井は175㎝の高さを活かして日本代表のキープレーヤーに成長した

前回のジャパンパラで代表デビューし、その後公式戦も経験した。本人も「1年前と比べたら、移動攻撃ができるようになり、ディフェンス力が少し高くなったのかなと思えた。この場で、みんなに見てもらえてよかったと思います」と充実した表情を見せた。

2021年にゴールボールを始めた新星の新井もパリ代表有力選手だ

ウイングもセンターもできるユーティリティプレーヤーの安室早姫も、力強いプレーで存在感を見せつけた。

日本ゴールボール協会は3月までをパリパラリンピック日本代表の選考期間としており、「この大会はパリの選考というところで、やっぱり自分たちのプレーをアピールしなきゃいけない場でもある」と話した安室は、ペナルティスローの場面で自ら志願し、その言葉通りに得点を決めて代表入りをアピールした。

複数ポジションをこなす安室は攻撃力がアップした

東京パラリンピックでは日本代表選考から漏れた小宮正江もパリの代表候補だ。「過去イチの体重」で重いボールを投げ、ディフェンスも改良中。チーム最年長のベテランだが、まだまだ進化は止まらない。

コート外では若手の話を聞くなど精神的な支えでもある小宮

女子日本代表は、2012年のロンドン大会で金メダル、2021年の東京大会で銅メダルを獲得し、パリ大会では3大会ぶりの金メダルを目指す。

小宮は今大会のメンバーにおいてロンドン大会で日本代表が手にした金メダルを唯一知る選手だが、現在のチームの金メダルへの思いも負けず劣らず強いと感じている、と証言する。

「私もやはりアテネで銅メダルを取ってその悔しさがあったからこそロンドンで金が獲れたと思っている。東京での悔しさがあり、『絶対に(金メダル)』というすごく強い気持ちがチーム全体にあると思います」

さらに、東京パラリンピックでローイング日本代表だった木村由、IBSAワールドゲームズ代表の神谷歩未もメンバー入りを目指している。

世界ランキング2位の女子日本代表だが、世界ランキング1位のトルコ、今回のジャパンパラ決勝で敗れたイスラエル、アジアの壁となっている中国、世界選手権で敗れた韓国など、金メダルへの道に立ちはだかるライバルは少なくない。激化する代表選考もまもなく選考期間を終え、パリへの準備が本格的に始まる。日本代表はパリで一番輝く色のメダルを獲得できるのか。史上最強のゴールボール女子日本代表から目が離せない。

会場は横浜国際プール。「練習では聞こえづらいと思ったけど試合では普段通りにプレーできた」とは安室

text by Asuka Senaga
photo by X-1