イオンリテールは3月15日、MVNOサービス「イオンモバイル」の料金改定に関する発表会を開催した。10周年の節目を迎えた格安スマホへの取り組みの現状や料金改定の意図などを、イオンモバイル事業の責任者である井原龍二氏が語った。

  • 写真左から、経済アナリストの森永康平さん、くわばたりえさん、イオンモバイル商品マネージャー 井原龍二氏

    写真左から、経済アナリストの森永康平さん、くわばたりえさん、イオンモバイル商品マネージャー 井原龍二氏

「格安スマホのパイオニア」と自負するイオン、独自の強みで満足度向上

イオンが自社ブランドでの格安スマホ・格安SIM事業に乗り出したのは、さかのぼること10年前になる。当時は「イオンスマホ」という名称で、2014年に日本通信のSIMカードと端末(Nexus 4)をセットにして月額2,980円で売り出した。現在に続く体制の「イオンモバイル」になったのは2016年で、そこから数えても8年の実績がある。

今ほど大手キャリア以外で安価にスマートフォンを持つ選択肢が一般層に広く知られていなかった時期に、小売大手がこのようなサービスを立ち上げたのはインパクトの大きい出来事だったことは確かだ。MVNOはある程度詳しく自分で契約や設定ができる層にしか届かなかった頃、そして当然SIMフリー端末という選択肢も一般的でなかった頃に、受け入れられやすいセット販売からサポート体制までを流通大手の力で整えて広めたという点においては、彼らが「格安スマホのパイオニア」と名乗るのも納得できる部分がある。

  • イオンと格安スマホの歴史は、2014年の「イオンスマホ」から始まった

    イオンと格安スマホの歴史は、2014年の「イオンスマホ」から始まった。当時まさかのNexus 4を扱うということで驚いた記憶があるが、今のようにSIMフリー端末が当たり前に流通している環境ではなかったため、選定やサポート体制の構築にも様々な苦労があったようだ

  • イオンスマホと2016年スタート当時のイオンモバイル、そして現在のイオンモバイルの料金比較

    イオンスマホと2016年スタート当時のイオンモバイル、そして現在のイオンモバイルの料金比較

  • イオンモバイルの沿革

    イオンモバイルの沿革

一般的なMVNOは、家電量販店など一部で店頭契約ができるところもあるが、基本的にオンラインでの手続きがメインであり、契約後のサポート体制の違いも含めてある程度情報機器を使い慣れたユーザー層が中心になる。

しかし、イオンモバイルの場合はターゲット層も戦略もそれらとは大きく異なる。買い物などで多くの人が日常的に訪れるイオンを母体としており、大手キャリアレベルとは言わないまでも実店舗で話せるサポート体制や安心感があり、ファミリーやシニア層を取り込めているのが強みだ。2024年2月時点のデータでは、シェアプランの利用が34.9%、年代別構成比で60代以上が32.8%となっている。

契約回線数は非公表だが2019年の段階で50万回線を突破している。近年重視している指標は顧客満足度と解約率で、2022年・2023年に2年連続でオリコン顧客満足度調査 格安SIM 第1位を獲得した。解約率については、定期的なユーザー調査をもとにしたサービスの改善を続けていることや端末割引をフックにした新規獲得をあえて止めたことなどの効果もあり、2024年2月度は1.36%に抑えた。

  • プラン構成比や年代別構成比の変化

    プラン構成比や年代別構成比の変化

  • 契約回線数と解約率の推移

    契約回線数と解約率の推移

料金体系をブラッシュアップし、より家族で使いやすいものに

今回発表された料金体系のポイントとしては、主力の「さいてきプラン/さいてきプラン MORIMORI」のうち、30GB/40GB/50GBプランで最大1,650円の値下げを行い、さらに60GBから200GBまでの大容量プランを追加。そして、家族でデータ容量を分け合えるシェアプランの上限を5回線から8回線に増やした。このほか、60歳以上限定の「やさしいプラン」でも値下げやデータ容量のラインナップ見直しを行う。

まず30GB/40GB/50GBプランを値下げしたのは、現行の料金体系では容量と値段のバランスを考えると、中間の20GBプランが最も割安になるというノイズがあったからだ。この傾斜を整え、「大容量のプランを選ぶほど、まとめ買いのように1GBあたりの料金が安くなる」というシンプルな状態に正すことで、これまでもアピールしてきた「わかりやすさ」をより確かなものにした。

