ポルシェ新型パナメーラ海外試乗記|未体験の乗り味を実現した、驚きのサスペンション

ポルシェの2023年のグローバル販売台数は32万221台と過去最高を記録している(ちなみに国内の新規登録台数も初の8000台超え)。もっとも売れているのがカイエン、続いてマカン。そして911、タイカン、パナメーラ、718ボクスター&ケイマンの順となっている。

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そして先日の年次報告でポルシェは今年4つの新型車を投入することでさらなる成長を図ると発表した。その4つのうちの第1弾がライフサイクルの後半を迎えていたパナメーラだ。

先代の2世代目が登場したのが2016年ことなので、およそ8年ぶりのフルモデルチェンジとなる。大人4人が乗車できるスペースと、使い勝手のよいハッチバックを備えた、フロントエンジンの4ドアスポーツカーというポジショニングはこれまでと同様だ。

新型の国際試乗会は温暖な気候のスペイン南部、アンダルシア州の州都セビリアで行われた。出発地点である市内のホテルには、まずベースモデルのパナメーラが用意されていた。

プラットフォームは先代の「MSB」の改良版である「MSBw」という。ボディサイズは全長5052 mm、全幅1937 mm、全高1423 mm。ホイールベース2950mmで先代とほぼ変わらない。エクステリアでは4つのモジュールが特徴的なLEDヘッドライトやボンネットの形状などは、くっきりとした輪郭でシャープになった。ナンバープレートホルダーの上に、新たに追加されたエアインレットは先代とのわかりやすい識別点だ。パナメーラの伝統であるスポーティなサイドビューをかたちづくる”フライライン”ももちろん継承されている。

インテリアはタイカンにはじまった新しいデザイントレンドを汲んだもの。メーターはひさしのない自立型の12.6インチディスプレイで、オプションでヘッドアップディスプレイや助手席用ディスプレイも用意されている。911の伝統をうけスタートボタン(かつてのキーシリンダー)はステアリングホイールの左側に配置する。オートマチックトランスミッションのセレクターレバーは、センタコンソールからステアリングホイールの右側奥に移設されている(右ハンドル仕様ではそれぞれ逆の配置になると思われる)。したがってセンターコンソールまわりからはスイッチ類なども極力廃されスッキリとした。

リアシートは身長約180cmの大人でも十分にくつろげるスペースがある。ベースは4シーター仕様で、オプションで4 + 1 席を選択することも可能。荷室容量は「パナメーラ/パナメーラ4」が494~1328リッター、「パナメーラ ターボEハイブリッド」が421~1255リッター。後席は40:20:40の分割可倒式となっている。

パナメーラと4輪駆動のパナメーラ4に共通のエンジンは、2.9リッターのV6ターボ。先代比で23 PS/50Nmアップの最高出力353 PS、最大トルク500 Nmを発揮する。トランスミッションは8速PDK。パナメーラの0−100 km/hのタイムは5.1秒、最高速度は272 km/h、パナメーラ4は、4.8秒で270 km/hと公表されている。

走り出してすぐにボディ剛性や静粛性の高さが伝わってくる。新しくなったPDKは低速域でもぎくしゃくすることなくマナーがいい。シフトチェンジも鋭くかつ滑らかで、全長5m超の車であることを忘れさせるほど軽快に走る。あとで確認したところ、911と同じPDKを使っていると教えてくれた。スペインの高速道路は、日本と同様に速い区間で制限速度120km/h。安心感が高く抜群の直進安定性をもってひた走る。

新型パナメーラは、ポルシェアクティブサスペンションマネージメント(PASM)を備える2チャンバー、2バルブ技術のエアサスペンションを標準装備する。これはダンパーの伸び側と縮み側とを別々に制御し、コンフォートとスポーツとの振り幅を拡大するもの。石畳の道や継ぎ目を乗り越えた際のショックを大幅に吸収してくれる。そしてワインディング区間でスポーツモードに切り替えると、操舵に対する動きの正確さに唸らされる。パナメーラ4にも少しだけ試乗できたが、印象はほぼ変わらなかった。ちなみに車両重量はパナメーラ4のほうが35kgほど重くなっている。

