宇都宮ライトレールが4月1日に実施するダイヤ改正について発表した。要点は「各停(各駅停車)の所要時間短縮」「通勤通学需要に対応した増便」「通勤通学時間帯の快速運転」の3つ。ただし、改善点は筆者の取材時に聞いていた目標値と比べて控えめだった。今回のダイヤ改正は「本気を出す前の様子見」かもしれない。
所要時間短縮が平日のみの理由は
「各停の所要時間短縮」について、宇都宮駅東口~芳賀・高根沢工業団地間の全区間で平日の各停の所要時間を約48分から約44分とする。休日はこれまで通り約48分とされたため、平日のほうが休日より早く着くことになる。この背景には、運賃の現金収受に対する懸念があった。
国内を走る路面電車・路線バスのうち、大都市以外の多くで「後ろ乗り・前降り」の方式を採用している。後ろの扉から乗るときに整理券を取り、あるいは交通系ICカードをタッチして、降車時に運転士がいる前側の扉付近で現金払い、あるいは交通系ICカードをタッチする。とくに現金払いの場合、運転士がサポートを行う。宇都宮ライトレールの車両「ライトライン」(HU300形)において、このしくみが問題になった。
「ライトライン」は3両連接車で全長約30m。「後ろ乗り・前降り」とした場合、後部車両の乗客は最前の扉まで移動しなければならない。電車が停車してから乗客に移動されると停車時間が長くなってしまうし、電車の走行中に乗客が車内を歩いて移動することも、安全面を考慮すればなるべく避けたい。
そこで、「ライトライン」は交通系ICカードの利用者と1日乗車券の利用者について、片側4カ所の扉すべてで乗降可能とし、すべての扉に乗車用・降車用のICカードリーダーを取り付けた。1編成あたり33台の保安用カメラを使うことにより、運転士は1日乗車券の利用者も確認できる。
「ライトライン」は交通系ICカードやIC定期券の利用を推奨している。開業に先立ち、宇都宮市で路線バスを運行する関東バスにも使える交通系ICカード「totra(トトラ)」を導入し、利用を呼びかけた。「Suica」地域連携カード方式で、全国相互利用サービスにも対応している。
問題は現金収受だ。宇都宮市が公共交通として整備したこともあり、現金利用者を排除できない。「後ろ乗り・前降り」方式も残す必要があった。対応策のひとつとして、「乗車整理券発行機」を停留場に設置し、「前乗り・前降り」を可能とした。
宇都宮ライトレールの開業時、現金収受による停車時間を見込み、ゆとりを持ってダイヤが設定されていた。しかし、平日は通勤通学など定期券利用者が大半を占め、一般利用者にも「totra」が普及している。現金利用者が少ない上に、信号待ちや時間調整の停車時に運転士が両替を促した。その結果、ゆとりを持って定時運行が可能になった。
一方、休日は所要時間を短縮しない。定期利用者が少なく、買い物や観光目的で初めて乗る人もいて、いままで通りゆとりを持たせていると考えられる。
増便する時間帯を予想する
「通勤通学需要に対応した増便」は、朝の下りと夕夜間の上りで実施される。宇都宮駅東口停留場を基準に、朝の下りは始発から8時30分発までの間に2本増発し、計20本に。帰宅時間帯は18・19・20時台に上りの増発と運行区間の延長を行う。
大都市の私鉄だと上りが通勤需要となっているが、「ライトライン」はもともと宇都宮市郊外にある工業団地への通勤手段として計画された。したがって、都心の外側に向かって混雑し、都心に向かって空いている。ただし、都心である宇都宮駅東口方面も、ニュータウンの「ゆいの杜」から通勤する利用者がいる。JR宇都宮駅の西側にある学校へ通う需要もある。
現在、朝の下りは6時台に11~12分間隔、7~8時台に8分間隔になっている。増発は6時台に運行間隔を8分にして実施するのではないか。プレスリリースでは「ピーク時間帯の増発」とあるが、始発からピーク時間帯と呼ぶには不自然な気がする。
宇都宮駅東口停留場の6時台は6本(6時0・13・24・36・45・56分発)となっていて、7時2分から8分間隔に。6時台の時刻を6時0・8・16・22・30・38・46・54分発とすれば8本となり、8分後の7時2分からも8分間隔を維持できる。
夕方の上りは、芳賀・高根沢工業団地停留場を18時56分と19時32分に発車する2本が平石停留場止まりとなっている。この2本を宇都宮駅東口停留場へ延長すると考えられる。20時台は区間運転がないので、全区間を通して運行する列車が2本増えることになりそうだ。現行の時刻表は19時台に8~10分間隔で運行し、20時台は20~22分間隔に広がっているから、運転間隔を狭めて対応するようだ。
快速運転は追越し無しか
新設の下り快速は最混雑時間帯に設定される。宇都宮ライトレールが公開した資料に記載はないが、NHKの報道によると1日2本とのこと。最混雑時間帯は6時台後半から7時台と示されていて、前項の増便のピーク時間帯は始発からだったから、やはり増便は6時台の運行間隔短縮で間違いなさそうだ。
快速は宇都宮駅東口停留場、宇都宮大学陽東キャンパス停留場、平石停留場、清陵高校前停留場、清原地区市民センター前停留場、グリーンスタジアム前停留場、ゆいの杜西停留場、ゆいの杜中央停留場、ゆいの杜東停留場、芳賀台停留場、芳賀町工業団地管理センター前停留場、かしの森公園前停留場、芳賀・高根沢工業団地停留場に停車。実質的な快速運転は宇都宮駅東口停留場から清陵高校前停留場までて、6つの停留場を通過する。清陵高校前停留場から先は各停留場に停車する。全区間の所要時間は約42分とのこと。