  • 30GB~50GBのプランを値下げすることでバランスを調整し、「20GBが一番お得」だった状態からシンプルな傾斜にした

    30GB~50GBのプランを値下げすることでバランスを調整し、「20GBが一番お得」だった状態からシンプルな傾斜にした

従来の上限であった50GBを大幅に超え、200GBまでの大容量プランを追加した意図は、コンテンツのリッチ化などで単純にユーザーの通信量が増えているということもあるが、先述の通り家族でシェアプランを使うユーザーが多いこと、そしてシェアプランを組める人数を増やした分だけさらに大きなプランが必要になったという経緯だ。

また、この手の家族で1つの残容量を分け合う仕組みでは、大手キャリアで出始めた頃から「子どもが動画ばかり観ていて、まだ月初なのに家族全員の1カ月分の容量を使い切られてしまった」などというのはよく聞く話だ。今回の変更点ではないが、イオンモバイルでは2024年2月に、回線別の1カ月あたりの通信量に制限をかけられる機能が実装され、より安心して使えるようになった。

  • シェアプランは3月21日から8回線までに拡大。2月には回線別の制限機能も実装済

    シェアプランは3月21日から8回線までに拡大。2月には回線別の制限機能も実装済

  • 実は2月からau回線のeSIMに対応している。ドコモ回線は夏頃になる見通しとのこと

    実は2月からau回線のeSIMに対応している。ドコモ回線は夏頃になる見通しとのこと

目標は100万回線、今後に向けた取り組み

今後に向けた取り組みとしては、今回の発表では同系列のイオンフィナンシャルサービスとの連携強化に触れた。同じイオンの中でも携帯売り場ではなくイオンカードカウンターでイオンモバイルの契約手続きを受け付けてもらうというもので、これは単に「イオンカード保有者に訴求できる」というだけの話ではない。

イオンモバイルの窓口は多くの店舗では上層階の家電売り場・携帯電話売り場のなかにある。つまり、機種変更や大手キャリア間の乗り換えなど、何らかの形で「そろそろスマホや携帯会社を変えようかな」と思っている人にもっとリーズナブルな選択肢があることを知ってもらえる可能性は高いが、潜在的に通信料金への節約意識を持っているかもしれない、今日の夕飯の食材を買いに来た人の目にたまたま留まる確率は低い。しかしイオンカードカウンターなら、入口付近など主要な動線上の“一等地”に配置されている場合が多いのだ。

これまで格安SIM・MVNOがリーチできなかった層に対して、イオンならではの力で選択肢を提示してきたことがイオンモバイルの最大の強みだが、その“地の利”をさらに引き出せる施策といえる。

また、イオンフィナンシャルサービスとの連携事例としては、イオンモバイルとイオンカードの両方を使うことでお得にポイントを貯められる特典や、イオン銀行住宅ローンの契約者向け割引プログラム「イオンセレクトクラブ」にイオンモバイルを追加するといった取り組みもすでに行われている。

  • イオンフィナンシャルサービスとの連携は、格安スマホという選択肢をまだ知らない人へのタッチポイントを増やす意味で重要な施策だ

    イオンフィナンシャルサービスとの連携は、格安スマホという選択肢をまだ知らない人へのタッチポイントを増やす意味で重要な施策だ

大手キャリア各社では通信を基点に決済・ポイントなどの事業に進出し独自の経済圏を構築する試みが盛んだが、出発点は異なれどイオンの戦略もそれに近い部分がある。

10年の節目を機に、イオンモバイルは中期的な目標として「2029年3月末までに100万回線」という目標を掲げた。日本国内のMVNOで100万回線に到達したプレイヤーはそう多くない。すでにMNOの一部となったUQ mobileやOCN モバイル ONE、MVNO時代の楽天モバイルなどを除けば、「IIJmio」などを提供するインターネットイニシアティブ(IIJ)と「mineo」のオプテージだけだ。

現時点でのイオンモバイルの回線数は非公表かつ、グラフを見る限り50万回線突破後の伸びは落ち着いているようにも見えるが、特異なバックボーンを活かし「イオン生活圏」のユーザーをより積極的に取り込むきっかけがあれば、不可能な数字ではないように思う。

  • 2029年3月末までに100万回線という目標を掲げた

    2029年3月末までに100万回線という目標を掲げた