DXが求められているのは、社内とは限りません。複数の企業でシステムをシェアすることで、業務を効率化したり、顧客の利便性を高めたりすることも可能です。

北海道のライフライン事業者が、埋設物調査等の受付を一元化したのも協業によるDXのひとつ。

NTTグループ(以下、NTT東日本、NTTインフラネット)が呼びかけ、北海道ガス(以下、北ガス)、北海道電力ネットワーク(以下、ほくでんNW)がこれに応じて、ワンストップ申請が実現しました。タッグを組んだ4社の担当者に、実現までのいきさつをうかがいました。

  • 北海道のライフライン事業者たちが協業

社会課題の解決に向け、NTTの既存のシステムを提供

道路などの地下には、ガス管や上下水道管、電気や通信ケーブルなどが埋設されています。工事会社は掘削工事でこれらの設備を損傷しないよう、事前に埋設設備がないかどうか、位置確認の調査を申請していました。

これまでガスや水道、電気や通信の各事業者に個別に行っていた調査依頼をワンストップでできるようにしたのが共同Web受付です。

NTTインフラネットの丹羽さんはこう説明します。

「NTTグループでは地域課題の解決に向け、これまで培ってきた既存のシステムや技術を他社さんも利用できる取り組みを進めています。今回ご提供した『立会受付Webシステム』は道内ではかなり昔から使っていましたが、NTT東日本で仕様を統一。2021年5月から東京ガスさんで導入いただいたのを契機に、北ガスさん、ほくでんNWさんにもお声がけさせていただきました」(NTTインフラネット 丹羽さん)

  • NTTインフラネット東日本事業本部 北海道事業部 ソリューション事業担当部長 丹羽佳明さん

各社で協議のうえ、北ガスが2023年10月6日から、ほくでんNWが2024年1月10日から運用を始めました。いずれも公共的な役割を担う企業とはいえ、異業種の連携はスムーズに運んだのでしょうか。

「ガス管の損傷事故は、ガス管を調査した上で損傷してしまうケースと、ガス管を調査せずに損傷してしまう『未照会工事』のケースの2パターンがあります。後者のヒアリングでは『受付の窓口が遠く足を運びにくい』『忙しくて調べる時間がなかった』という声が多く、今回の共同Web受付は、未照会工事による事故防止に有効だと感じ、導入を決めました」(北海道ガス 岡嶋さん)

  • 北海道ガス 供給保安部 緊急保安グループ 照会工事チーム 岡嶋謙一さん

「ほくでんグループは2021年12月1日にNTT東日本さんと『地域の発展に向けた連携協定』を締結しており、『共同Web受付』もそのひとつとしてご提案いただきました。当社でも以前から、埋設物の調査依頼でお客様が来社して紙で申請する方法を、メールなどで簡便化できないかと検討していたこともあり、今回の共同Web受付は、窓口一本化による工事会社の利便性向上や確認業務の効率化につながるものと判断し、導入することになりました」(北海道電力ネットワーク 八幡さん)

工事業者は便利に、窓口業務は省力化に

共同Web受付で、工事会社はNTT、北ガス、ほくでんNWへ調査依頼を一括申請が可能に。これまでは会社ごとに異なる書類を用意しなければなりませんでしたが、Webで簡単に済むようになりました。24時間受付なので、窓口の開いている時間に出向く必要もないのです。

  • 実施イメージ 提供:NTT東日本

「昨年10月6日に運用を始め、まだ3ケ月ほどですが、工事会社さんからは『入力しやすくなった』と好評です。2022年10~12月の受付は窓口66%、ファックス34%の割合だったのに対し、運用開始後の昨年同時期は、窓口20%、ファックス6%、Web74%になりました。今後ファックスでの受付は廃止の方向で動いています」(北ガス 岡嶋さん)

開始直後からWeb での申請が7割を超えるというのは、それだけ高いニーズがあったということではないでしょうか。特に札幌エリアではその傾向が顕著だとも明かしてくれました。

「北海道は冬期間、掘削規制で工事自体が少なくなり、簡便な工事が中心になります。掘削にともなう調整が多々発生する大規模な工事については、Webでの受付後、図面等を返信させていただいたうえで、窓口で協議するかたちになるので、夏場は割合が変わる可能性もあります」(北ガス 岡嶋さん)

一方、ほくでんNWの場合は、申請の受付だけではなく、該当エリアの地下に埋設物があるかないかを自動的に判定する機能も加えられました。

「埋設管が走っているルートの情報はセキュリティ上、提供できないので、埋設物があるエリアを100m四方(メッシュ)単位に整備した『メッシュデータ』で提供し、自動判定できるようにしました。運用を始めてまだ一ケ月足らずですが、既に800件以上の申請があり、そのうち8割は埋設物がないという判定結果になっています。今はシステムの自動判定が正しいかどうかを一つひとつ確認していますが、今後は人の手を介さず、自動判定に任せる予定なので、窓口の業務が大きく省力化できそうです」(北海道電力ネットワーク 八幡さん)

  • 北海道電力ネットワーク 配電部 業務企画グループ 主任 八幡裕則さん

なるほど、システムをシェアするとなると、情報の共有が必要になり、セキュリティ面がネックになる場合があるんですね。

それでも、インフラ事業者の持つデータが一元化されれば、災害時などは特に住民にとってメリットが大きいのではないでしょうか。

「実はNTTグループでも、防災プラットフォームを検討しているところです。災害時、電気はどうだ、通信はどうだ、と各社に問い合わせしなくても、一ケ所で全てが確認でき、復旧の見込みまで分かるようなものがあれば役立つだろうと、防災関連の取り組みを進めています」(NTT東日本 山光さん)

地域のインフラ事業者が連携してくれたら、万が一の災害時、住民は心強い限りです。

NTT東日本のエリアで、通信・ガス・電気の3社がそろったのは北海道が初

共同Web受付で通信・ガス・電気の3社へ申請できるようになったのは、NTT東日本のエリアでは北海道が初めてだそうです。今後はさらに導入先を増やしていきたいと考えています。

「北海道には北ガスさんのほかにも、旭川や帯広、苫小牧などに都市ガスの供給会社さんがありますから、導入していただけるよう働きかけていきたいです。また、埋設物として最も多いのは水道管なので、管轄する各自治体さんにも加わっていただきたいですし、ゆくゆくは受付だけではなく、施工の協議や現地の立ち会いなどの業務も協働できたらいいですね」(NTT東日本 山光さん)

  • NTT東日本 北海道ブロック統括本部 テクニカルリレーション部門 エリアプロデュース担当 チーフ 山光唯斗さん

なるほど、DXによる協業で効率化できる場面は、まだまだありそうですね。

「社会インフラ設備は高度経済成長期に造られたものが多く、老朽化という課題は全社に共通しています。また、いまは人員減や技術者減も企業の共通の課題です。これからは各社でそれぞれ設備や人材を確保して管理するのではなく、デジタル化でデータを一元化し、それをシェアすることによって効率化を図り、社会課題の解決につなげていく必要があるでしょう。例えば電柱のケーブルなど架空設備の点検は、我々NTTもほくでんNWさんも同様の業務なので、点検ツールなどを共有すれば、分担もできるはず。実際の工事においてもお互いに負担を軽減することは十分可能だと思います」(NTTインフラネット 丹羽さん)

確かに、カーシェアや店舗を間借りするシェアレストランなど、シェア(共有)が当たり前になってきた現代、企業間の協業がもっと増えていく余地がありそうです。