宇都宮大学陽東キャンパス停留場は、停留場名の由来となった大学に加え、大型ショッピングモール「ベルモール」などの商業施設がある。買い物の時間帯には早いので、「ベルモール」付近で働く人のための停車だろう。平石停留場は宇都宮ライトレールの本社に近く、電車の追越し設備もある停留場で、乗務員の交代も行われる。下車需要よりも運転上の都合といえそうだ。
清陵高校前停留場への停車は通学需要といえる。清原地区市民センター前以降の各停留場に停車する理由は、ここから先の工業団地が実質的な通勤目的地になるからだろう。通勤目的地ばかりで通過しにくい。
グリーンスタジアム前停留場にも電車の追越し設備があるものの、この区間は各停ばかりだから追越しに使われることはない。いまのところグリーンスタジアム前停留場の設備は折返しに使われている。夕方に平石停留場を出庫した下り電車が、グリーンスタジアム前停留場で折り返して上り電車になる。この電車は3本ある。
所要時間の約42分について、NHKは「現在より6分短縮」と報じた。それは間違っていないが、ダイヤ改正で平日の各停が約44分になるから、実質的には快速と各停の所要時間は2分差である。これは少し残念に思う。6駅も通過して2分しか短縮しない。運行間隔が8分で所要時間が2分差であれば、先行する各停に追いつかないわけで、途中駅の追越しも要らない。
新しいダイヤも短命に終わりそう
筆者は今年1月、宇都宮ライトレールを取材した。その際、「将来的にピーク時の運行間隔を6分にしたい」「快速の所要時間は約37~38分を目標にしている」と聞いた。快速を運行する理由について、「ピーク時は始発から満員になってしまって途中駅から乗れない」「通勤利用者は目的地が明確なので、需要が多いところまでは最短時間で走らせたい」とのことだった。そのことを念頭に置くと、今回のダイヤ改正で快速の所要時間42分は意外だった。
つまり、快速の役割は乗客を分離することだろう。工場への通勤客と、市街中心部内の利用者で電車を分けようという考え方であり、途中で追越しまでして速く走ろうということではないようだ。かつて相模鉄道で走っていた「急行は二俣川駅から横浜駅までノンストップ」という考え方に近い。そうなると、快速が2本だけでは少なすぎる。快速が先に着くと勘違いした乗客が集中し、ダイヤが乱れるかもしれない。各停と快速が交互に走るくらいにしないと乗客分離は難しいと思う。
宇都宮ライトレールが公開している現在の時刻表をもとに、新しいダイヤを予想してみよう。まずは現在のダイヤを列車ダイヤ描画ツール「OuDia」で表示してみた。
すべての電車が同じ速度で走るため、電車を示す斜めの線がすべて平行になっている。とくに日中は運行間隔も等しいため、美しい網目模様になっている。
続いて、現行ダイヤの各停に、所要時間44分の各停を赤線で上書きしてみよう。横線の駅の間隔は現行ダイヤの所要時間に比例しており、正確ではないが参考になる。宇都宮駅東口停留場を6時に発車する線(所要時間44分)に、所要時間42分の線を重ねた。
宇都宮駅東口停留場から平石小学校停留場まで、現在と同じ所要時間となっている。つまり、市街地区間の速度は変わらず、専用軌道区間が多いところで速度が速いように見える。終点付近の差が大きいが、芳賀町工業団地管理センター前停留場から芳賀・高根沢工業団地停留場まで上り勾配のため、もう少し遅い可能性がある。そうなると、「ゆいの杜」付近はもっと速いかもしれない。
快速を設定するとどうなるだろう。6時台後半から7時台にかけて、8分間隔、所要時間44分の各停で予想ダイヤを作り、所要時間42分の快速を設定してみた。
予想ダイヤの6時台に8分間隔の各停を設定し、各停を快速に置き換える。快速は各停を追い越す必要はなく、ほぼ「平行ダイヤ」で芳賀・高根沢工業団地停留場に到着する。この場合、快速が通過する停留場へ向かう人は、宇都宮駅東口停留場で最大16分間も待たされる。そして16分もの間、宇都宮駅東口停留場のホームに滞留し続ける。混雑に拍車がかかりそうだ。
予想ダイヤの7時台は各停の間に快速を増発してみた。各停が発車してから6分後に発車すれば、先行する各停に追いつくことなく芳賀・高根沢工業団地停留場に到着する。この場合、快速通過駅に向かう人のホーム滞留は減る。しかし先行する各停に乗らないで快速に乗る人が増えると、快速に乗客が集中し、途中停留場の停車時間が長くなりそうだ。
最後に、平石停留場で追い越すダイヤにしてみた。
先行する各停の2分後に快速が発車する。各停の平石停留場到着から1分後に快速が到着し、快速が先に発車。その1分後、各停が平石停留場を発車する。このダイヤだと、追い越される各停の所要時間が他の各停より2~3分延びる。工業団地地区へ向かう人は快速に集中すると予想される。その分、先行する各停は空くだろうから、快速が通過する停留場の利用者には歓迎されるかもしれない。
新ダイヤに対する筆者の感想は、各停のスピードアップは良いと思うが、快速の所要時間差が短く、優位性が感じられない。2本だけの快速で乗客分離が達成できるかどうかは微妙だと思う。2カ所ある追越し可能な停留場も使いこなせているとはいえず、「まだ本気を出していないダイヤ」と感じる。これも予想だが、開業時に余裕を持ったダイヤで様子見としたように、今回も快速の本格導入に向けた「様子見ダイヤ」ではないだろうか。
さて、実際の快速運転はどのパターンになるだろう。もうすぐ発表される新ダイヤで答え合わせができるはずだ。