水谷瞬の「痛がらない死球」が物語る、1軍を懸けた激しい生存競争【えのき…

明暗わけたが、ポテンシャル高い先発候補

 2/27、巨人との練習試合(沖縄セルラースタジアム那覇)を終え、ファイターズの2024年、沖縄全日程が無事終了した。とても順調な春季キャンプだったと思う。できれば対外試合全勝で北海道に引き上げたかったが、9戦目で沖縄初黒星を喫した。先発金村尚真が4回途中、5失点(80球、被安打8)でKOを食らったのだ。金村は「今日は何を投げても打たれる雰囲気があった」とコメントしているが、リズムが単調になり、球がまとまりすぎていた。コントロールの良いピッチャーなので、出来が悪いときも球が暴れるんじゃなく、逆に打ち頃にまとまってしまうようだ。

 

 一方、リリーフに立った北山亘基は最速157キロ、4回無安打のナイスピッチングだった。開幕までまだ1カ月あるが、この調子ならローテに食い込んで来るだろう。球威で押し込む投球ができていた。身体の疲れさえなければ北山は相手打線を寄せつけないピッチングをする。まして今シーズンは「山本由伸スタイル」のフォームでまっすぐの力を追い求めている。非常に楽しみな内容だった。

 

 が、北山はもちろん、(結果の出せなかった)金村もまだまだチャンスはあると思ってしまう。元々、先発候補として評価の高いピッチャーなのだ。

 

 その点、野手は大変だと思う。この日は万波中正、野村佑希ら主力級に混じって、水野達稀、水谷瞬の「2月中旬1軍合流組」もスタメン起用された。2軍(国頭)スタートでキャンプインし、好調を買われて1軍名護にコールアップされた2人だ。これは取りも直さず「1軍当落線上」という意味である。猛烈にアピールして、開幕1軍を勝ち取らねばならない。野手はどのポジションも熾烈な競争になっていて、スタメンで使ってもらえるのも今のうちだと思う。水野も水谷もバッティングが魅力の選手だから、とにかくガンガン打つしかない。

3月も続くシビアな闘い

 巨人戦で印象に残ったのは水谷の奮闘だった。巨人の投手が(ソフトバンクで同じ釜の飯を食った)高橋礼や泉圭輔だったこともあり、この日は思うところあったと思う。アピールしたのは5回無死一塁の場面、ライトフェンス直撃の二塁打(投手・ケラー)を放ったことだ。風にも助けられたが、目の覚めるような一撃だった。この日は佐々木俊輔のバッティング対応力、山瀬慎之助の座り投げ等、巨人の新戦力に目を奪われていた。が、水谷の魅力はひけを取らない。こんな面白い選手がソフトバンクで1軍未経験だったのか。現役ドラフトで獲得できてホントによかった。もう伸びしろしか感じないのだ。

 

 メジャーばりのノーステップ打法は昨シーズンから取り組んでいるものだ。ステップする打ち方と比べて身体のブレがなく、確実性が増す。ボールを長く見て、バットは内側から出るイメージ。なのでこの日の二塁打のようにライトに大きな当たりが飛ぶ。ドライブラインで動作解析を受け、ベストスイングのイメージを追いかけている。そう、フォームこそ違え、万波中正のアプローチと酷似しているのだ。万波以上に粗削りで、まだ試行錯誤の段階だが、きっかけをつかめば中心打者に化けるポテンシャルがある。

 

 いいなぁと思ったのは7回、泉との対決でフルカウントから腕に死球を食らい、痛そうなそぶりを見せず平然と一塁へ歩いたシーンだ。相手が旧知の泉だったこともあるだろう。が、それ以上に今は痛いのかゆいの言ってられない。今、試合に出してもらってるチャンスをフイにしたくない。水谷が全く痛がらないので日テレG+の実況席は「痛くないんでしょうか」「当たったのが筋肉のついてる場所なのでそう痛くないんじゃないですか」とやりとりしていたが、死球が痛くないわけがない。二の腕は(骨の出ているヒジ等と比べて)まだマシな方だが、それでもまともに当たればボールの縫い目の形にアザが残る。野球選手の死球の跡はくっきり「ホントにここにボールが当たりましたね」という感じだ。

 

 その「痛がらない死球」がいかにも当落線上の水谷を象徴していた。現役ドラフトは野球人生を大きく変えるチャンスなのだ。僕は豪快な二塁打以上に、そのけんめいな姿に好感を抱いた。

 

 キャンプが終わり、3月のオープン戦が始まる。それはファンにとっては球春近しを告げるものだが、生存競争を闘う選手らにとってはなかなかシビアなものだ。これから「1軍候補」のふるい分けが始まる。選手らにとっては稼げるか稼げないかの瀬戸際だ。

 

 ここから心配なのはケガだなぁ。チャンスをもらって結果が出せず脱落するならあきらめもつく。下で練習して再チャレンジするだけだ。ケガで脱落するのは残念だ。例えば去年の淺間大基のようなことだ。ああ、見ている側としては、淺間も水谷も五十幡もスティーブンソンも仕事させてやりたいんだよ。ファンはプロの闘いを固唾をのんで見守るしかない。さぁ、3月、チームはいったん北海道へ戻る。ここからシビアな闘いだ。