漢字は私たちにとって身近なものですが、学校で習う漢字以外にも膨大な数の漢字があり、普段は見慣れない漢字や知らないと読めない漢字も多数存在します。
本記事では、普段あまり見掛けることがない複雑な作りの漢字や難読漢字、実は成り立ちが面白い漢字を厳選して紹介します。生き物や食べ物に関する面白い漢字も紹介します。ぜひ話のネタやクイズなどに使ってみてくださいね。
【面白い漢字】普段あまり見掛けない、複雑で面白い漢字一文字
まずは、日常生活ではあまり見掛けることがない、複雑な作りで面白い漢字を紹介します。拡大しないと作りがよくわからないような複雑な漢字は、見ているだけで面白いものです。画数が多いものも多いですね。
読み方や意味も一緒に覚えておきましょう。
鸞
- 音読み:ラン
- 画数:30画
鳳凰(ほうおう)の一種である神鳥の名です。天子のものに冠する語でもあります。浄土真宗の開祖である「親鸞(しんらん)」の名にも使われています。
JIS第2水準漢字(コンピューターやDTPで一般的に表示できる漢字)の中で、最も画数が多い漢字の一つといわれています。
驫
- 音読み:ヒョウ・ヒュウ
- 訓読み:とどろ(く)・はし(る)
- 画数:30画
こちらもJIS第2水準漢字の中で、最も画数が多い漢字の一つ。馬がたくさんいる様などを表す漢字です。
馬の群れが走るときの音から作られた漢字といわれています。「馬」を3つ重ねた作りなので、画数は多いですが覚えやすいでしょう。
麤
- 音読み:ソ
- 訓読み:あら(い)・おお(きい)・ほぼ・くろごめ
- 画数:33画
先ほどご紹介した「驫」のように、同じ漢字を複数重ねた作りの漢字はいくつかありますが、中でも特に画数が多いのが「麤」です。「鹿」を3つ重ねた漢字です。
「あらい」「粗末な」「おおきい」などの意味を持ちます。
驢
- 音読み:ロ・リョ
- 訓読み:ろば・うさぎうま
- 画数:26画
動物の「ロバ」を意味します。ロバはウサギのように耳が長いことから、「うさぎうま」とも読むのだそう。「ロバ」は「驢馬」とも書きます。
なお、ピョンピョン飛び跳ねる様子がかわいらしいカンガルーは、漢字で「長尾驢」と書きます。
鑿
- 音読み:サク
- 訓読み:のみ・うが(つ)
- 画数:28画
木材などに穴を開ける「のみ」を指し、「深く探る、突き止める」という意味も持ちます。
爨
- 音読み:サン
- 訓読み:かまど・かし(ぐ)
- 画数:29画
食べ物を煮炊きする「かまど」を指し、米や麦を炊く「かしぐ」の意味も持ちます。かまどといえば「竈」という漢字もありますが、どちらも画数が多く複雑な漢字ですね。
巓
- 音読み:テン
- 訓読み:いただき
- 画数:22画
山の頂上を意味する漢字です。画数が多い上に似たような形が並ぶので、覚え方に工夫が必要かもしれません。
瀛
- 音読み:エイ
- 訓読み:うみ
- 画数:19画
訓読みの通り、海、大海原を表す漢字です。沢や池、沼を指すこともあります。
篝
- 音読み:コウ
- 訓読み:かご・ふせご・かがり
- 画数:16画
意味は訓読みの通り「かご」で、特に夜に警護や照明、漁猟のためにたく「かがり火」を燃やす、鉄製のかごを指します。
齎
- 音読み:セイ・サイ・シ
- 訓読み:もたら(す)・たから・もちもの・ああ
- 画数:21画
「もたらす」「持っていく」という意味から転じて、「おくりもの」「財貨」などの意味も持つ漢字です。「ああ」と、嘆く声を表すこともあります。
黷
- 音読み:トク
- 訓読み:けが(す)・けが(れる)
- 画数:27画
「よごす」「けがす」「不正をする」などの意味を持ちます。単体だとピンと来ないかもしれませんが、「冒黷(ぼうとく)」という熟語は見聞きしたことがあるかもしれませんね。
蘋
- 音読み:ヒン
- 訓読み:うきくさ・かたばみも
- 画数:19画
水面に浮かび生える草や、デンジソウ科のシダ植物「カタバミモ」を指す漢字です。なおカタバミモは「酢漿草藻」と表記することもあります。
