2023年12月、東京・お台場のパレットタウン跡地に電気自動車(EV)のカートで走れるサーキット「シティサーキット東京ベイ」(CITY CIRCUIT TOKYO BAY)がオープンしました。なぜお台場にサーキット? 施設の企画運営を行うトムスの担当者を慶應義塾大学自動車部(現在は引退)の学生ライターが直撃しました!
都市型サーキット設置の目的は?
日本には70カ所ほどのカート場があります。意外に多いですよね? それなのに身近な存在になっていない理由は、騒音や排気ガスの関係で、ほとんどがクルマ以外では行きにくい場所にあるからかもしれません。また、利用者は常連の方が多く、正直に言って初心者や女性には敷居が高い場所になっています。
そんなイメージをがらりと変えてくれるのが「シティサーキット東京ベイ」です。
立地はゆりかもめ「青海駅」の真横でアクセスは抜群。仕事帰りにでも買い物のついででも、ぷらっと立ち寄ることができる場所にあります。走っているのはEVなので、エンジンのカートと違って音も大きくありませんし、ガソリンのにおいも気にせずに済みます。乗っていても静かなので、サーキット周囲からの声援(肉声)が聞こえるほどです。施設には女性用パウダールームやシャワールームも完備。レースを楽しんだ後に待ち合わせて食事を楽しむこともできそうです! このあたりはEVの特性をいかした都市型サーキットならではのメリットですよね。
シティサーキット東京ベイを運営するトムスとしては、同施設を通じて次の3つを実現したいそうです。
モータースポーツシティサーキット東京ベイはを誰もが楽しめる身近なコンテンツにしていく
モータースポーツを愛する、速さも人間性もありキャラクターも立っているスター選手を育てる
人口も減り、自動車業界も激変する時代の中で、モータースポーツが社会とつながる新しいビジネスモデルを構築する
モータースポーツの敷居を下げる?
運営会社トムスでモビリティ事業部の本部長を務める井上貴弥さんは、「モータースポーツの課題は「実際に体験するハードルが高いところ」にあると考えています。
サッカーやバスケットボールなどのスター選手がどのくらいスゴイのかは、見ていればなんとなくわかります。それに比べてスーパーフォーミュラやスーパーGTなどのモータースポーツに出場するドライバーのスゴさは、見ているだけではわかりにくい部分があります。確かにクルマは速いのですが、足さばきは観客から見えませんし、表情もヘルメットで隠れているからです。
また、クルマの免許を持っていない子供は、ドライバーの超絶テクニックを自分ごととして感じられません。ほかのスポーツに比べ、「小さな子供が憧れる」ことについても敷居が高いのがモータースポーツの世界です。
でも、カートに一度でも乗ったことがある人なら、クルマを決められたコースの中で速く走らせることがいかに難しいかもわかりますし、クラッシュの怖さもクラッシュを避けつつ走るテクニックの奥深さも(多少は)わかります。屋内カート走行であれば身長105cmから楽しめるシティサーキット東京ベイは、モータースポーツの敷居を下げることを大きな目標のひとつに掲げています。
都市型次世代サーキットの広がる遊び方
都市部のサーキットは使える土地の広さに限界があるので、どうしても狭いコースになってしまいがちです。シティサーキット東京ベイの屋外コースは1周400mしかありません。
ただ、EVは加速性能が高く、短いコースでもレースを楽しむことができるという特徴があります。
屋外カート走行(中学生以上、平日)は持ち時間7分ですが、上級者であれば10~12周はできます。たった7分と思うかもしれませんが、初めての人が全力で7分間を走り切ると、カートを降りる頃には息を切らし、汗をかくほどの満足感が得られます。レールがあってスピードも限られる遊園地のカートとは、まったく別モノだと考えてください。自分で自由に操縦できるカートには、一度体験するとやめられない爽快感があります!
これもEVカートならではの特徴として、同施設では車速などをリモートで制御できるシステムとなっているそうです。使っているカートは本来であれば時速100kmまで2秒台で加速できる高スペックなマシンなのですが、通常は安全なスピードに制御しています。コース上でスピンやクラッシュが起きた際など、モータースポーツであればセーフティーカーが入るようなシーンでは、全てのカートの車速を遠隔で下げるといったような制御も可能だそうです。これなら初心者だけ有利な設定にすることもできるはずなので、レースがより白熱しそうですね!
