開幕に向けて順調な仕上がり
開幕戦まで2週間、14日のオープン戦・広島戦(@エスコン)に伊藤大海が先発登板した。ご存知の通り、ファイターズの2024年開幕投手である。屋根を閉じたエスコンフィールドと、本番のZOZOマリンはだいぶ感覚的に異なると思うが、実戦のなかで感覚的なものを確かめる機会だった。当然、メディアもファンも大注目だ。
内容的には5回73球投げて被安打6、三振5、失点2である。売り出しのカープ田村俊介にホームランを喫し(田村はこの日、4打数3安打、2ホーマー3打点の大当たり)、打たれた印象の方が残ってしまったが、最初のうち引っ掛かっていた変化球を修正し、途中からは狙ったところで三振が取れていた。試運転としては上々ではないか。特筆すべきは四球がひとつもなかったところだ。新庄監督も「もうもう全然。今日はもう打った田村君」と合格点のコメントを出している。
たぶんもういっぺん投げて本番ということになるはずだが、急激に実感がわいてきた。伊藤大海が開幕投手を務める。そんなの去年、早々と発表されてたことだが、広島戦のマウンドを見て、いよいよこれは本当に開幕投手だぞとドキドキしてきたのだ。読者の皆さんも一度、声に出して言ってみてほしい。「うちのヒロミが開幕投手」。こう、ニマ~としてしまう。おいおい大海、そこまで来たのかい。頑張ったなぁ、開幕投手だぞ、球団史に残るぞ。率直に言って、むちゃくちゃ楽しみだ。
伊藤大海はルーキーイヤーから大活躍で、去年なんかWBCの舞台にも立って、もうそれは素晴らしいピッチャーなのだ。今月7日のオープン戦(@鎌ケ谷)で驚いたのは大海が鎌スタ初登板であったことだ。いかにずーっと1軍の戦力であり続けたかということ。順調にステップアップして、ついに開幕投手の栄誉を勝ち獲ったと客観的には言える。ただ二番手三番手の主力投手と、エースローテで回る開幕投手は意味合いが違う。僕はここで大海に飛躍してほしいのだ。端的に言えば「上沢直之が米球界挑戦でいなくなったから」でなく、自らの力で、自らの全存在をかけて、この大役に挑んでほしい。
やった者にしか価値はわからない
僕は現役時代の岩本勉氏に開幕投手を務める心得を尋ねたことがある。ガンちゃんは1998、99年、2年連続開幕戦完封勝利を達成したファイターズの元エースだ。「普通の一試合とは気持ちのつくり方からぜんぜん違う」ということだった。緊張感もマックスだし、だからこそ事前のシミュレーションも念入りになるという。実はガンちゃんは96年、雨天中止の影響で本来の開幕投手、西崎幸広の登板が流れ、たまたまというか結果的にというか「(シーズンの最初に先発した投手という意味での)開幕投手」を務めたことがある。それはあくまでたまたまであり、結果的にであったが、投手岩本勉のジャンピングボードとなった。初のシーズン2ケタ勝利をモノにしたのだ。ガンちゃんはその後、「たまたま」「結果的に」を必然のものにするべく努力した。その結果が2年連続開幕戦完封勝利だったと思っている。
伊藤大海も飛躍しないかなぁ。そりゃ彼は1年目から2ケタ勝利していて、数字的にこれ以上の飛躍があるだろうかというところだ。だけど、「開幕投手」の意味は重い。たぶん数々の大舞台を踏んできた大海も、去年新庄監督から指名を受け、思った以上のプレッシャーを感じたはずだ。指名の瞬間からずーっと3月下旬まで緊張が続くのだ。そして元エース、ガンちゃんはその緊張感には見合うだけの価値があると言う。やった者にしかわからないものだろう。
伊藤大海は去年、WBCを経験してちょっと燃え尽き症候群のような状態に陥った。ていうか、WBC後の選手らが大海に限らず、後遺症めいたものを抱える。疲れもあるだろう。調整が難しいともいえる。だけど、いちばんは心の燃料が払底してしまうんじゃないかと思う。「世界一」の緊張感、アドレナリンを味わったら、いったんバケーションを取るなどしてリセットしないと気持ちがつくりにくいだろう。
だから大海はビリビリしびれるマウンドが向いている。開幕投手が向いている。当コラムはそう唱えたい。3月29日、ZOZOマリンのチケットを取った。伊藤大海の晴れ姿を楽しみにしている。それまで僕もずーっと緊張して日を送るつもりだ。ファイターズの新しい開幕投手をこの目で見るのだ。