日本の製造業に特有の課題を打破するために

--そもそも日本の製造業の現場において、DXが遅れている理由はなんでしょうか。

神谷氏:実は日本の製造業では、いまでも2D CADの利用が半分を占めています。これは日本だけの状況です。その背景には、紙文化が根強く、出図を重視し、そこに書き込むといった作業が定着していること、さらには職人技の世界が残っているという点があります。現場では、“いままでのやり方を変えたくない”という意識や、蓄積した紙のデータをデジタル化するのが難しいこと、現場の強い意思を、経営層が強いリーダーシップによってデジタル変革することが難しいという背景も見逃せません。

  • 神谷氏は日本の製造業で特にDXが進みにくい要因を分析した

    神谷氏は日本の製造業で特にDXが進みにくい要因を分析した

製造業に携わるのは大手企業だけでなく、66万社の中小企業があり、それらの中には経営者が現場の最前線で働いているという場合もあります。これだけの大きな市場において、意識を変革するのは容易ではありません。さらに大手製造業でも、デジタルネイティブ人材のアイデアを経営の中枢で検討する企業が少ないという実態もあります。ERPやCRMでは、DXによって事業成長につなげる提案ができていても、PLMは後回しになっている状況も見受けられます。

また、PLMを導入して効率化にはつながっていても、事業成長やユーザーエクスペリエンスにつながる提案ができていなかったという反省があります。PLMでデータを蓄積したものの、そのデータが活用できていないという企業も散見される現状を変革するには、私たちがDXにつながるメリットをきっちりと伝えていかなくてはなりません。これからのPTCは、プラットフォームによる提案やループによる提案によって、ROIをより明確化でき、事業成長の支援もできると思っています。

--一方で、生成AIはPTCのビジネスにどんな影響を与えますか。

神谷氏:生成AIを活用して、最適な設計を行うといった事例が出ています。PTCでは、これをジェネレーティブデザインと呼んでいます。たとえば、NASA(米国航空宇宙局)の契約事業者であるJacobsは、PTCと連携して、宇宙空間で利用する生命維持バックパックの設計に生成AIを活用し、性能と安全性を最適化すると同時に、設計時間を20%削減することもできました。また、スノーモービルを生産するPolarisは、構成部品の設計に生成AIを利用し、さまざまな製造方法に最適化した複数のバージョンの構成部品を設計しました。これらのすべてのバージョンが、オリジナルデザインよりも軽量化されています。今後はこれらのように、生成AIの活用は増えていくことになります。

  • 生成AIを活用したジェネレーティブデザインの一例

    生成AIを活用したジェネレーティブデザインの一例。従来より使用されているスノーモービルの部品(左)について、より効率的な新たなデザインを生成する。なお中央は鋳造加工により製造できるデザインで、右は切削などの加工により製造できるデザイン

DXリーダーとして「日本の製造業と共に成長していく」

--PTCでは、サステナブルにむけて、どんな対応を図っていますか。

神谷氏:PTCでは2030年までの目標として、スコープ1およびスコープ2の温室効果ガス排出量を、2022年比で50%削減し、スコープ3では25%削減を目指しています。また2050年までには、すべてのスコープにおいて、温室効果ガス排出量をネットゼロにする計画であり、スコープ1~3全体で90%以上の絶対削減を達成し、残りの10%は必要に応じてカーボンオフセットで対応することになります。

私たちのお客様の多くは製造業であり、サステナブルへの対応は重要な要素になっています。PTCが提供するALMやIoTをはじめとしたソリューションを活用して、設計段階から生産段階まで、環境を意識したモノづくりが可能になります。部品を共通化したり、部品点数を減らしたりといった点で貢献できるほか、生成AIを活用することで、環境にやさしい素材を提案するといったことも可能になっています。

--最後に、数年後のPTCジャパンは、どんな企業を目指しますか。

神谷氏:日本の製造業の成長とともに、PTCジャパンも成長していくことになりますから、製造業を盛り上げることに尽力します。PTCジャパンは、製造業におけるDXのリーダーを目指し、日本の製造業のDXを、プラットフォームを通じて支援する中心的な存在になりたいと考えています。製造業が元気にならないと日本が元気になりませんからね(笑)。

  • PTCが将来ありたい姿を語る神谷社長

    PTCが将来ありたい姿を語る神谷社長の表情は明るく、希望と自信をのぞかせた