NTT西日本 九州支店とNTTドコモ 九州支社は2月13日、九州エリアを中心に活躍する企業5社の女性社員を招いた「女性ロールモデルセッション」を開催した。参加した女性社員はそれぞれの働き方やキャリアアップについて相談していた。
いまだ確立されない働く女性のロールモデル
女性の多くが、結婚、出産、育児といったライフイベントが発生するたびに、人生の岐路に立たされる。多様な生き方があるが故に、女性活躍が進んだ現在もなお、女性の働き方のロールモデルは確立されていない。とくに管理職のような多忙なワークスタイルの先駆者は少ないのが現状だ。
このような潮流のなか、九州では企業が連携し、女性活躍推進とダイバーシティ推進を目的とした交流会を実施しているという。参加企業は、JR九州、西部ガスホールディングス、福岡銀行、NTTドコモ 九州支社、NTT西日本 九州支店の5社。
昨年、NTTドコモ九州支社とJR九州で実施した取り組みが好評で、本年度は、NTT西日本九州支店とNTTドコモ九州支社にて、取り組むにあたり、JR九州、西部ガスホールディングス、福岡銀行へ声をかけし、賛同があり、今回5社での取り組みとなった。今後も参加企業の拡大を図っていく予定だという。
2月13日、この5社が合同で「女性ロールモデルセッション」を開催した。現在、社会で活躍している女性たちは、どのようなライフスタイルを歩んでいるのだろうか。「NTT西日本 新博多ビル」(福岡県福岡市博多区)で行われたセッションの模様をお伝えしたい。
女性活躍のゴールはマネージャーのポストにあらず
NTTグループは現在、働きがいの向上、キャリア形成の充実に向けた取り組みを行っている。その一環として、昨年4月から専門性を重視した人事給与制度と見直しを図ってきた。その一方でダイバーシティにも力を入れており、経営に女性ならではの感性や経験を積極的に取り入れるために、女性活躍を推進しているという。
NTT西日本 九州支店 事業推進室長の向野邦洋氏は、冒頭の挨拶で「専門性重視の人事給与制度、主体的にキャリアを切り開いていくという趣旨からすれば、女性活躍の推進とは『マネージャーのポストに就く』がゴールではありません。社員ひとり一人がしっかりとビジョンを持って、将来どうなりたいかを考えていくべきものです」と参加者に伝えた。
博多駅駅長を務める鐘ヶ江理恵氏の歩み
続いて、JR九州で博多駅駅長の重責を担う鐘ヶ江理恵氏が登壇し、基調講演を行う。同氏がまず語るのは、これまでの歩みだ。
福岡生まれ福岡育ちの鐘ヶ江氏。同氏は就職氷河期まっただ中に総合職としてJR九州に入社し、10カ月ほどの久留米駅を経て、経理部資金課に配属される。だが「結婚したら辞めるよね?」という上司の一言に、鐘ヶ江氏は「一年間の教育はなんだったんだろう」とショックを受けたという。
鐘ヶ江氏は「いっそのこと辞めてやろうか」という思いで結婚。子どもを授かると、同部署で初となる産休・育休を取得する。そして会社に復帰し、子育てをしながら働ける仕事を考えた上司によって、税務を担当することになった。
「仕事が終わったらすぐに保育園に迎えに行かなければならないので、理不尽なことも言われました。ただ、この部署に来て初めて仕事を任されたと感じましたし、非常に勉強させてもらいました。ここから仕事のモチベーションが大きく変わりました」(鐘ヶ江氏)
そして鐘ヶ江氏は、シェアードサービス立ち上げのためにJR九州フィナンシャルマネジメントに出向。先に出向していた先輩のほとんどが流し仕事をするなかで奮戦し、女性陣の歩み寄りを受けて、ある程度ミッションを達成する。
ここで鐘ヶ江氏は2人目の子どもを出産。産後の肥立ちも悪く退職も考えていたそうだが、「君がずっと行きたがっていた場所を用意したよ」と説得され、2010年に経営企画部に配属される。
「それまでは、どれだけ頑張っても男性との待遇差があったように感じていたんです。でもこのときの上司が、急にいろいろな面で認めてくれるようになりました」(鐘ヶ江氏)
