ギンナンだけで収益をあげる

取材前、インターネットで同組合のギンナンについて下調べした筆者。その実を見た第一印象は「枝豆?」と思ってしまうくらいに鮮やかな緑色が印象的でした。私がこれまで食べてきた料理の記憶をたどると、ギンナンの色といえば黄色という固定観念が根強かったため、そのギャップも相まって、緑に輝く宝石のようにも見えました。

そんな輝きを見せる同組合のギンナンは、独自の基準で生産された「翡翠銀杏(ひすいぎんなん)」として商標登録されており、収穫された時期によって色合いが変わり、区別されています。早い物から順にグリーン、ライトグリーン、シャトルルーズイエローとなり、早いほど鮮やかな緑色をしています。

「こだわりすぎてしまっているぐらい、手間をかけるのがうちの翡翠銀杏」。櫻井さんは胸を張ってこう説明してくれました。

翡翠銀杏(同組合ホームページより)

同組合はギンナンの生産以外にも、冷凍ギンナンへの加工や販売のほか、イチョウの苗木の生産・販売と、苗木を購入した生産者からのギンナンの買い取りもしています。

同組合で扱われるギンナンは全てHACCP認証を受けた加工工場で蒸した後に、冷凍して出荷します。ほかの加工品の多くは、ゆでてから冷凍してパッケージしたり、水煮として販売したりすることがほとんどですが、同組合では、よりモチモチとした食感を楽しんでもらえるよう、「蒸し」にこだわっている点が特徴の一つといえます。

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年間を通して安定的に出荷できる冷凍ギンナンは、国内では高価格帯の飲食店やホテルへ出荷しています。また、ベトナムなどへの海外輸出も行っているそうです。

つくば銀杏生産組合の冷凍ギンナン(グリーンイエロー)

ギンナンビジネスの全貌

これまで、5ヘクタールにも及ぶ土地でギンナンとイチョウの苗木の生産を行ってきた同組合。現在は、苗木の販売とギンナンの買い取り、冷凍ギンナンの販売をメインに手掛けています。

生食用のギンナンは販売しておらず、全て工場で冷凍加工しているといいます。旬のある生鮮食品の販売では、集中的に収穫、販売作業に追われるほか、同一時期に市場への出荷量が多くなってしまい、買いたたかれる可能性もあります。それでは、生産者から高単価でギンナンを買い取ることができません。一方、冷凍品であれば年間を通して販売、出荷することができるため、販売を急いで買いたたかれることもないといいます。

ギンナンの加工は3工程に分かれており、手前から殻に割れ目を入れる、殻をむく、甘皮をむ

同組合のメイン事業のもう一つの柱が、イチョウの苗木の生産・販売です。

詳しくは後述しますが、イチョウは雄雌がそろわないと実をつけません。そこで、雄の木には雌の枝を、雌の木には雄の枝を接ぎ木することで、木1本で実を付けることのできる苗木を作り出すことが可能になります。

つくば銀杏生産組合では、1本で実付けまで完結できる苗木を生産し、販売しているのです。

イチョウの苗木

イチョウの接ぎ木

気になるのは、なぜ地域の生産者はギンナンを生産するのか、ということです。どんなメリットがあるのか、櫻井さんに聞きました。

生産者にとってのメリット

ギンナンの生産は基本的に、手間がかかるのは収穫時期だけで、普段はほとんど手間がかからないといいます。それ以外の作業としては、夏ごろの草刈りで収穫しやすい畑にすることや、実の収穫と果肉を取るための洗浄、乾燥くらいしかありません。イチョウは病気に強く、剪定(せんてい)なども必要ないといいます。

櫻井さんによると、同組合から苗木を購入する生産者はほかに本業があって、秋の時期の副業として取り組む人が多いといいます。病気にも強く、半永久的に実を付けるイチョウは投資物件として人気を誇るのです。

取材時の櫻井さん

「長らくギンナンの消費量は横ばいでした。しかし、高齢化が進み生産量は少しずつ減ってきています」と櫻井さん。実際に、同組合でも加工場を施工した当時は生産者が30人ほどいましたが、現在は20人ほどに減っています。しかし、減っているからこそ、より安定した単価の付くギンナンは副収入として魅力があると語ります。また、海外からの引き合いも増えており、今後の需要高にも期待が持てるとのこと。

知られざるギンナンの世界

櫻井さんに話を伺う中で、これまであまり知ることのなかったギンナンの世界が見えてきました。最後に、知られざるギンナンの豆知識を紹介し、本稿を締めくくりたいと思います。

ギンナンの産地とは

「日本一のギンナンの産地はどこ?」と聞かれて、皆さんは何県を思い浮かべますか。

正解は、大分県です。農林水産省「」によると、年間生産量は377トンにも及びます。2番手に愛知県の280トン。3番手に福岡県の61トンと続きます。

その中で唯一、ブランドとして確立されているのが愛知県祖父江町で作られる「屋敷ギンナン」です。実際に、櫻井さんも何度も現地を訪れ勉強をしたといいます。

ギンナンには性別がある

イチョウの木は雄と雌の性別に分かれ、ギンナンは雌の木に実るといいます。しかし、雌の木だけでは実を付けることはなく、雄の木が近くになければいけません。公園などでイチョウの木でも実を付けないものは、あえて雄だけを植えるなどして実が付かないようにしているのです。

また、ギンナンにも性別があり、乾燥させた殻付きの状態を見たときに角の数で見分けがつくといいます。二つなら雄、三つだと雌となるそうです。ただ、9割以上が雄になるので、角が三つあるギンナンを見つけることは簡単ではありません。

イチョウ畑

ギンナンの品種

イチョウは意外にも品種が複数あり、ギンナンの形やサイズ、殻の厚み、イチョウの葉の付け方、木の成長の仕方など違いがあるそうです。

つくば銀杏生産組合では、金兵衛(きんべい)、久寿(きゅうじゅ)、藤九郎(とうくろう)、喜平(きへい)の4品種の苗木を作り販売しています。

その中でも、翡翠銀杏は、久寿の実だけに絞って生産、加工しているそうです。櫻井さんいわく「一番モチモチ感が強くおいしい」と語ります。

品種一覧(同社ホームページより)

半農半Xが注目される現代に、新たに栽培の手間のかからないギンナンが選択肢の一つに選ばれる日が近づいているかもしれません。知られざるギンナンの世界に、終始興奮しきりの取材でした。

取材協力