午後のセッションの舞台は、セビリアの市街地から西へ約50kmのところにあるモンテブランコサーキット。全長約4.4km、ホームストレートは約1km、18のコーナーからなる本格コースだ。ここではプラグインハイブリッドモデルの「ターボEハイブリッド」を試す。

ポルシェはいまカイエンなどでもハイブリッドモデルを頂点に据えるが、パナメーラでも同様にこの「ターボEハイブリッド」をトップモデルと位置づける。総出力は680PS、トルクは930Nmを発揮。バッテリー容量は25.9kWhで、電動モードでの最高速度は140km/h。今回は公道試乗がなく検証できなかったが、EV航続距離は(WLTP複合値)76~91 kmとなっている。ちなみにポルシェはこの新型パナメーラからターボモデルのクレストをゴールドにかえてメタリックグレーに変更する。その名はTurbonite(ターボナイト)。接尾語の[ite]は石の意味だ。

まずはスポーツモードでコースインする。車両重量が2360kgもあるだけに、やはりコーナーでは重さを感じる。しかし、ひとたびアクセルペダルを踏み込めば、0-100 km/h加速3.2秒は伊達じゃない。重力を無視するかのように加速する。初代のPHEVモデルには制御の問題でブレーキフィールに違和感を覚えることがあったが、摩擦ブレーキと回生ブレーキの協調制御も自然で、ポルシェらしい盤石の制動フィールを味わうことができる。

3周ほどラップを終えると先導車に乗るインストラクターからハイブリッドモードにせよと無線が入る。すると今回のハイライトである新技術の「ポルシェアクティブライドサスペンション」が起動する。これは、2バルブ技術を採用した新開発のアクティブショックアブソーバーに、前後アクスルのそれぞれに配置された電動式の油圧ポンプを接続したもので、ボディの動きに応じてダンパー内に瞬時に正確なオイル流量を発生させることが可能となっている。これにシングルチャンバー式にすることで軽量化したエアサスペンションシステムを組み合わせる。この油圧ポンプは400Vシステムによって駆動するため、Eハイブリッドモデルのみのオプション設定となっている。

このダンパーは走行状況や路面に応じて1秒間に最大13回調整を行う。これにより加速時のフロントリフトやブレーキング時のノーズダイブをなくし、そしてコーナリング時には内輪側を沈みこませ、外輪側をもちあげるアクティブチルトコントロールまでを駆使して常にボディを水平に保つ。

サーキットでのスピードレンジでこれを試してみて驚いた。スピードと予想する挙動の大きさがマッチせず違和感を覚えるのだ。もちろんそこはポルシェも心得ていて、サーキット走行後に、50km/hで波板の上を走りぬけたり、パイロンスラロームなどを試させてくれた。こちらは運転していても、外から車の挙動をみていてもこれまで未体験の乗り味だった。

そのすごさは文字で説明するより、動画を見てもらったほうがわかりやすい。デモ用にスマートフォンの動きと連動するようになっている。ちなみに乗降性を高めるために、ドアを開けると瞬時に車高が5.5cm跳ね上がり、ドアを閉めれば、スンと下がる。

波板の上を走るテストでも映像を見れば違いは一目瞭然。スタンダードサスペンションでは後半にいくほど車体の揺れがおさまらず、大きくなることがわかる。アクティブサスは車内にいても何事もないように走る。

標準のエアサスだって十分なのに、なぜこれほどまでに凝ったサスペンションをつくったのか開発者に尋ねたところ、より快適性を高めるためにはスタビライザーをなくして、四輪を独立して制御する必要があったと話す。そのために7年の歳月をかけてこのサスペンションシステムを完成させたという。

開発者はパナメーラのことを、”ラグジュアリィスポーツカー”と呼んでいたが、なるほどこれほどコンフォートとスポーツの性能の振り幅をもったサルーンは他にない、素晴らしいグランドツーリングカーと言えるものだ。

文:藤野太一 写真:ポルシェAG

Words: Taichi FUJINO Photography: Porsche AG