パナソニック エレクトリックワークス社(以下、パナソニックEW)は2024年3月7日、日亜化学工業が開発したマイクロLEDを搭載する次世代照明器具のコンセプト製品を発表しました。約12.8×3.2cmのスペースに16,384個もの超小型LEDを敷き詰めたマイクロLEDからの光源をレンズで拡散することで、光の形を自由に変えたり動かしたりできます。製品化は2025年以降を見込み、価格は20万円~50万円程度を目指すとのことです。

  • パナソニック エレクトリックワークス社が開発した、マイクロLEDを搭載する次世代照明器具のコンセプト製品

マイクロLEDとは、一つひとつが髪の毛よりも小さな超小型LEDのこと。光の三原色(赤・_緑・青)のLEDを使うことで超高画質な映像表現を実現する、「マイクロLEDテレビ(ディスプレイ)」への応用にも期待されているデバイスです。

今回、技術開発した次世代照明器具は、日亜化学工業が自動車のヘッドランプ用に開発した「μ(マイクロ)PLS」を照明に用いるもの。μPLSに搭載するマイクロLEDは、縦横約45μmの極小サイズです。12.8×3.2cmのスペースに、縦256×横64ピクセル、合計で16,384個ものマイクロLEDを敷き詰めています。

  • もともとは自動車のヘッドランプ用として、日亜化学工業が開発したマイクロLED光源「μPLS」

  • μPLSの仕様

マイクロLEDの直下には、ドイツのインフィニオン社と共同開発したASIC(カスタムIC)を実装。それぞれのマイクロLEDを個別駆動させるとともに、監視や電源分配などさまざまな信号処理を行います。

なぜ車のヘッドランプにそのような技術を搭載するのかというと、遠くまで照らすハイビームで走行中に車載カメラが車や人を検知すると、それらに光が当たらないように制御する「ADB(Adaptive Driving Beam:配光可変ヘッドランプ)」などに用いられるそうです。

  • 車載用ヘッドランプの応用事例

「ロービームの中に光が出てレーンをナビゲートする『ナビゲーション機能』なども、欧州のメーカーで先行して実現されています」(日亜化学工業 黒田氏)

  • 日亜化学工業 先進商品開発本部 黒田浩章氏

  • 車載用ヘッドランプのデモ機。制限速度などが前方に表示される点が面白いところ

「2023年から車載分野でスタートしましたが、パナソニックの次世代照明開発を通じて新たな照明の価値を上げていただければと期待しています」(黒田氏)

タブレットなどを使って光の形を自由に変えたり動かしたりできる

次世代照明器具の特徴は、「光の形を自由に変えたり動かしたりできること」、「複雑な光を簡単に楽しく扱えること」にあります。

「マイクロLEDの点灯条件を変化させることで光の形状や数を自在に変えられます」(パナソニックEW 山内氏)

  • パナソニック エレクトリックワークス社 ソリューション開発本部 山内健太郎氏

「これまでは1台の照明器具で照らせる場所が基本的に1カ所だったので、照らす場所の数と同じ台数の照明器具を準備する必要がありました。それに対してマイクロLEDを使った照明器具は、1台で複数の場所を照らしたり、それぞれの照らす場所の形や明るさを個別に変えたりしていくことが可能です」(山内氏)

  • 光の形状や点灯数などを自在に変えられる点が大きな特徴です

  • 照明を動的に変化させたり、ゆらぐような動的な映像を流すことも可能

  • 空間や商品の演出、緊急時の避難誘導や人の動きの誘導など、さまざまな使い方が考えられます

「複雑な光を簡単に楽しく扱える」というポイントは、そのユーザーインタフェースにあります。次世代照明器具はWi-Fiに対応し、操作画面をWebアプリとして提供。スマートフォン、タブレット、パソコンからWebアプリにアクセスするだけで、光の形、模様、動きなどをコントロールできるようになっています。

