藤井聡太叡王への挑戦権を争う第9期叡王戦(主催:株式会社不二家)は本戦トーナメントが大詰め。3月4日(月)には準決勝の永瀬拓矢九段―糸谷哲郎八段戦が東京・将棋会館で行われました。対局の結果、早繰り銀を駆使して一手損角換わりを破った永瀬九段が169手で勝利。難敵を破って挑戦者決定戦にコマを進めました。
挑戦まであと2勝
振り駒が行われた本局は後手となった糸谷八段が得意の一手損角換わりに誘導。早繰り銀で応戦した永瀬九段が飛車先の歩を交換したところ、飛頭の歩打ちから反撃に出たのが糸谷八段の用意と思われる工夫です。序盤早々にして右辺から局面が動き出しました。
2筋に馬を作った糸谷八段は同筋に飛車を転換して逆襲に乗り出します。自陣の居玉を生かした実戦的な反撃に思われましたが永瀬九段も落ち着いてこれに対応。手順に繰り出した右金の圧力で飛車と馬を押さえ込めたのが大きく、局面は徐々に先手ペースに転じます。
永瀬九段が抜け出し勝利
後手の攻めに見切りをつけた永瀬九段は一転して左辺に目先をシフト。打ち込んだ角を自陣に引き付けたのが永瀬流「負けない将棋」の体現です。終盤に入ると決め手を得られぬ永瀬九段にわずかに変調の空気も流れますが、直後に流れを断ち切る好手が残っていました。
4筋の銀で質駒の桂を食いちぎったのが場合の好手。部分的に駒損でも敵玉への寄せの足掛かりができたことで先手は手に困りません。終局時刻は16時42分、最後は自玉の詰みを認めた糸谷八段が投了。終盤の混戦を抜け出した永瀬九段が挑戦まであと1勝としました。
水留啓(将棋情報局)