2012年、鐘ヶ江氏は管理職になり、グループ会社の計画や新規事業を担当することに。さらに2014年に担当課長になり、2015年に財務部資金課の担当課長へと昇進。だがこのころ鐘ヶ江氏の母親の闘病生活が始まり、介護も負わなければならない状況に陥る。
「2015年に母は他界しましたが、2016年には夫の単身赴任が重なってしまって、3回くらい倒れました。それでも仕事を回せたのは、私が管理職になっていたからです。ちゃんと打ち合わせをすれば、ちゃんとチームが仕事をしてくれます。2018年に夫が帰ってきてからは家事の主体が夫になりました」(鐘ヶ江氏)
その後、鐘ヶ江氏は2018年に九州リテールに出向、店舗運営に携わる。そして2021年にJR九州に復帰し、現職である博多駅長に就任した。
「『23年間、鉄道に関わってこなかった私を駅長にして大丈夫なの?』と思いました。でもなんとか3年間走りきっております。私がやったことといえば、使えるものは何でも使うことです。周囲の理解、協力を求めることが唯一の秘訣です。頑張っちゃう女性が多いんですけど、なんでも助けてもらいます。だから乗り越えられたと思っています」(鐘ヶ江氏)
鐘ヶ江氏は、女性の傾向を「真面目」「正義感が強い」「距離が近い」とまとめる。そのうえで「みなさん、未婚・既婚・子あり・子なし関係なく、本音で話せてますか。そして本音を聞けていますか」と問いかけ、「本音を知らないとチームメンバーに本当に頑張ってもらうことはできないなと思っているので、これは皆さんにすごくお願いしたい」と話した。そして最後に、参加した女性社員に次のようにエールを送る。
「みなさんにお願いしたいことは『自分らしくあってほしい』ということ。部長らしく、課長らしくって、誰が決める"らしさ"なんでしょう。ちょっと苦しいときに考えてみてください。みんなイメージが違っています。違うなと思ったときに少し修正すれば、それで成り立っていくのです。いろんな人がいろんな思いを持ってやっていく、そんな社会にするために、自分らしくを忘れずに頑張っていただきたいと思います」(鐘ヶ江氏)
女性ロールモデルによるディスカッション&グループセッション
次に行われたのは、参加した5社の女性ロールモデルによるパネルディスカッション。
登壇した女性管理職のみなさんは、「管理職への昇進を前向きに考えるきっかけ」「管理者になるときの不安や迷い」「管理者になる前と後のギャップ」「ジェンダーギャップと世代間ギャップ」「仕事とプライベート両立のコツ」という5つのディスカッションテーマをもとに議論を展開。それぞれが自身の経験を振り返っていった。
続いて、女性ロールモデルと来場した女性社員によるグループセッションがスタート。女性社員のみなさんからは、現在自分が抱えている課題、女性が働きキャリアアップしていくことに対する想い、子育てと仕事の両立などについての積極的な質問が飛び交った。
セッションに参加した女性の感想をいくつかご紹介しておこう。
「今まで自分のキャリアは全然思い浮かんでなかったんですけど、ロールモデル4名のお話を聞いて、いま自分がやるべきこととか、どういうモチベーションで働けばいいのかを聞けて、とてもいい機会だったなと思います」
「私も育児や家事など時間が限られているなかでリーダーとして働いているので、仕事を全うしたい気持ちと、時間がなくお願いしてしまうところにジレンマがあって、キャリアアップにハードルを感じていました。ですが、皆さんも周りの協力を得ながら働いていると伺って、すごく気持ちが楽になりました」
こうして、熱気さめやらぬままに終わった「女性ロールモデルセッション」。九州から働く女性のロールモデルが全国に広がり、働く女性の悩み解消につながることに期待したい。
なお福岡県は、働く女性と女性ロールモデルが交流する場として「福岡キャリア・カフェ」という事業を行っているという。Webサイト上でさまざまなロールモデルを紹介するだけでなく、ロールモデルと直接話せる月イチ・キャリアトークも実施されており、働き方に悩む女性の力になってくれるはずだ。