90年代の「裏原カルチャー」を学生時代に体感した筆者。TシャツのデザインにKAWS(カウズ)やフューチュラ2000が起用され、その流れでストリートカルチャーにも親しみを持っていました。
そして月日が流れ、いつの間にか90年代リバイバルで当時のファッションやカルチャーが再び脚光を浴びているようです。
そんな中、六本木の森アーツセンターギャラリーがドイツ・ミュンヘンにある美術館「Museum of Urban and Contemporary Art(MUCA)」のコレクションを紹介する展覧会を3月15日~6月2日まで開催。
今も第一線で活躍するKAWSから、匿名のストリートアーティストとして世界各地で話題を振りまくバンクシーまで60点以上のコレクションが展示されています。
アーバン・アートは敷居が低い
「MUCA(ムカ)」はヨーロッパ最大級のアーバン・アートと現代アートのコレクションを収蔵する美術館として知られ、今回はアーバン・アートにフォーカスした展示です。
公式サイトでは
本展は大分を皮切りに、京都に続く巡回展で、世界でアート作品が注目を集めるバンクシー、ファッションの世界にも作品を通して影響を広げるカウズ、伝説的なグラフィティアーティスト、バリー・マッギーを始め、アーバン・アートのジャンルを切り開いてきた10名の作家にスポットを当て、日本初公開の作品を含む60点以上をご紹介します。
と説明されています。ちなみにアーバン・アートはストリート・アートを含む、都市環境を背景にして登場したアートを指しています。いわゆるグラフィティ(街中の公共物に描かれるアート)などが分かりやすいでしょうね。
「アーバン・アート」と聞くと腰が引けそうな筆者ですが、美術館の創設者の一人、ステファニー・ウッツさんは次のように話します。
「ストリート・アート、アーバン・アートは敷居が高くなく、普段アートに親しまない方でもちゃんと楽しめるものです。アーティストも街中をキャンパスにしてアートワークを展開していています。つまり、ギャラリーや美術館で重々しく展示され、そこに来る限られた人にだけメッセージを発信するようなものでは元々無いのですよ」
本国のミュンヘンの美術館も老若男女問わず、気軽に肩ひじを張らずに楽しんでもらえる場所で、入館するとすぐにアーティストの世界に没入できるのだとステファニーさんは説明するのです。
「日本はアートの歴史が豊かで、古典的な作品に親しむ人も多いでしょう。もしかしたら、そうした方は少し目新しさを感じるかもしれませんが、あまり固定概念にとらわれず楽しんでほしいと私たちは願っています」
非常に政治的なメッセージを伴う作品も多いですが、その作品が誕生した背景はなんだろうと考える楽しみ方が可能。反面、子どもでも楽しめる作品もあり、幾重にも重なっている作品の深みを来場すれば持ち帰ってもらえるでしょう、とステファニーさんは太鼓判を押すのでした。
バンクシーの作品も展示
筆者にはなじみの無いアーティストの作品も多いですが、作品に加えてアーティストたちが作品を作っている様子を捉えた映像も流されていて、それも見ながら作品を鑑賞すると、確かにその「言わんするメッセージ」が何となく伝わってきます。
もちろん、一番メジャーであるバンクシーの作品も。
イギリスの荒廃した海辺のリゾート地で企画された「子供にはふさわしくないファミリー向けテーマパーク『ディズマランド』の作品である「アリエル」など、展示エリアの最後で存在感を放っています。
さらに、2018年のサザビーズで100万ポンドで落札された直後、額縁の下部に隠されていたシュレッダーへ落下し「愛はごみ箱の中に」と改名された作品、「Girl Without Balloon」もありますよ。
なお、会場の最後に「最も注目される作品」を展示した理由について、ステファニーさんは次のように明かしてくれました。
「今回はフィナーレ的にバンクシーの作品を展示し、それが一つのハッピーエンドになれればと考えました。そしてもう一つ、ストリート・アート、アーバン・アートという言葉からバンクシーを思い浮かべる方が多いでしょう。でも、それ以外にも多様なアーティストの作品を数多く展示しています。バンクシーのコーナーに来る前に、彼らの作品も堪能できるように意図したのです。皆さんの集中力が途切れないうちに笑」
難しい理屈が分からなくても、作品を見れば何かが伝わる。この展覧会をきっかけにして、筆者のアーバン・アートへの距離が少し縮まった気がします。