パナソニック エレクトリックワークス社(以下、パナソニックEW)は現在、次世代オープンビルプラットフォーム(ビルOS)に関する実証実験を福岡地所と共同で実施しています。期間は2023年12月1日~2024年3月31日の約4カ月間です。2024年2月には、IoTやDXソリューションに精通するシリコンバレーの起業家、Kii 代表取締役会長の荒井真成さんを招き、福岡地所、パナソニックEW社の担当者とともに記者会見を開催しています。
自律的に更新するビルへと変わる天神ビジネスセンター
実証実験の舞台は、2021年に竣工した天神ビジネスセンター。国家戦略特区の認定を受けた「天神ビッグバン」プロジェクトの中核をなすビルの1つであり、航空法の高さ制限の特例承認を受けて高層化を実現。地下2階~地上19階のオフィスビルとして誕生しました。
天神ビジネスセンターは比較的新しいオフィスビルのため、QRコードによるセキュリティゲートとエレベーターが連動する仕組みなど、インテリジェントな機能を備えています。しかし、さらに魅力的なオフィスビルであり続けるために、ビルOSによるスマート化を目指すとしています。
「我々が目指しているのは、ビルの持つさまざまな機器のインタフェースをオープン化することによって、外部のソフトウェア開発者もビルアプリの開発に参加できるような環境を作っていくことです。それらのアプリはアップストアのような場所から、ビルの管理者や入居者、ゲストが自由にダウンロードして使える。そうなることでビルが自律的に更新されていく状況を作りたいと考えました。多くのメーカーさんと対話していく中で、根底にあるビジョンを共感できたパナソニックさんとパートナーシップを組んで実証実験をスタートしました」(福岡地所 田代さん)
ビルOSは既存のビル管理システムと連係
現在、オフィスビルや病院といった非住宅の建物には、「ビルオートメーションシステム(BAS)」が導入されています。照明、空調/換気システム、防災、エレベーターなどさまざまな機能を、省エネや省人化も目的としてBASによって一元管理しています。
基本的にBASは、建物ごとにカスタマイズしたクローズなシステムであるため、機能拡充や短い周期でのアップデートといったメンテナンスが難しいという課題がありました。それを解決するために、ビルが持つさまざまな機能を利用して、それらが取得したデータをスマートに活用できる「ビルOS」という考え方の注目度が高まってきたわけです。
グローバル市場ではIEA(国際エネルギー機関)が、オフィスビルの省エネ性のさらなる向上を目指してスマート化を推進。国内ではIPA(経済産業省所管独立行政法人情報処理推進機構)がスマートビルガイドラインを策定しています。今回の実証実験でパナソニックが導入したビルOSとオープンAPIの仕組みも、オフィスビルのスマート化の流れによるものです。
「ビルOSはクラウド型のシステムです。これまでBASによって建物ごとに個別に管理されていた設備やシステムデータをクラウド上で管理することにより、遠隔操作や複数拠点の一元管理が可能となります。多くのビルOSは建物のシステムと設備の管理にフォーカスしがちですが、我々のビルOSはテナント様のシステム、さらには働いている方々の動きなどもデータ化して、サービスやアプリケーション開発の情報としてオープンに提供することを想定しています」(パナソニックEW 福田さん)
清掃スタッフの位置データを業務改善に活用
2023年12月から始まった実証実験では、まずビル業務アプリの有効性を検証するため、清掃スタッフや設備管理スタッフの位置情報と業務用エレベーターの稼働状況を取得し、そのデータを可視化することで課題を抽出することから始まりました。
「具体的には、ビル内にゲートウェイ機器を設置しました。清掃スタッフや設備管理スタッフの方々に小型のビーコンを持ってもらい、何階にいるのかなどの情報を取得しました」(パナソニックEW 福田さん)
その結果、飲食店の食材納品に使われる時間帯ではエレベーターの待ち時間が長く発生していたり、誰も使っていない状態のトイレを掃除したりといったムダが発生していることがわかりました。
今後は、エレベーター待ちが発生しやすい時間帯は別の作業にあてる、ムダなトイレ掃除を省くといった効率化が期待できそうです。
オフィスビルは“スマート”になっていく
スマートフォンを代表格として、クルマなど身近なものの“スマート化”が進んでいます。ビルOSもその1つといえるでしょう(一般消費者が直接的に利用するものではないかもしれませんが、スマートなビルを訪れたとき、間接的にでも恩恵を受けるはずです)。
現在は、多くのデベロッパーがビルOSの開発を進めています。パナソニックはIPAとも連携しながら、ほかのデベロッパーが手がけるシステムとも連携できるオープンなビルOSを開発していきたいとしています。
福岡地所のアドバイザーを務める荒井さんは「オープンAPIにすることで誰でも自由にアプリを開発できる環境を作る――ということに、パナソニックと福岡地所がそろって合意したことが大きい」と話します。異なるビルOS間で互換性が取れたり、アプリを簡単に移植できたりするような開発環境も用意していく考えです。
現在はビルスタッフの動きから業務効率化を目指すフェーズですが、将来的には地下フロアに入居している飲食店の空席状況がわかるようなアプリなども考えられています。オフィスビルがスマートになることで、管理者だけでなく、そこで働く従業員や訪問者も、外から訪れる人にとっても、便利になっていきそうです。