【面白い漢字】読み方が難しい面白い漢字
続いて、難読すぎて面白い漢字を紹介します。知っていると一目置かれるかもしれませんね。
卅・丗
- 主な読み方:みそ
数字の「30」を意味する漢字です。読み方は30歳のことを「三十路(みそじ)」と言うと考えると覚えやすいでしょう。
なお、「廿」は「にじゅう」と読みます。
嗽
- 主な読み方:うがい
意味は読みの通り、水を口に含んで口中やのどをすすぐことです。風邪の際などに、息を反射的に吐きだすことを表す「せき」という読み方もあります。
靨
- 主な読み方:えくぼ
笑ったときに頬にできるくぼみのことです。漢字で書くと、なんとなくイメージが変わるのではないでしょうか。
ちなみに「えくぼ」は「笑窪」とも書きます。こっちの方がイメージしやすいかもしれませんね。
塒
- 主な読み方:ねぐら、とや
鳥の寝るところ、鳥小屋を意味します。「ねぐら」と読むときは、人の泊まるところを指す場合もあります。
なお「とぐろ」と読むこともあり、この場合は蛇などが体を渦巻き状に巻くことを意味します。
瓩
- 読み方:キログラム
普段カタカナやアルファベットで書くことが多い単位は、実は漢字で表せるものもあります。「瓦」は屋根などの「かわら」の意味もありますが、「グラム」という意味もあります。そこに「千」を加えて「1000グラム」、つまり「キログラム」を表しているのです。
ちなみに「毛」には「1000分の1」という意味があるので、「瓦」と組み合わせた「瓱」で「ミリグラム」と読みます。
漫ろ
- 読み方:そぞ(ろ)
「気も漫ろだ」「漫ろに歩く」のように使用します。なんとなく、当てもなく、という意味です。
「漫画」「漫才」「散漫」など、漢字自体はよく見掛ける漢字ですが、この読み方は知らなかった人も多いのではないでしょうか。
確り
- 読み方:しっかり
「しっかり結ぶ」のように使われる、確実さや堅固さを表す言葉です。
意味を見ると納得する人が多いでしょうが、通常は「しっかり」とひらがなで書くため、読むのが難しい漢字です。
巫山戯る
- 読み方:ふざけ(る)
由来は諸説ありますが、一つは中国の故事「巫山の雲雨(ふざんのうんう)」です。この故事は、楚の懐王が昼寝で見た夢の中で、巫山の神女と契りを結んだというもの。そこから男女がたわむれる、おどけるなどの意味になっていったという説です。
齷齪
- 読み方:あくせく
どちらの漢字も「歯並びが細かい様子」を示すことから、「細かいことが気になり落ち着かない」「目先のことにとらわれ気持ちがせかせかする」という意味を持つようになったとされています。
矍鑠
- 読み方:かくしゃく
年を取っても丈夫で元気が良い様子を表します。「はやる・元気である」意味を持つ「矍」と、「年老いても元気である」意味を持つ「鑠」を組み合わせた言葉。
初出は中国の『後漢書』の馬援伝(ばえんでん)といわれています。
慇懃
- 読み方:いんぎん
礼儀正しいこと、真心がこもっていることを表す言葉です。「慇」も「懃」も丁寧、という意味があります。
どちらの漢字も常用外漢字であり、あまり使われない字のため、読みにくい熟語の一つです。
丁寧な振る舞いが逆に失礼な態度に見えるという意味の四字熟語、「慇懃無礼(いんぎんぶれい)」の形でもよく使われます。
顰蹙
- 読み方:ひんしゅく
どちらも「顔をしかめる・眉をひそめる」という意味を持つ漢字で、重ねて使うことで「不快で眉をひそめる様子」を表します。
兀兀
- 読み方:こつこつ
一見記号のように見える漢字「兀」は、音読みで「コツ」と読み、「一心に努力する様子」を表します。
哀提伯
- 読み方:エチオピア
東アフリカに位置する、現存する世界最古の独立国家で、正式名称はエチオピア連邦共和国です。
国名の漢字表記では、「米国・亜米利加(アメリカ)」「英国・英吉利(イギリス)」「仏蘭西(フランス)」などは目にしたことがある方も多いでしょう。使用頻度が低い国の漢字表記は特に読めないものが多いので、地図と照らし合わせながら確認してみると楽しいかもしれません。
