衛星画像データの活用法を示す実験

報告会では最初に酪農学園大学 環境共生学類の小川健太(おがわ・けんた)准教授が登壇し、大学として人工衛星データの解析に関わる立場から今回の実証実験が持つ意味について解説。こうしたデータの農業への利用価値は高く、圃場全体・地域全体など、広い範囲を繰り返し観測できるので貴重な情報源になると話しました。
ただし、今回行われた実証実験は、その活用方法の一例を示すもので、まだ課題があることも強調しています。

小川健太さん

次に登壇したのは国際航業の大島香(おおしま・かおり)さんです。東京都新宿区に本社を置く同社は事業の一つとしてセンシングに力を入れ、人工衛星から撮る画像を使った空間計測技術を各種産業に提供しています。
「北海道には広大な牧草地がありますが、酪農・畜産に関わる農業人口がどんどん減っています。そのため管理体制を省力化、効率化していく技術が、これからの生産面積を守っていくために必要です」
大島さんは、今回の実証の背景には、他にも肥料や各種資材の物価高騰対策、地球環境の負荷の低減、家畜の健康維持など、さまざまな問題が複合していることを説明。その上で今回の3つの実験のテーマについて紹介しました。

大島香さん

実証実験における3つのテーマ

正確に、早く、簡単に牧草地の植生状況を把握する

1つ目は「牧草地の植生状況の把握」です。
家畜を放牧する際、餌になる牧草、雑草の割合、裸地化した部分や季節ごとの変化など、複数の圃場の状態を判別しました。
画像では5月に撮影した春期解析、10月に撮影した秋期解析、そして通年解析と3種類を提示。それぞれを牧草・雑草・裸地・混在に区分し、画像ピクセルごとに色付けし、牧草と雑草の比率の変化を確認できるように示しました。
こうした現状把握は、これまで人が見回ってチェックするしか方法がなく、時間も手間も膨大にかかる上に、すべての圃場の状況把握は非常に困難でした。衛星画像データによる計測は広範囲を網羅するため、見回り作業に要していた人手や時間、コストを大幅に軽減できると期待できます。

トウモロコシの含水率量が肥料過多を示す

2つ目は「飼料用トウモロコシの収穫期の水分率の可視化」です。北海道だけでなく、近年、全国各地で作付けが増えている飼料用トウモロコシは、収穫期にはいってからの水分率と肥料を与えている量との間には相関関係があります。そのため、トウモロコシ全体の水分率を計測して可視化すれば、収穫適期から遅延した肥料を与え過ぎている圃場を特定できると考えています。
同じ時期にデータを取得した3圃場を比較すると違いが明確にわかりました。その差異が肥料の与え方によるのか、品種や管理方法が違うのかという理由を究明し、対策を立てていく手掛かりにできます。

データを生かして雑草をピンポイントで取り去る

3つ目は「牧草地に多い難防除雑草の除去」です。繁殖を防ぐのが難しい雑草エゾノギシギシ の侵入状況を衛星データから検出。それをもとに雑草のマッピング図を作り、検知したポイントだけに農薬を散布する「ピンポイント防除プログラム」を実施しました。

これを実施したのはサングリン太陽園です。100年以上の歴史を持ち、札幌市を拠点に活動する同社。農業生産資材の販売、無人航空機による農薬散布等の請負事業、スマート農業の普及に取り組んでおり、国際航業と連携して今回の実証実験を進めました。
登壇した取締役の白川努(しらかわ・つとむ)さんは、プログラムのあらましを説明。8月下旬に撮影した人工衛星画像データをもとに、10月上旬に無人ヘリコプターを使ったピンポイント農薬散布を2回実施。雑草の枯死を確認後には、肥料種子の散布を2回実施し、発芽を確認しました。また、これらの過程を記録した動画も流し、散布の様子を伝えました。
「人工衛星観測データを活用して農薬・肥料を散布する仕組みを確立し、私たちのような会社がその業務を請け負えば、現場作業の大幅な効率化・コスト削減につながると思います。人手不足の問題解決の一助になり、環境への負荷も減らせるでしょう」と白川さんは今後の展望について話しました。

白川努さん

農林水産省の取組支援と経済産業省の期待

実証実験の報告後は、農林水産省 北海道農政事務所で畜産振興係長を務める沖村昌彦(おきむら・まさひこ)さんが登壇し、畜産・酪農における温室効果ガスの削減と持続可能な畜産体制を確立するための取組支援について発表しました。これは「環境負荷軽減型持続的生産支援事業(エコ蓄事業) 」と呼ばれ、2024(令和6)年度は約6億円の支援予算が組まれています。

沖村昌彦さん

そして最後は経済産業省 北海道経済産業局の佐々木健人(ささき・けんと)さんが道内における衛星データの利活用に大きな期待を示しました。
今回の実証実験は、人工衛星からのデータを日本の農業への活用に向けた第一歩であり、こうした宇宙産業とのコラボレーションは今後、実用化に向けて加速度的に進展していくでしょう。

佐々木健人さん