「操作画面の真ん中にはキャンバスのような大きなスペースがあり、その周辺に、光の形や動きを設定するボタン類を配置しています。ユーザーはこういう操作画面を通して、空間に光を描くような感覚で操作できます」(山内氏)

  • Webアプリを利用することで、直感的に光の形や動きを操作できます

今までの一般的な照明制御システムの場合、ユーザーが照明器具を操作しなければならないものが多く、照明器具の施工場所や照射方向を気にしながら光の調整をしていくやり方が主流だったそうです。

「今回の新しい照明用の操作画面を用いることで、ユーザーは器具の存在をあまり気にすることなく、空間と光に意識を集中させて直感的に光を作り出せるようになると考えています」(山内氏)

  • 操作用Webアプリの画面。形を選んで配置すると……

  • このようにディスプレイされました

操作画面にはタイムラインもあり、複数の形を配置して光を動的に変化させることが可能です。

  • タイムラインに複数の形を設置すると、その配置を補完する形で光が動いていきます

  • 手書き入力をサポートしている点も大きな特徴

  • 床の上に、このように表示されました

「そのほかにも、描いた形がうっすらと消えていく『フェード』機能といったエフェクトをかけていく機能も用意しています。美しい光の表現を、直感的に操作しながら探求していけるのではないかと思います」(山内氏)

ユーザーの操作にすぐ応答するため、レスポンスの速さも追求したとのこと。

「光の反応スピードが遅いと、ユーザーは大きなストレスを感じます。端末からマイクロLEDまでデータをすばやく送って高速に処理し、LEDを駆動する独自のデータアシスト技術や信号処理技術も駆使して、レスポンスのよい光の操作を可能にしています」(山内氏)

  • レスポンスよく光が動くようにすることで、「光の操作が単なる作業に留まることなく、楽しめる体験にしていける可能性もあるのではと考えています」と山内氏は語りました

  • 投写デモから。光を動かすことで視線を誘導したり……

  • ディスプレイの見せ方を変化させたりできます

  • @光が展示されているオブジェを移動しながら、その形に合わせて変化していくのも面白い演出でした

プロジェクターよりも省エネで、対象物との“共存”が可能

今回の次世代照明器具は、映像のような光の演出を行えるという意味でプロジェクターにも似たところのあるコンセプトとも言えます。ただ、プロジェクターで映像を投映する場合と比べて、光の利用効率が高いため、省エネで使えて環境負荷を低減できるのではないかと山内氏は語りました。

プロジェクターは常に光源の明るさが一定のため、暗い映像でも消費電力は一定です。一方でマイクロLEDを使った照明は、光のパターンに応じて必要な部分だけLEDを光らせるため、パターンに応じた最小限の電力消費ですみます。

「全領域を照らしたときの明るさが同じくらいのプロジェクターと性能を比較すると、LEDの点灯比率を小さく絞っていくことで明るさを約3倍~4倍まで上げられます。加えて、プロジェクターと比較して消費電力を80%ほど減らせるのではないかと試算しています」(山内氏)

  • プロジェクターとの違い

今回の次世代照明器具は白一色なのに対し、プロジェクターは高精細なカラー映像の投写が可能であり、その点は大きなアドバンテージ。次世代照明器具は、白色照明としてさまざまな場所に設置できる点が優れています(もちろん、比較自体がナンセンスなまったく別の機器という見方もあるでしょう)。

「光そのものを使って物や空間を照らすことで光と影による空間の演出をしたり、人への行動に働きかけたりという、従来の白色照明で培ってきた知見やノウハウを進化させるための技術という位置付けで、これから向き合っていきたいと思います」(山内氏)

事業化としては、スポットライトをベースとして、エントランスやエレベーターホール、レストラン、博物館などのイベント会場といったユースケースを想定しているとのことです。2024年には実地での実証実験を行う予定が1つあるほか、2024年内に複数の実証実験を行った後で製品化を目指すとのことです。こうした照明が設置されることで、さまざまな場所が過ごしやすい、居心地のいい環境になってくことを期待したいですね。