葡萄牙
- 読み方:ポルトガル
こちらも国名で、ヨーロッパ南西部に位置するポルトガル共和国を指します。中国語でも同じ漢字を当てるそうです。
侃侃諤諤・侃々諤々
- 読み方:かんかんがくがく
「自分が正しいと思うことを堂々と主張する」「盛んに議論する」といった様子を表す四字熟語です。
磊磊落落・磊々落々
読み方:らいらいらくらく
「心が大きく、小さなことにこだわらない」様子を表す四字熟語です。前後を入れ替えて「落落磊磊(らくらくらいらい)」でも、同じ意味で使用できます。
【面白い漢字】成り立ちが面白い漢字
ここからは、成り立ちが面白い漢字をご紹介します。普段よく使っている漢字にも意外な成り立ちが隠れていることがあって、興味深いですよ。
美
「羊」と「大」の組み合わせで成り立っている漢字です。古代には、大きくて立派な羊が神への献物として重宝されたことが由来とされています。
友
手を意味する「又」という漢字を、2つ組み合わせて成り立っています。手と手を合わせる握手を連想させて、まさに「友達」のイメージにピッタリですね。
白
「白骨化した頭蓋骨」の形が由来。古代、優れた首長の頭蓋骨には霊力が宿っていると信じられており、討ち取った敵の首長のドクロを保存する習慣があったそうです。
光
ひざまずく「人(儿)」の頭の上に「火」が燃え盛る様子。古代では火は神聖なもので、火を守り神に仕える聖職者が存在したとされています。「光」はそのような人を指しています。
幸
手枷(てかせ/手錠のように手を拘束する刑具)の形を表したもの。
「手枷をはめられる程度の刑で済んで幸せだ」という意味があるとされています。
笑
両手を上げて舞い踊る、若い巫女(みこ)の姿を表しています。祈りを捧げる巫女が笑顔で踊りながら、神様を楽しませている様子が目に浮かびますね。
取
体の一部である「耳」と「又(手)」の組み合わせ。昔の中国では、殺した敵の耳を切り取って持ち帰り、戦の功績としたことからきているそうです。
危
「厂」は崖を指し、その上下は崖の上からのぞき込む人と、崖の下でしゃがみ込む人の、2人の人間を表しています。
爽
「大」は死体、4つの×は死体に入った入れ墨を表します。古来は、死体に邪悪なものが入り込むのを防ぐために入れ墨を彫って、いつでも生まれ変われる清らかな状態を保ったのだそうです。
蚊
蚊が飛ぶ音「ブーン」をそのまま「文」という漢字で表しています。
他に鳴き声などの音が由来になった漢字には、「鳩(クックー=九)」「猫(ミョウ=苗)」などがあります。
【面白い漢字】生き物や食べ物にまつわる面白い漢字
ここでは、身近な生き物や食べ物にまつわる面白い漢字をご紹介します。普段は特に意識していなくても、改めて漢字で書いてみると興味深いものが意外とたくさんありますよ。
羊駱駝(あるぱか)
「羊」のようにモコモコした毛並みの「駱駝(らくだ)」と書きます。アルパカのイメージにしっくりはまる漢字ですね。
梟(ふくろう)
害鳥よけとしてフクロウの死骸を木の上にさらしたことが由来。「梟す」で「さらす」とも読みます。
啄木鳥(きつつき)
キツツキは木をつついて中の虫を食べることから、「木を啄む(ついばむ)鳥」と書くようになりました。
蟷螂(かまきり・とうろう)
中国ではカマキリを「とうろう」と呼ぶことから、この漢字が当てられたようです。
飛蝗(ばった・ひこう)
「飛ぶ」「蝗(いなご)」で、バッタ目バッタ科の昆虫全般を表します。
海盤車(ひとで)
海の中に住む生き物、「ひとで」には、この他に「海星」「人手」などの表記もあります。
膾残魚(しらうお)
古代中国・呉の王が船の上で魚鱠(なます)を食べて、川に捨てた食べ残しが魚に変身したという伝説がもとになっているそうです。
「白魚」「銀魚」とも書きます。
鮟鱇(あんこう)
深海に生息する魚のアンコウを指します。鍋料理や肝が絶品とされる、古くから日本で親しまれている魚です。
