NTT西日本と沖縄県石垣市は、「自動運転による地域活性化に関する包括連携協定」を締結。3月12日には同市市役所で締結式が執り行われた。
本協定ではNTT西日本とマクニカ、東運輸、石垣市の4者が連携。同市における「地域住民向けの持続的な地域交通手段の維持」や「観光客向けの二次交通手段の拡充」など、地域課題の解決に向けた取り組みを推進していく。
官民あげて推進される自動運転「レベル4」の社会実装
少子高齢化による労働力不足や2024年問題などにより、地域交通の維持や交通機関のドライバー不足等に関する社会課題が深刻化している昨今。その解決策として、自動運転等のモビリティ技術を活用した持続可能な公共交通・物流の実現が急務となっている。
2023年4月には改正道路交通法が施行され、自動運転レベル4や自動走行ロボットの公道走行が解禁。同月には完全自動運転を可能にする新制度が開始され、国は2025年を目途に全都道府県で自動運転の社会実験の実施をめざす。
社会課題を解決する手段として、官民あげて自動運転レベル4の社会実装が推進されているなか、石垣市でも自動運転や自動走行ロボットによる課題解決が期待されている。
同市では将来的な人口減少や少子高齢化に加え、新石垣空港開港と空港跡地への市役所・県立病院の移転、都市計画区域の整備・開発、南ぬ浜へ寄港するクルーズ船増便により入域観光客数が増加。
観光客の二次交通不足および地域住民の公共交通不足が顕在化しており、「地域住民向けの持続的な地域交通手段の維持」と「観光客向けの二次交通手段の拡充」が主要な課題となっている。
今回の連携協定では、こうした地域課題の解決に資する自動運転サービスの社会実装に向けて、4つの参加事業者が自動運転分野で包括的な連携と協力関係を構築。それぞれが有する人的・物的資源を連携させ、中長期的な自動運転事業の企画・運営を協働で推進していく。
国交省「地域交通確保維持改善事業」の申請に向けた事業検討・詳細計画立案、採択結果発表などを経て、2024年度下半期からは国交省補助事業を活用し、自動運転実装に向けた実証実験を行う予定だ。
地元交通事業者も「公共交通空白地域の解消」に期待
協定書への調印後、石垣市の中山義隆市長は「今秋から実証実験が開始できるよう、関係者との調整させていただきます。将来的には地域全土へルートを拡大し、完全自動運転である自動運転レベル4の実装に向けた未来都市づくりを進めていく。この連携協定の締結が地域の公共交通の充実、住民や観光客の皆様の満足につながる実りの多いものとなることを期待しています」と挨拶。
NTT西日本の森林正彰社長は、本プロジェクトにかける思いや背景を次のように語った。
「2023年7月からマクニカ様と自動運転EVバスの取り組みを進めており、昨年10月に大阪でイベントを開催したところ、非常に多くの自治体の方々からご好評をいただきました。現在60以上の自治体の方にご提案を差し上げている段階で、うち10自治体以上から補助金申請へ進む意思を示していただいております。石垣市様とマクニカ様、東運輸様とパートナーシップを組み、ぜひ本プロジェクトを成功させたいと考えています」
秋に予定する実証実験で石垣市は自動運転事業の運営や国交省事業への申請、 走行ルートや駐停車エリア、充電エリアの提供、開係者の調整を担当。NTT西日本は現地調査・自動運転関連ソリューションとネットワークの提供・保守のほか、遠隔監視者やオペレーターの育成支援を担う。
「自動運転EVバスの運行はまさに時代の要請であり、近未来では一般的な移動手段となっていくものと考えています」とは、地域の交通事業者として人材提供など実際の運行オペレーションを担当する東運輸の松原栄松 (えいしょう) 社長。地域交通の維持や観光資源へのアクセス向上、ドライバー不足解消の実現に向けた今回の取り組みへの期待を寄せた。
「石垣市での実証実験によって、完全実装へのステップが加速することを願っています。市民の要望を取り入れ、より利便性の高い運行体制を構築し、自然に優しい先進的な交通環境の実現のため、ぜひ協力を進めていきたいと思っています」(松原社長)。
車両単体で自走する自動運転EVバスを提供
実証実験で自動運転EVバスおよび遠隔モビリティ管理システムの提供、 自動運転EVバスのエンジニアリングとサポートを行うマクニカの原一将社長は、自社の事業について次のように紹介した。
「当社は半導体並びにITにまつわる先端技術を取り扱う技術商社です。世界中から最先端のテクノロジーを探索し、いち早く使いやすいかたちで社会実装することを重視しています。昨今は自治体様との協業も非常に増えており、地域特有の様々な課題、地域活性化のお手伝いをさせていただいております。当社が提供する次世代交通システムが、持続可能な新しい公共交通システムとして地域社会の課題解決と地域活性化に役立てられることを嬉しく感じます」
マクニカ社が提供する運行車両は「NAVYA」という11名乗りの自動運転EVバス。遠隔モビリティ管理システムなどを備え、車両位置や車内外の状況をリアルタイムに可視化し、遠隔地から複数モビリティを安心・安全に運行管理が可能だ。
今回の自動運転EVバスソリューションは、新たな交通インフラ設備を敷設する必要がなく、基本的には車両単体で自走する完全自律のシステムであることも大きな特徴。1台当たりにかかる人員を減らし、公共交通における人員不足解決と同時にカーボンニュートラルも実現する。
「今回の自動運転の導入に際して、自治体様、通信事業者様、地域の交通事業者様、そして私どものようなテクノロジーカンパニーの4事業者が連携し、大きなエコシステムを形成していく試みは、初の大きな挑戦です。石垣市の市民の皆様にとって、安心安全で快適に活用できる新しい公共交通の仕組みをしっかりと創出し、地域社会と観光事業の活性化支援のお役に立ちたいと思っています」(原氏)
2024年度申請予定の国交省「地域交通確保維持改善事業」では、渋滞面やコストを勘案し、南ぬ浜(ぱいぬはま)町と離島ターミナルを結ぶ片道約3キロの運行ルートを想定。不測の事態に備え、今回の実証実験ではオペレータが車両に乗り込み、リモートの監視員も配置する。
期間中は無料で一般利用でき、時速20キロ未満で走行するそうだ。運行期間は2週間〜数カ月の見込み。一般車などへの影響も実証していくほか、アンケートを実施して将来的な採算性や需要等も検証するという。