千葉県佐倉市の国立歴史民俗博物館で、企画展示「歴博色尽くし」が始まりました。歴史学・考古学・民俗学の研究機関であるこの大規模博物館が有する約27万点もの収蔵品の中には、「あなたがたはなぜ、歴博にやってきたの?」と驚くような逸品も数多あり、“中の人”でもその全体像を把握しきれないほどだそう。そんな“雑然と混沌”という博物館のもうひとつの顔も見てほしいと企画された、意欲的な館蔵資料展となっています。
本展は、建造物彩色や染織工芸、浮世絵版画や漆工芸、考古遺物、隕鉄剣など、歴博が所蔵する多彩な館蔵資料を、「いろ・つや・かたち」というキーワードを介して、専門分野の枠を超えて横断的に見せるもの。「とても歴博らしいといえば歴博らしいし、反対に歴博らしくないといえば歴博らしくない」と、館長の西谷大さん。
特徴的な「いろ・つや・かたち」を持つ、館蔵資料のアンソロジィ
歴博の企画展示の特長は、ひとつの研究テーマを深く掘り下げていくこと。たとえば前回は「陰陽師とは何者か」をテーマに、陰陽師の歴史や文化をさまざまな角度から深く掘り下げました。でも今回のアプローチはそうではない。「色」という言葉を大きな意味でとらえ、素材のもつ質感や微細な構造がかもす「つや」、そんな色と艶の組み合わせがつくる「かたち」も含めて、特徴的な「いろ・つや・かたち」を持つ館蔵資料の中から「これぞ!」というものをピックアップ。歴史学・考古学・民俗学・自然科学の観点から、日本における色と人間との関わりを考える――という趣向なのですが、「これが意外とむずかしい。下手をすると、単なるさまざまな資料の寄せ集めにすぎなくなってしまいます。この企画が成功しているかどうかは、ぜひその目で確かめて欲しい」と西谷館長。
キャッチコピーの「いろ・つや・かたちのアンソロジィ」にあらわされているように、本展は6つのテーマとひとつのコラムで構成されたアンソロジィです。「ふだん展示のチャンスに恵まれない……と言ってはなんですが、『こんな資料がなぜ歴博にあるんですか?』という驚きや、たくさんのモノが集まる習性をもつ博物館という世界も垣間見て欲しい」と、同館 研究部情報資料研究系教授の鈴木卓治さんは、この企画のユニークさを強調します。
初展示! 実物大の「醍醐寺五重塔彩色模型」
たとえば、高さ3メートルを超える実物大の「醍醐寺五重塔彩色模型」。この建築彩色模型は、のちにユネスコ無形文化遺産にも登録された文化庁選定保存技術「建造物彩色」保持者となる技術者が制作したもので、今回が初展示。その鮮やかな極彩色にはハッと魅せられます。
また、歴博が豊富に所有する染織工芸資料の中から、興味深い色や質感をもちながらもこれまで展示のチャンスにめぐまれなかったという着物注文のための見本資料は、生地の色と紋を示したシンプルな男物の注文に対して、色とともに裾の模様を併せた意匠として作られた女物の見本を見比べながら、あまりの違いに思わずクスリ。
「疱瘡(ほうそう)絵」と「開化絵」という、ふたつの「赤絵」も印象的です。特に、文明開化で変貌する東京の風景や風俗を描く錦絵「開化絵」の中で、強烈な色感を有する赤色絵具を多用することから「赤絵」と呼ばれているもの。空が青ではなく赤一色に塗られていたり、過剰なまでにけばけばしくド派手な赤があちらこちらに多用され、見る人によっては“悪趣味と紙一重”と感じるかもしれませんが、開化の祝祭的なムードが漂い、劇的に変化していく当時の空気感を伝えています。
蒔絵・螺鈿・色漆が織りなす「漆工芸」の豊かな色と質感の世界を味わったり、古墳時代の装身具や土器、金属工芸を通して古代日本での「色」の意味を探求したり。さらに、世界で唯一混ぜ物をいっさいせずに隕鉄だけを使い、日本刀と同じ折り返し鍛錬の技法で製作した脇差など、「色」というキーワードから多彩な日本の「色」を感じることができる展示となっていました。
同館を一度訪れたことがある人からは、「歴博はすごいぞ」「歴博はガチ」と満足度が高いものの、唯一ともいえる泣き所が、やっぱりアクセス。「東京からちょっと遠い、いやかなり遠い。上野と違って、周辺に楽しみが、ないわけじゃないけど集中していないというのが難点ですが、歴博を取り囲む佐倉城址公園の満開の桜や新緑は、上野には決して負けていない。人がいない分、ゆっくり楽しめます」と笑わせながら、展示への自信をのぞかせていた西谷館長。1日では見終わらないほど質量ともに圧倒的な展示を見学しに、ぜひ佐倉市に足を伸ばしてみてはいかがでしょうか。
■information
企画展示「歴博色尽くし」
会場:国立歴史民俗博物館 企画展示室A
期間:3月12日~5月6日(9:30~17:00)※会期中展示替えあり/月曜休、ただし4/29は開館、振替休館なし
観覧料:一般1,000円、大学生500円、高校生以下、障がい者手帳等保持者は手帳等提示により、介助者とともに入館が無料