また、太って腹が出た力士の体形を「鮟鱇形(あんこがた)」といいます。小豆で作る「あんこ」だと勘違いしている人もいるかもしれませんが、実は魚のアンコウの体形に似ているというのが語源です。
占地(しめじ)
きのこの「しめじ」のことを表す当て字です。「湿地」と書くこともできます。
ちなみに「なめこ」は「滑子」と書きます。
玉蜀黍(とうもろこし・なんばんきび)
「とうもろこし」が日本に伝わったとき、その前に中国から伝わっていた「蜀黍・唐黍(もろこし)」という植物によく似ていたことから、「唐(中国)から来た蜀黍」ということで「唐」をつけようとしたそう。
しかし「蜀黍・唐黍」も既に「中国から来た黍」という意味であり重複してしまうため、「玉のように美しい」という意味の「玉」と組み合わせたとされています。
竜髭菜(あすぱらがす)
野菜のアスパラガスのことです。地面から芽が伸びる姿がリュウのヒゲに似ていることから、この漢字になったという説があります。
ちなみに台湾でよく食べられている野菜で「龍のヒゲ」という意味の「龍鬚菜(ロンシューツァイ)」という青菜があります。また、庭などの植栽として利用されるリュウノヒゲ(別名ジャノヒゲ)という植物をご存じの方も多いでしょう。
このように、植物を竜(龍)のヒゲに例えることは珍しくないようです。
菠薐草(ほうれんそう)
「菠薐」はネパールの地名のことで、そこから伝わった野菜であることが由来といわれています。
万寿果(ぱぱいや)
「蕃瓜樹」とも書き、明治時代に日本に伝わったとされています。
無花果(いちじく)
夏から秋にかけて旬を迎えるおなじみの果物です。いちじくは花が咲かないと考えられていたため、この字があてられるようになったといわれています。
しかし、実は花が咲かないのではなく、果実の中心部分に花が隠れています。外からは花が見えないので、花が咲かないと勘違いされたようです。
なお「映日果」と書くこともあります。
饂飩(うどん)
中国の「餛飩(こんとん)」の漢字が変化して、「饂飩(うどん)」になったとする説があります。
なお「餛飩」は福建省などでは「雲呑(ワンタン)」と言います。
成吉思汗(じんぎすかん)
モンゴルの英雄「チンギス・ハーン」を漢字で書くと「成吉思汗」となります。そしてこの「成吉思汗」は、北海道の郷土料理である羊肉の焼き肉「ジンギスカン」のことでもあります。この料理は元々、中国の羊料理「烤羊肉(カオヤンロウ)という郷土料理を、日本人向けにアレンジしたものと考えられています。
そしてなぜこの料理を「成吉思汗(じんぎすかん)」と呼ぶようになったかは不明ですが、名付け親は満洲国の初代総務庁長官を務めた駒井徳三氏とする説が有力です。
創作漢字を調べたり作ったりするのも面白い
漢字はさまざまなパーツの組み合わせであることから、創作漢字を作って楽しむこともできます。
創作漢字は古くから楽しまれていて、江戸時代の1806年には『小野愚譃字尽(おののばかむらうそじづくし)※』という、実際には存在しない「嘘字」を集めた滑稽本も出版されているほど。
近年では、産経新聞社と立命館大学白川静記念東洋文字文化研究所主催で「創作漢字コンテスト」が開催され、面白い漢字がたくさん生み出されています。
皆さんも誰かが作った創作漢字を調べてみたり、自分でも作ってみたりして、もっと漢字の世界を楽しんでみましょう。
※「愚(ばかむら)」は実際には竹冠に「愚」と記載する、著者の式亭三馬の造語
面白い漢字はたくさんある! 抱負に取り入れたりクイズにしたりしてみよう
複雑な作りの漢字、読みが難しい漢字、意外な成り立ちの漢字など、面白い漢字ネタを厳選してご紹介しました。
知れば知るほど面白い漢字の魅力に気付いた方もいるのでは? 他にも面白い漢字がないか、ぜひ探してみてくださいね。
そして面白い漢字を見つけたら、抱負や座右の銘に取り入れたり、クイズにしてみたりするのもいいでしょう。きっと周囲の人との会話のきっかけになりますよ。