京都丹後鉄道を運行するWILLER TRAINSは、3月16日のダイヤ改正に合わせ、KTR8500形の運行を開始した。KTR8500形はJR東海の特急形気動車キハ85系を譲り受けた車両であり、鉄道ファンらの間でいまだに人気が高い。

  • JR東海のキハ85系を譲り受け、京都丹後鉄道のKTR8500形として再出発。ダイヤ改正に合わせて運行開始した

KTR8500形は基本的に土日の運行を予定しており、おもに福知山駅発着の特急「たんごリレー」(下り3本・上り2本。一部区間は快速列車として運転)で使用される。アルファベットで「TANGO RELAY」と記されたヘッドマーク等も用意された。

その他、朝の快速列車1本(宮津発福知山行)、夜間の普通列車1本(網野発西舞鶴行)でも使用されるが、営業運転を行う列車のほとんどが宮福線・宮豊線(福知山~宮津~豊岡間)を走る。宮舞線(西舞鶴~宮津間)で営業運転を行う列車は夜間の1本のみ。朝6時台に西舞鶴駅隣接の車両基地を出て宮津駅へ向かうものの、回送列車のため、一般利用者は乗車できない。

  • 特急「たんごリレー」として宮福線・宮豊線を走るKTR8500形。オリジナルデザインのヘッドマークが用意された

宮舞線は奈具海岸や由良川など景色の良い区間を走るだけに、大型窓とハイデッカー構造を特徴とするKTR8500形で宮舞線の車窓風景を楽しめないとは、少しもったいない気がする。デビュー前の3月5日に行われたメディア向け試乗会にて、天橋立駅から西舞鶴駅まで試乗できたので、宮舞線の車窓風景も含めてレポートしたいと思う。

JR初期の設計思想を伝える名車

最初にKTR8500形の経歴をキハ85系時代から紹介する。キハ85系は1989(平成元)年、高山本線経由の特急「ひだ」でデビューした。外装は従来の国鉄型気動車と大きく異なり、軽量ステンレス車体(先頭部は鋼製、白色塗装)を採用。キハ85系で採用された基本仕様の多くが、以降に登場するJR東海の在来線車両にも踏襲されたという。

車体側面に大型連続窓を配置し、眺望を強く意識した点も特徴。キハ85形に限らず、JR初期に生まれた車両といえば、JR九州の783系、JR東日本の651系、JR西日本の221系など、大型窓を採用した例が多い。キハ85系も民営化直後の設計思想を今に伝える車両のひとつといえる。

キハ85系の言及しなければならない特徴として、外国産のディーゼルエンジンを本格採用したことが挙げられる。戦後の国鉄時代にも外国産のディーゼルエンジンを採用した車両はあったが、「名車」とまでは至らなかった。キハ85系は米国カミンズ社製のディーゼルエンジンを装備したことで、大幅なスピードアップを実現。キハ85系の成功により、JR東海は国鉄型気動車も含めてカミンズ社製のディーゼルエンジンを導入することになった。キハ85系の力強い走りはいまも鉄道ファンらの間で語られ、日本における気動車のイメージを変えた車両となった。

高山本線経由の特急「ひだ」に加え、名古屋駅から関西本線・紀勢本線など経由する特急「南紀」にもキハ85系が使用された。長年にわたりJR東海を代表する車両だったが、後継車両となるHC85系への置換えにともない、2023年7月に引退した。

  • 廃車される「タンゴ・エクスプローラー」車両とKTR8500形(部品取り用の2両)が並ぶ

そんなキハ85系の譲渡先となったのが京都丹後鉄道である。「タンゴ・エクスプローラー」車両の廃車にともない、代替の特急予備車としてキハ85系の導入を決定。昨年3月、計4両(営業運転用の2両、部品取り用の2両)がJR線経由で西舞鶴駅隣接の車両基地へ搬入された。その後、新形式「KTR8500形」として生まれ変わり、京都丹後鉄道で再出発を果たした。なお、2024年3月現在、京都丹後鉄道以外にキハ85系を譲り受けた鉄道会社はない。