プロジェクションマッピングでコース上に走行ラインやブレーキ、アクセルのポイントを映し出し、ドライバーに走り方を学んでもらうようなシステムも完備しているとのこと。将来的には、コース上にある(バーチャルの)キノコを踏めば速くなるとか、(ヴァーチャルの)バナナを踏むと遅くなるなど、ゲームのような仕掛けを盛り込む構想もあるとか。
開業以降の利用状況は?
気になるのは、開業以降の利用状況です。
都市型サーキットならではの来場者の例として井上さんは、クルマ好きの中学生が友達同士で連れ立って、バスに乗って遊びに来たというケースを紹介してくれました。また、近所に住むママたちが電動アシスト自転車でやってきて、ジェットコースターのように歓声を上げながら楽しんでいくことも! モータースポーツの裾野が徐々に広がっているのを実感できますね。
サーキットを「ゆりかもめ」から偶然見かけたインバウンド客が訪れることもあるというシティサーキット東京ベイ。7分の走行で平日3,500円、土日祝4,000円という価格設定は、海外の人から見ると格安に感じるらしいんです。現状、来場者の半分くらいはインバウンド客という印象だそうです。
開業からここまでは、サーキット内のオペレーションやクオリティを高めることを重視し、宣伝にはそこまで力を入れてこなかったそうですが、当面の目標としては、現状の3倍くらいの集客を目指したいとのことでした。
目指せ100拠点! 海外展開も視野
トムスは東京・お台場を皮切りに、同規模かこれより小規模の都市型カート場を日本とアジアで整備していく方針です。数値目標は、2030年までにフランチャイズも含め100拠点程度。を拡大することを目指す野望も持っています。実際に日本の主要都市からも声がかかっている状況で、アジアや中東からも引き合いがきているそうです。
都市部や商業施設でもレースが開催できる都市型サーキットには、集客の面でも強みがあります。これまでモータースポーツに興味がなかった人にもリーチできれば、興行として成り立たせることも夢ではありません。人が集まればスポンサーが付いて収益が生まれます。そうすれば、レースに出場するドライバーの負担が減り、より多くのドライバー(候補)にチャンスが生まれます。モータースポーツの裾野を拡大すれば、ピラミッドの頂点の部分も分厚くなるというのがトムスの考えです。
都市型サーキットのEVカートでモータースポーツを始めて、その先のレベルに進みたいという人には、トムスとしてもサポートしていく用意があるそうです。自分たちでレースチームを持っている強みですね。
現状、プロドライバーの出身地は軒並み「サーキットの近く」というのが現状だそうです。子どもの頃の原体験がプロドライバー誕生の背景には、子供のころの原体験があるというのが井上さんの考えです。トムスのサーキットが日本(あるいはアジアの)各地に完成すれば、それぞれの地域からプロドライバーが生まれ、地元の応援を受けるという未来像も夢ではありません。地元出身のプロドライバーが活躍すれば、その地域でモータースポーツのファンが増えるという好循環にもつながります。
最新のテクノロジーを使えば、実際にサーキットでリアルに走っているEVカートと、オンラインでつながった遠隔地のドライバーがレースで競うというこも可能だそうです。スマホやPCなどでEVカートを操作すれば、実際のサーキットでリアルなレースが体験できるんです。身体が不自由だったり、病院で過ごしていたりする子供でも、リアルなカートに乗っている子供たちと一緒にレースを楽しめるようになれば、本当の意味で開かれた競技になり、誰でもみんなが平等に参加できる環境が整います。
シティサーキット東京ベイは首都圏に住んでいる人なら気軽に遊びに行けますし、東京旅行のルートにも組み込みやすい立地だと思います。例えば、お子さんの習い事の選択肢として「EVカート」というものが広がっていったら、より素敵ですよね。日本は自動車産業で有名な国ですが、モータースポーツに対する認知度は低い(低下している?)のではないかと感じています。将来的に、モータースポーツが日本の文化として育っていくには、まずは足を踏み入れやすい場所が不可欠。そういう意味でも、モータースポーツの新時代をEVカートと最先端テクノロジーの融合で切り開くトムスの挑戦を応援していきたいと思います。