2月のレトロモービルを中心としたパリ旧車ウィークが終わった。この週はお伝えしたように普段は見られないような車たちに出会える貴重な1週間。でも車は元来眺めるものではなく、やはり動いているのを見る方が楽しい。できればそれに乗って、そこからしか見られない風景を楽しみながら車を感じられればなお良い。
【画像】セルジュさんが大切に乗り続ける、父親から譲られたシトロエン2CV(写真15点)
そんなことから以前シトロエン100周年を記念して刊行されたオクタン別冊『CITROËN ORIGINS 100年のシトロエン』で協力をいただいたセルジュさんに連絡を取ってみた。彼は父親から譲られた2CVのオーナーだ。その2CVでドライブに連れて行ってくれないか頼んでみたところ、彼は二つ返事で承諾してくれた。さて、どこに行こう?せっかくなのでフランスの田舎道を走りたい。2CVの似合う場所に行きたい。そこで、決めたのがプロヴァン(Provins)。パリから東に40分ほど行ったところにある世界遺産に指定されている街だ。中世の時代にドイツ、スイス、イタリアなど東に隣接する国々から運ばれてきた製品がこの街で市が開かれていたことで発展。その時代の町並みが今でも残っている。また、薔薇を使ったお菓子が盛んで薔薇の街としても有名だ。そんな街にはきっと2CVも似合うことだろう。
セルジュさんのシトロエン2CV4は父親から受け継いだもの。この2CVには、セルジュさんが子どもの頃に父親に連れられてシトロエンのディーラーへ買いに行ったという思い出もある。セルジュさんはこの2CVと共に育った家族との思い出も詰まった一台なのだ。この2CVを受け継いだときに全塗装とレストアを行っている。ボディの色や仕様は当時のままで、同じ色を選んでいる。
この日は車好きの日本からのお客様も一緒に男性4人が2CVに乗り込んでのドライブだ。残念ながら天気があまり良くない。時折振る雨にワイパーを使うが、これがなんと途中で動かなくなった。巻き上げられる泥の混じったしぶきで視界が不調になると車を脇に停めて皆で窓を拭く。そんな作業が楽しくも思えてくるのが2CVの魅力だ。
柔らかいサスペンションで緩やかに上下に揺れる車体と何とも座り心地の良いシートで快適な道中。パリを離れていくほどに車の量も減り、畑の中を抜けて、いくつかの小さな村を抜けて行く。2CVの窓から見るその風景はタイムスリップしたかのようだ。小高い丘のうえにプロヴァンの教会のドームが見えてきた。城塞で取り囲まれていた街だが今はその一部と塔だけが残っている。この塔も12世紀頃の建造物。まだ観光の季節ではないため、人はまばら。のんびりと訪れるのには良いタイミングだった。パリから近いこともあり、春になると中世祭りなどが行われて観光バスもやってきて、人があふれるほどの人気の場所なのだ。この日はお店もレストランもほとんど閉まっているような静かな日だった。2CVの空冷エンジンの音に合わせて教会の鐘の音が響く。
この日は農業従事者のストライキの影響で高速道路が閉鎖され、僕らはもともと高速道路を使わない予定だったが、迂回させられた車両による交通渋滞に巻き込まれたり、遠回りさせられたりと、予定を遙かにオーバーする時間をドライブすることになった。その分2CVと一緒にいられる時間が増えたわけで、急ぐ旅ではないのでそれも含めて楽しんだ。
セルジュさんの2CVはバカンスの時やイベントに出かけるときに走る程度なので、彼もこの日のドライブをとても楽しんでくれた。今回一緒にドライブした一人は2CVの魅力に取り憑かれたようで「日本に帰ったら2CVを買う!」と宣言。僕が日本に帰ったら、今度はその2CVで日本の田舎道をドライブに連れて行ってもらうことにする。
文:櫻井朋成 写真:松下大介
Words: Tomonari SAKURAI Photography: Daisuke MATSUSHITA