2月29日、アース製薬と花王は虫ケア領域における協業を発表した。あわせて、花王が開発した「蚊の飛行行動を妨げる技術」を応用した駆除スプレー「ARS Mos Shooter」(アース モスシューター)をタイで2024年7月に発売する。

  • アース製薬と花王の協業によって誕生した「ARS Mos Shooter」

アース製薬と花王が協業、タイで「ARS Mos Shooter」を発売

蚊が媒介するウィルス性感染症のひとつであるデング熱の感染者は、2023年に世界で過去最多を記録した。近年、地球温暖化や都市化によってデングウイルスを媒介する蚊の生息エリアは拡大している。2014年には代々木公園での国内感染事例も発生しており、日本も楽観視はしていられない状況がある。

こういった状況を鑑み、アース製薬と花王は虫(蚊)ケア領域での協業を発表。2024年7月にタイで駆除スプレー「ARS Mos Shooter」(アース モスシューター)を発売することを発表した。内容量は370mL。「レモングラスの香り」と「フローラルの香り」の2タイプが販売される予定だ。

  • タイで2024年7月に発売される予定の「ARS Mos Shooter」

その特長は、化学合成殺虫成分不使用で蚊を駆除できること。細かいミストで蚊を瞬時に落下させることができ、飛んでいる蚊にも、潜んでいる蚊にも効果を発揮するという。

化学合成殺虫成分を使わずに蚊を落とす仕組み

花王は、2023年6月20日、界面活性剤によって蚊の行動を制御する新技術の発表を行った。花王 代表取締役 社長執行役員の長谷部佳宏氏は、「我々は10年ほど前からベクター感染に対する戦いを始めました。安心安全、そして蚊から命を守るために我々に何ができるのか。そのために必要なのは、蚊が本来持っている機能、本質を追究することに他ならないと考えたわけです」と、研究のきっかけについて語る。

  • 花王 代表取締役 社長執行役員 長谷部佳宏 氏

花王のパーソナルヘルスケア研究所は、表面張力の低い界面活性剤水溶液を蚊に付着させることで飛行行動を妨げ、さらにノックダウン状態にできることを発見。この知見を活かし、界面活性剤水溶液をミスト+バブル状にして蚊に噴霧するという、斬新な蚊の駆除方法を開発したのだ。

  • 蚊の飛行行動を確実に妨げるため、ミストに加えバブルも噴霧する

現在、蚊の駆除には多くの地域でピレスロイド類の殺虫剤が用いられている。だが東南アジアを中心として、近年はピレスロイド類に抵抗性を持った蚊の増加が確認されており、持続的に使用できる駆除方法が求められていた。花王は、化学合成殺虫成分なしで蚊をノックダウンさせる新技術を使った殺虫剤を、一刻も早く世に送り出したいと考えた。

  • 発表会では、無数の蚊を「ARS Mos Shooter」でノックダウンさせるデモも実施

タイでデング熱と戦うアース製薬

この花王の技術に興味を示したのが、アース製薬 代表取締役社長 CEOの川端克宜氏だ。2023年6月20日の発表を受けて花王の長谷部氏と懇談し、そこから一カ月で協業に向けたプロジェクトがスタートした。

アース製薬は、日本における2023年度の虫ケア市場でトップシェアを誇る。また、1980年にタイで「ARS CHEMICAL(THAILAND)」を設立しており、タイの虫ケア市場においてシェアNo.2、バンコクを中心とした首都圏に限るとシェアNo.1を実現している。

アース製薬の川端氏は、世界で猛威を振るうデング熱感染症を憂いつつ、「感染症はまだまだ世界において猛威を奮っており、我々がお手伝いできることがたくさんあるのではないかと、グローバルに向けての活動を加速させています。その中の大きな国のひとつがタイです」と語る。

  • アース製薬 代表取締役社長 CEO 川端克宜 氏

いまアース製薬はタイでCSR活動を進めており、デング熱の感染率が国内でもっとも高いメーホンソン県を撲滅強化エリアに設定し、タイ政府と共に活動を行っているという。

  • タイでは2023年1~9月にデング熱で84名もの人命が失われている

プロジェクト名は“アポロ”

花王もまた虫ケアのリーディングカンパニーであるアース製薬を高く評価している。「蚊による感染症課題の解決に貢献する」という両社に共通した思いがあったからこそ、虫(蚊)ケア領域での協業が実現したわけだ。

このプロジェクトが発足したのは2023年7月20日。ちょうど1969年にアポロ11号が月面に降り立った日と同じだ。地球をモチーフにしたコーポレートロゴを持つアース製薬と、月をモチーフにしたコーポレートロゴを持つ花王が繋がり、夢を乗せて人の命を守る出発点として、プロジェクト名は“アポロ”と名付けられたという。

最後に、花王の長谷部氏は「自分たちで何とかしようと思った時期もありました。しかし、できるだけ早く、多くの人たちの命を救いたいという思いから、もっとも虫の研究をされ、信頼されるブランドであるアース製薬さんと組まない手はありません。関わったチームメンバーは、最初から一丸となって、まっすぐに良い仕事をしてくれたと誇りに思っています。みなさま方も、この二社の戦いをぜひとも応援していただければと思います」と述べ、発表を締めくくった。