東京・上野の国立科学博物館で、特別展「大哺乳類展3-わけてつなげて大行進」が始まりました。似ているけれど違う、似ていないけれど同じという哺乳類の進化の不思議に、500点を超える標本を通して迫る大スケールの展示。目玉は“リアル哺乳類図鑑”ともいうべき哺乳類の剝製標本約200点の、スペクタクルな「哺乳類大行進」。目に入った瞬間にオーッと声がもれ、口をあんぐり開けてしまうほどの超ド迫力な展示空間となっています。

  • 「リアル哺乳類図鑑」ともいうべき哺乳類の剝製標本約200点が織りなす、スペクタクルな「哺乳類大行進」は圧巻だ

    国立科学博物館所蔵

テーマは「分類(=わける)」と「系統(=つなぐ)」

大哺乳類展の初開催は、2010年の「陸のなかまたち/海のなかまたち」。哺乳類の生存戦略をテーマにした2019年の「みんなの生き残り作戦」に続く、5年ぶり3回目となる今回のテーマは、「わける」と「つなぐ」。見た目や内部の特徴、DNAなどをもとにグループ分けし、それらの関係性をつなぎあわせることで浮かび上がる“哺乳類の不思議”に迫っています。

  • 国立科学博物館 動物研究部 脊椎動物研究グループ 研究主幹の川田伸一郎さん(左)と同 田島木綿子さん(右)

「哺乳類を何種類にわけますか? という“わける”作業、そうして『分類』したものがどんな親戚関係にあるのかを研究する『系統』。ここ20年くらいのDNA解析で、今まで同じだと思ってきたものが、実は全然違うグループだという面白い知見がどんどんたまってきました。例えばセンザンコウとアルマジロはそっくりだけど、全然違うグループ。そういう分類と系統の研究でわかった『収斂(しゅうれん)進化』というものの、不思議さとおもしろさを、コラムとしていっぱい織り交ぜて展示構成しています」と、監修を務めた川田先生は本展のみどころを語ります。

  • 似ているけれど全然違う、センザンコウとアルマジロ/国立科学博物館所蔵

  • こちらも似ているけれど起源の違うグループに分類される/国立科学博物館所蔵

例えば、見た目はそっくりなフクロモモンガとニホンモモンガが全く別のグループに分類され、カバとイルカは見た目も生態も全然違うのに、実は同じグループに分類される。そんな「見た目は似ているけれど本質は違う」「見た目は似ていないけれど本質は同じ」の例を、分類の手がかりとなる骨格や内臓などの貴重な標本も見比べながら、哺乳類の進化と多様化をたどっていきます。

ド迫力! 標本約200点による「哺乳類大行進」

  • 国立科学博物館所蔵

会場中央の大ステージで繰り広げられるのが、同館が誇る哺乳類の剝製標本たちによる「大行進」。前回よりもさらにスケールアップし、陸と海の哺乳類あわせて約200点の標本が集結。関係性の近いグループごとに行進していて、各分類群の外見の似ている点や異なる点を間近で見て楽しめるのですが、その迫力ときたら!

  • 【写真】主技卯オーッ! と声がもれた、迫力の「哺乳類大行進」。クジラが、ゴリラが、パンダが、アザラシが、同じ方向に行進してるよ!

    国立科学博物館所蔵

  • 国立科学博物館所蔵

「メインフロアの大行進は、学問では基礎中の基礎である『分類学』と『系統学』です。知っているようで知らない、興味があるようでなかなかむずかしい。どうひもといて分かってもらえるかに苦戦しましたが、こうやって我々は生物を知っていくんだという学問ですし、私たち自身も哺乳類。この展示会場にいる動物たちの一員となって参加することで、自分を知ることにも相手を知ることにもつながりますし、生物をさらに深く知るヒントになれば」と、監修の田島先生。ちなみに田島先生が専門としているクジラ・イルカ、川田先生の専門のモグラ、どちらにも近年“大事件となる、学問上の面白い結果が出たので、そうした発見も展示で楽しんで欲しいといいます。

  • 国立科学博物館所蔵

  • 国立科学博物館所蔵

  • 国立科学博物館所蔵

筆者が特に興味を惹かれたのが、異性をめぐる競争で有利となるために適応進化した性淘汰(性選択)が見られる、生存には必要のない特徴が進化した霊長類の事例です。たとえば驚くほど鮮やかな赤と青の顔をしたマンドリルのオスや、「鼻仮面をつけたような顔」という学名がつけられたほど珍妙な顔のテングザルのオス。メスへのアピールやオス同士の威嚇に成功した個体の子孫が生き残った結果として、過剰化したそうした特徴。もしやこれ、昭和のヤンキー青年のリーゼントの長さが過激化していったり、毎年注目される成人式のド派手な衣装の気合いみたいなものなのでは……!?

  • 赤と青の着色が強烈なマンドリルのオス/国立科学博物館所蔵

  • “鼻仮面”、テングザルのオス/国立科学博物館所蔵

ほかにも、国内唯一となるキタゾウアザラシの剝製標本や、アジアゾウの全身交連骨格、赤ちゃんクロサイなど、約30点の標本が今回初公開。さらに、カナダのロイヤルオンタリオ博物館所蔵の、現在地球上で最大の動物・シロナガスクジラの心臓の実物大レプリカなど、見どころだらけの本展。現在約6,500種にものぼる哺乳類の多様な姿や能力がどう進化してきたのかを、500点を超える標本の展示を通して、ぜひ体感してください。

■information
特別展「大哺乳類展3-わけてつなげて大行進」
会場:国立科学博物館
期間:3月16日~6月16日(9:30~17:00、ただし土曜および4/28~5/6は19時まで延長)/月曜休、祝日の場合は火曜休※ただし3/25、4/1、4/29、5/6、6/10は開館
観覧料:一般・大学生2,100円、小中高生600円、未就学児、心身に障害のある方及び付添者1名は無料