キハ85系時代そのままの姿で運行

3月5日に行われたKTR8500形の試乗会では、キハ85系時代からの変化や、京都丹後鉄道ならではの楽しみ方についても探った。2両編成のKTR8500形は11時48分、宮津方から回送列車として天橋立駅のホームに入線。同駅構内は国鉄時代によく見られた2面3線を基本としており、木造の跨線橋が現役で使われている。

  • 天橋立駅構内にある木造の跨線橋

現在、天橋立駅へ乗り入れる車両の中にステンレス車両がないこともあり、KTR8500形はまるで新車のように見えた。少なくとも30年以上前に製造された車両には見えない。

入線後、キハ85系時代との差異を探してみたが、形式や車籍を変更した以外に変化らしい変化は見当たらなかった。カラーリングもそのままであり、まるでキハ85系が東海エリアから臨時列車として天橋立駅に乗り入れたような錯覚を覚える。あえて差異を挙げるとすれば、特急「ひだ」と異なり、8両編成のような長編成を望めない点だろうか。

車内もキハ85系時代とほとんど変わらない。近年では珍しくなったハイデッカー構造も健在で、一段高いところから望む車窓風景は新鮮そのもの。厚みのあるリクライニングシートは、最近の特急車両より座り心地が優れているように感じる。キハ85系に対する根強い人気は、外装やカミンズ社製のエンジンだけでなく、質の高い内装にも理由があるように思う。座席脇に荷物置場があり、オンシーズンにはなにかと重宝しそうだった。一方、トイレは洋式トイレの他に和式トイレがあり、ここだけ30年以上前の車両であることを感じさせた。

12時16分、KTR8500形は天橋立駅を発車し、西舞鶴駅へ。カミンズ社製の力強い加速は相変わらずで、電車の加速度と比べても遜色ない。12時22分、宮津駅で運転停車。京都駅から来た特急列車「はしだて3号」(天橋立行)の姿が見えた。

  • 宮津駅で「はしだて3号」(天橋立行)が停車していた

特急「はしだて」はおもにJR西日本の287系を使用(一部列車は京都丹後鉄道「丹後の海」車両で運転)しており、今後は京都丹後鉄道の線内で287系とKTR8500形が並ぶこともある。JR西日本と元JR東海の特急車両が“共演”を果たすことになり、このあたりは鉄道ファンの心をくすぐるのではないかと思われる。

KTR8500形が宮津駅を出発してから約5分後、宮舞線の一大景観スポットである奈具海岸が前方左手に見えた。残念ながら試乗会当日は曇り空だったが、ハイデッカー構造と大型窓から見る日本海の車窓風景は見応え十分。短編成で海岸沿いを走る様子は、キハ85系で運転された特急「南紀」の姿をほうふつとさせるかもしれない。

  • 奈具海岸は宮舞線における絶景スポットのひとつ

  • 1924(大正13)年完成の由良川橋梁

続いて12時40分頃、1924(大正13)年完成の由良川橋梁を渡る。ここは前面展望で楽しみたいところだろう。まるで川の真ん中を浮いているような車窓が楽しめる。その後しばらく由良川沿いを走り、やがて西舞鶴の市街地へ。13時1分、JR舞鶴線との接続駅である西舞鶴駅に到着した。

西舞鶴駅から先、東舞鶴駅で小浜線の列車に乗り換えれば、2時間ほどで北陸新幹線の終着駅となった敦賀駅にたどり着く。北陸新幹線とKTR8500形の乗車を目的に、福井県嶺南・京都府北部の旅を計画しても面白いだろう。なお、2024年秋開催の「北陸デスティネーションキャンペーン」に合わせ、JR西日本がキハ189系を改造した新たな観光列車「はなあかり」を導入予定。敦賀駅から小浜線や京都丹後鉄道など走る計画があり、「はなあかり」(キハ189系)とKTR8500形(元キハ85系)が“共演”する日も待ち遠しい。

KTR8500形のメディア向け試乗会では、特急「たんごリレー」などでの運行に加え、イベント開催時の臨時列車にも使用予定と説明があった。現在、宮舞線での営業運転は夜間の普通列車1本のみだが、今後、臨時列車等で日中の宮舞線を走るKTR8500形に乗車できることを期待したい。