大手自動車メーカーのホンダが「作業用ROVコンセプト」なるものを世界初公開すると聞いたので、実物を見に「第21回 SMART ENERGY WEEK【春】」(東京ビッグサイト、3月1日まで開催)に行ってきた。実際に見るとゲンゴロウなどの水生昆虫にソックリなのだが、いったい何に使うもの? そもそも、これをホンダが作る理由とは?
ホンダの虫型ロボットは何の役に立つ?
人型ロボット「アシモ」(ASIMO)の次は虫型に挑戦か――。そんな風に思ったのだが、この「作業用ROVコンセプト」の正体は、洋上風力発電のメンテナンスなどの水中作業を行う遠隔操作型の無人潜水機だった。「ROV」は「Remortely Operated Vehicle」の略だ。
この手の乗り物あるいはロボットを作るのはホンダとして初の試み。2020年代後半の事業化に向けて研究中の技術で、展示品はコンセプトモデルという位置づけだ。研究・開発にはクルマの技術者とアシモの技術者が携わっているとのこと。実物は「SMART ENERGY WEEK」の「WIND EXPO」で見ることができる。
水生昆虫の前足のように見えるパーツは作業用の「マニピュレーター」だ。遠隔地にいる操縦者がアームを動かそうとしたとき、本体の部分をアームと協調制御して最適な姿勢を保つ技術は、体を安定させたまま腕の曲げ伸ばしができる(できた)アシモからの応用だという。潮流のある海の中で姿勢を安定させる「流体抵抗低減ボディー形状」には、クルマ作りにおける空力の専門家が関与しているそうだ。
ホンダが海に着目した理由は?
なぜ水中作業用ROVの研究を始めたのか。ホンダの担当者によると、モノづくりやアシモで培った技術など、同社が持つさまざまな知見のシナジーで何か新規事業を立ち上げられないかと検討する中で、ROVのアイデアが浮上したのだという。
それでは、なぜ水中作業なのか。同氏によると「今後は洋上風力が伸びていくのでは?」との予測のもと、水の中ではどんな作業が行われているのかを深堀していく中で、マニピュレーター付きROVのような「水中ロボティクス」の分野でニーズが増えていくと考え、検討を始めたそうだ。それともうひとつ、クルマやバイクで「陸」、ホンダジェットやeVTOLなどで「空」の事業を手掛けるホンダとして、「海」でも何かできないかという観点もあったらしい。
現在は研究中のROVだが、将来的には販売、リース、レンタルなど、何らかの形で事業化したいというのがホンダの考え。ソフト面も含め、どんな形にすればユーザーにとって使いやすいのか、どのあたりにニーズがあるのかなどを探りたいとの考えもあり、今回の参考展示に至ったという。
興味があったので、ホンダの担当者に「この形は水生昆虫を真似て作ったのか、それとも実現したい機能を追求していった結果がこの形なのか」と聞いてみたところ、答えは「後者です」とのことだった。ゲンゴロウもタガメも、水の中で作業(?)がしやすい方向に進化してきた結果が今の形状ということだろうから、ホンダのROVが水生昆虫っぽいのも当然なのかもしれない。