いざという時、備えておくと便利な「常備薬」。近年は地震などの災害が多いこともあり、「一度しっかり常備薬を見直しておきたい」と考えている人は多いかもしれません。
そこで今回は、薬剤師ライターの高垣育さんに「災害時にも役立つ常備薬の選び方」をお聞きしました。ご自宅の薬箱や非常時に持ち出す薬など、常備薬をそろえる際にぜひお役立てください。
■常備薬は「いつ・誰が・何のために」という視点で考える
━━まず、常備薬はどのくらいの量(何日分)を備えておくのが適切なのか教えてください。
薬を備える時の考え方として、「いつ・誰が・何のために」必要なのかという3点に絞っていくと、薬の種類や量を決めやすいですよ。
<いつ>
・祝日や休日、夜間など病院が閉まっている時の体調不良に備えたい
・災害などの非常時に備えたい
<誰が>
・外出先で自分が使う
・自宅で家族が使う
<何のために>
・急に体調不良になった時、翌日病院を受診するまでの応急手当がしたい
・災害時、救護所が立ち上がるまでに必要な薬を備えたい
・外出先で被災し、自宅や避難所に戻るまでの薬を備えたい
このように、「どういう切り口で薬を準備するのか」という点を整理すると、おのずと必要な薬が定まってくると思います。
備えておく量についても、常備薬の目的から考え、たとえば、翌朝病院にかかるまで何とかしのげればいいのであれば、1〜2日分程度でいいでしょう。家族みんなで具合が悪くなったとしても、「1~2日分×家族の人数分」あれば足りますし、なくなった時点で買い足せばOKです。
市販薬の小箱なら、1箱3〜4日分ぐらい入っているので、そういったものが1つあれば急場はしのげるのではと思います。ただ、ゴールデンウィークや年末年始など、「少し長めのお休みの時が心配」という人は、もう少し多めに備えるといいですね。
━━常備薬として、「これは必ず用意しておいたほうがいい」という薬はありますか。
常備薬が活躍するシーンとしては、急なケガややけど、発熱、病院にかかるほどではない症状へのセルフケアなどが挙げられるかと思います。
ですので、どの家庭でもあると安心な薬は、内服薬なら、解熱鎮痛薬(アセトアミノフェンなど)、整腸剤、かぜ薬などですね。外用薬なら、ケガをした時に使える消毒薬、乾燥する時のための保湿剤などがあるといいでしょう。季節によっては、虫よけスプレーや、虫刺されのかゆみを抑える塗り薬なども備えたいですね。
また、これら以外の常備薬を選ぶ際は「家族構成」がポイントになります。たとえば、運動部に入っているお子さんがいる場合、足をひねったり筋肉痛になったりしたときなどに備えて痛みや炎症をおさえる湿布薬などを用意する、高齢の方と一緒に暮らしていて「おじいちゃん、いつもこういう病気にかかりやすいな」とか、「おばあちゃん、こういう症状が出やすいな」とわかるようなら、それに対応するような薬を備えるといいです。
━━薬以外にも、救急箱に備えておくといいアイテムがあれば教えてください。
薬以外ですと、「衛生用品」に分類される、体温計や絆創膏、ガーゼ、綿棒、たくさん吐いたり汗をかいたりした時に役立つ経口補水液などですね。
プラスアルファとしては、新型コロナやインフルエンザが流行している時期には、自宅に検査キットがあるとすぐに調べられて便利です。ほかには、救急箱以外の場所で保管するかもしれませんが、女性がいるご家庭では生理用品が、赤ちゃんがいるご家庭ではおむつが必要ですね。そういったものを、家族構成や季節に合わせてプラスしていただくといいでしょう。
■災害時の薬は1週間分を目安に備えると安心
━━災害時の「非常用持ち出し袋」に薬を入れる場合、入れる薬は自宅の常備薬と同じでいいのでしょうか。災害時に特別必要になる薬はありますか。
災害時に向けた「基本備蓄」の一覧を見てみると、医薬品としては、先ほどお話したかぜ薬、解熱鎮痛薬などのほか、「目薬」も載っています。被災地に行かれた薬剤師さんのお話では、土砂が乾くとほこりが多く舞い目に入ることがあるそうなので、そのような時に必要かもしれません。
そのほか、被災して一番最初のころは落下物が体にぶつかったり、割れたガラスでケガをしてしまった場合への備えが必要になると想定されますので、痛みや炎症をおさえる貼り薬なども必要ですね。あとは、ここには記載のないものもありますが、うがい薬、消毒薬、乾燥に備えてリップクリームやハンドクリームなども入れておきたいアイテムです。
普段コンタクトレンズを使用する人は、メガネやコンタクトレンズの洗浄や装着に必要なもの一式を備えておきましょう。また、被災すると、最初のほうの食事は菓子パンなどの炭水化物が多くなるので、ビタミンの不足を補うためのビタミン剤も役立ちそうです。
━━災害時の薬は、大体何日分くらい備えておくといいのでしょうか。
災害発生時から段階に応じて必要な救護活用も変化していきます。たとえば、発災~6時間は「発災直後」、72時間~1週間は「急性期」、1~3ヶ月は「慢性期」など移り変わっていきますが、「自助」としてどこまで備えておきたいのかは人それぞれでしょう。ですので、それによって備える薬の量は変わります。
しかし、避難所に救護所が立ち上がり、徐々に医薬品が支援されてくるまでの間、とりあえずしのげれば安心かなと思いますので、それを1つの目安とするなら「1週間分くらい」でしょうか。被害状況がわかってきて、ライフラインも少し復旧し始め、人や物の支援が入ってくるのが72時間〜1週間ぐらいですので。
ただ、元日に起きた能登半島地震のように、「支援の手が行きわたるようになるまで、さらに時間がかかるケースもある」と皆さん感じていらっしゃると思います。そういう状況が心配な方は、少し大変にはなりますが、さらに多めの備えが必要になるでしょう。
「これだけの量があれば安心」と感じる感覚は人によって異なりますので、収納スペースやご家族の状況・お考えなどに合わせて備えていただくといいですね。
市販薬ではなく、病院で処方されている薬のストックが心配な方は、薬がなくなる1週間くらい前の日にちで病院を受診すると、常に手元に1週間分の薬のストックができていいのではと思います。
━━最後に、常備薬を見直すのにいいタイミング、薬の保管場所として適切な場所があれば教えてください。
薬を使ってなくなりそうになったら、その都度買い足すのはもちろんいいと思います。健康でほとんど薬箱を使う機会がない場合は、たとえば「9月1日の防災の日に薬箱を見直す」のように決めると、1年に1回はチェックできるのでおすすめですよ。
市販薬の期限は大体1〜2年くらいありますので、1年に1回チェックしておけば、薬が古くなる前に交換できるでしょう。
薬の保管場所については、気温が高くなるところでなければ、基本的にはどこでも大丈夫です。ただし、小さいお子さんがいらっしゃるなら、間違えて飲んでしまわないように、お子さんの手の届かないところに保管していただくと安心です。
■1年に1度は薬箱を見直す習慣を
しばらく薬を使わないと、どのような薬をどれだけ備えていたのか、忘れてしまうもの。いざという時に慌てないため、1年に1度は薬箱の中身を見直す習慣をつけたいですね。まずは、「いつ・誰が・何のために」という視点から、自分や家族に必要な薬を考えてみましょう。