NHK大河ドラマ『光る君へ』(総合 毎週日曜20:00~ほか)に藤原詮子役で出演している吉田羊はエイジレスな人である。年齢非公開にしている理由も、演じる役を限定しないようにということらしく、だからこそ『光る君へ』第1回で登場したとき、詮子は10代の設定だったが、その時代も堂々、演じてみせた。

  • 『光る君へ』藤原詮子役の吉田羊 (C)NHK

『光る君へ』藤原詮子役で10代も 話す速度を変えて若さを出す

とはいえ、いくら年齢非公表でも、おそらく兄役の井浦新(藤原道隆)とは同世代、同じく兄役の玉置玲央(道兼役)よりは上だというのはなんとなくわかる。

もちろん、演じる世界では、実年齢から離れた役も想定内であるし、とりわけ大河ドラマでは子供時代まで大人の俳優が演じることが少なくない。それでもやはり10代を演じることは難しい。そのことを吉田羊も自覚していたことを『あさイチ』のプレミアムトークで語っていた(24年3月8日放送)。

『あさイチ』では、書籍まで出すほど好きな着物ファッションで登場。現代風にアレンジした着こなしがおしゃれで、視聴者からも年齢不詳だしとても若見えすると評判だった。

『あさイチ』で吉田は、詮子の若さを演じるために、話す速度を変えたと話していた。若者は頭で咀嚼しないで思ったことを話すが、大人になると考えて話すようになるので、速度に変化があると考えたそうなのだ(大意)。確かに、ポンポン話したほうが若さゆえの勢いが出る。声を少し高くするのはありがちだが、高低差だけでなく速度も加える。この認識と工夫、さすが、引っ張りだこの名優だ。

10代で詮子は、円融天皇(坂東巳之助)に入内し、皇子をもうけたものの、夫からは冷たくされ、傷心のまま東三条に下がる。そのあたりから、吉田の面目躍如というべきか、詮子のキャラクターが生き生きしていく。円融天皇が若い女性に夢中になっている傍らで、自分の容色の衰えを気にする表情も印象的だったし、でもその後、皇子を跡継ぎにすれば自分の地位が上がることに望みをかけてひたすら忍耐し、結果的に皇子は7歳で一条天皇となり、国母、そして皇太后という高い地位を得たとき(第11回)の詮子には貫禄が備わっていた。

ここから詮子は、藤原家隆盛の時代、「裏の政治家」として暗躍することになる。彼女は父・兼家(段田安則)に対して諦めを抱いており、一家のなかで、唯一父のやり方に染まっていない道長(柄本佑)を推していくことになる。やがて道長が最高権力者にのぼり詰めていくうえで、詮子の存在も重要になるのだろう。

詮子は口うるさく、道長に家柄のいい女性との結婚を勧める。家の存続を第一に考えて女性を政治の道具としてしか見ていない(息子のことも実のところ道具なのだが)父・兼家をあれほど毛嫌いしていたにもかかわらず、父と同じようなことを言っていることにはたと気づくとき、それこそが人間の奥深さであって、吉田はそんな人物の陰影を見事に演じている。

シリアスなシーンはお手の物だし、兼家が昏々と眠っていてこのまま亡くなってしまうかと思ったら目を覚ましたのを見て「キャーーー」と大声を出す場面ではコメディエンヌの才も見せた。

『不適切にもほどがある!』でコメディエンヌの才能を存分に発揮

コメディエンヌとしては、TBS系金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』で存分に才能を発揮している。そこで吉田は2024年から1986年へ、性差別やジェンダー問題の研究のためにタイムスリップする社会学者・向坂サカエを演じている。そう、ここでもエイジレスというか、時をまたにかけているのだ。

元夫・井上(三宅弘城)が発明したタイムマシンで過去に来たサカエは、まだ中学生の井上や、まだ少女である自分に出会ったり、不倫ドラマ『金妻』(金曜日の妻たちへ)に夢中になったり、息子のキヨシの担任・安森(中島歩)とちょっといい感じになりそうでならないところで揺れていたりする。

どんな場面でも知性的で真面目さゆえに、逆に面白いキャラになっていて、サカエはこの物語に欠かせない。

  • 『不適切にもほどがある!』向坂サカエ役の吉田羊 (C)TBS

第7話では、安森への葛藤を歌って踊り(『不適切にもほどがある!』ではミュージカルシーンが定番になっている)、その歌も踊りも見事すぎた。

なんでもできるにもほどがある! だからこそ、引っ張りだこなのだろう。三谷幸喜作品でも活躍している。三谷大河では『真田丸』に信之(大泉洋)の正室・稲(小松姫)役で出演した。そのとき夫役だった大泉洋とは「ようようコンビ」とも呼ばれ、共演作も多い。

吉田が芸能の仕事をはじめたきっかけはまず劇団を作って活動したこと。小劇場界隈で注目され、そこから徐々に映像の世界にも進出していった。そのきっかけは中井貴一で、小さな役でも一生懸命やる吉田のひたむきさに目を留めたことだったそうだ。

筆者は吉田に一度ロングインタビューをしたことがあるのだが、事前に出した質問に対する回答をA5用紙にびっしり書いてきてくれて、なんて準備のいい人なのだろうかと驚いた。きっと芝居でもこんな風に徹底して準備万端整えるからこそ、任せて安心と信頼されるのだろうと思った。その取材で、これまで役で演じた最高年齢は63歳で、最低年齢が10歳だったと聞いた(2021年10月の時点で)。

近年は、女性だけで演じる『ジュリアス・シーザー』(21年)で「ブルータスおまえもか」で有名なブルータス役を演じ、第56回紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞した。今度は『ハムレットQ1』でハムレットにも挑む。エイジレスのみならず、(役的に)ジェンダーレス。つまり、吉田羊はあらゆる境界を自由に行き来するボーダーレスな人だ。