今どきの若手は管理職になりたがらない――。そんな話を聞いたことがあるかもしれません。「最近の若いもんはガッツが足らん!」と青筋を立てているベテラン管理職もおられるでしょうが、ちょっと待ってください。「日本の管理職は他国と比べて死亡率が高い」なんて話を聞いたら……どう思います? 今回は、パーソルグループの記者向け勉強会「詳細データで解説! 『罰ゲーム化する管理職』」の中から、“ウェルビーイング”な上司ライフを阻害する、職場の実態と原因について紹介していきます。もしかしたらあなたの職場も、この罠にハマってるかもしれませんよ~?
今回登壇した、パーソル総合研究所 上席主任研究員 小林祐児さんによると、日本の管理職の業務負担増の要因は「部下マネジメントの困難化」「新しい組織課題への対応」「コスト削減圧力」の3つの側面に分けられるといいます。いきなり難しそう……。かみ砕きながら見ていきましょうね。
部下マネジメントの困難化
「部下マネジメントの困難化」は、部下のメンタルヘルス問題への対応増や、世代間ギャップ、離職の増加など、以前に比べて部下マネジメントが複雑化しているということ。言われてみれば、SNSなんかを見てると、「部下を飲みに誘っても来てくれない。何を考えているのか分からない」なんて上司のボヤキを見かけることがありますね。
管理職2,000人に対するアンケートによれば、約4割が「部下育成が不十分」であり、半数以上が「後任者がいない」と回答しているのだそうです。部下を育てられずに仕事を渡せない、仕事を渡せないから育てる時間が作れない……という悪いスパイラルに陥っている様子が目に浮かびます。
新しい組織課題
続いての「新しい組織課題」は、ハラスメントやコンプライアンス、ダイバーシティー(多様性)の尊重、さらに「働き方改革」など、近年生まれた概念への対応です。昭和の上司が聞いたら「なにそれ? おいしいの?」とキョトンとしちゃいそうですが、とはいえ後回しにできない重要な課題なんですよね。
特に日本の「働き方改革」は、メンバー層の労働時間制限に重きを置く傾向があることから、改革が職場で進めば進むほど、「管理職の業務量増加」が起こりがちなのだそうです。これ分かるなあ。上司なら、「私がやっておくから君は帰りなよ」って部下に言った経験、きっとあると思うんですよね。
これらの問題により過度な業務負担がかかっているところへ、「人を減らせ」「金を使うな」と3つ目の「コスト削減圧力」がかかるというわけです。うわー恐ろしいぞ!
世界と比べても……ってコト?
これまでは、過去の上司像と比べる「時間」軸で見てきましたが、「世界との比較」でも日本の管理職の苦難は続きます。もうやめてあげて…。
まずは、みんな気になる年収。経産省のデータによると、日本の「一般的な課長」の年収は1,000万円程度ですが、米国ではグラフによると1800万円ほどです。シンガポールは1500万円くらい、タイは800万円くらいのようですね。「えっ、タイには勝ってるの? やったー」と思いました? 実は部長クラスになると年収が逆転し、日本1800万円前後に比べ、タイは2,000万円ほどになります。くっそ~……。
また、日本の管理職はアメリカや中国と比べて、仕事が「突発的」で「不明瞭」になりやすい傾向があるといいます。部下がやらない“こぼれ仕事”を拾う役割や、部下のミスのフォローなどがメインの業務になりやすいのだそうです。こういう話を聞いていると、「上昇志向のある若者が減った、草食化した」と単純に言えないことがよく分かりますね。
死亡率も……
これらの影響により、日本の管理職は誰もやりたがらない「罰ゲーム」と化していると小林さんは指摘します。その顕著なデータが死亡率にも現れており、なんと日本の管理職(米専門職含む)の職業別死亡率が、「事務・サービス業」「肉体労働者」の死亡率を上回っているデータがあるのだそうです。怖すぎる。
ちなみに死因はがんと自死の上昇が目立っているとのこと。10万人あたりの死亡者数では韓国のほうが多いものの、イギリスやスイスと比べると、日本は管理職が“生きづらい国”であるということが、データからも確かにいえそうです。
いつか「じゃんけんで負けた人が管理職ね」なんて本当の“罰ゲーム”になる前に、管理職という業務の見直しが急務なんだなあと思わされました。
なお、小林さんの著作「罰ゲーム化する管理職 バグだらけの職場の修正法」(インターナショナル新書)が2月に発売されたとのことで、そちらでは管理職問題の“処方箋”を見られます。気になった人は、手にとってみるといいかもしれません。