ホンダSUVの「CR-V e:FCEV」を日本に導入する。発売は2024年夏の予定だ。水素を充填して走る燃料電池車(FCEV)でもあり、外部充電が可能なバッテリーを搭載するプラグインハイブリッド車(PHEV)のような機能も持つ新型車だが、投入の狙いは? FCEVでも日常使いに不便なし? 事前取材でホンダに聞いた。

  • ホンダ「CR-V e:FCEV」

    ホンダ「CR-V」がプラグインFCEVバージョンで日本に!

e:FCEVとはどんなシステム?

CR-Vはホンダが北米、欧州、中国など海外で販売中のSUVだ。日本でも過去には販売していたが、現行型(6世代目)は売っていなかった。

夏に日本で発売となるのは「CR-V e:FCEV」というモデル。FCEVという車名の通り、このクルマは水素タンクを積む燃料電池車だ。充填した水素を酸素と化学反応させて電気を作り出し、モーターを回して電気自動車(EV)のように走行することができる。CR-V e:FCEVは水素満タンで600km以上を走行可能。水素充填は約3分で完了する。燃料電池システムは米国のGMと共同開発した。

  • ホンダ「CR-V e:FCEV」
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  • 「CR-V e:FCEV」のボディサイズは全長4,805mm、全幅1,865mm、全高1,690mm。ほかのパワートレインを積む現行型(6世代目)CR-Vは全長184.8インチ(約4,694mm)なので、110mmほど長くなっている。デザイン担当は「フロントが110mm伸びることをポジティブにとらえ、よりダイナミックで伸びやかな姿」に仕上げたと話す。写真は北米仕様(左ハンドル)

FCEVでありながら、外部から車載バッテリーを充電すれば、電気でモーターを回してEVのように走れるのがCR-V e:FCEVの特徴だ。プラグイン機能を持つFCEVはメルセデス・ベンツが販売していたことがあるらしいが、日本車では初めてだという。いわゆるプラグインハイブリッド車(PHEV)にとってのガソリンタンクを水素タンクに置き換え、エンジンを取っ払ったのがプラグイン機能付きFCEVだと考えればわかりやすい。

  • ホンダ「CR-V e:FCEV」
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  • 左が普通充電口(左フロントフェンダー部)、右が水素充填口(左リアフェンダー部)

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  • 水素タンクを搭載する関係で荷室の奥は床が高くなっているが、「フレキシブルボード」を使えばフラットな荷室を作ることが可能

FCEVより使いやすい?

一般社団法人次世代自動車振興センターによると、FCEVに水素を充填できる「水素ステーション」の数は、2023年12月7日現在で161カ所。東名阪に多く、九州圏でも整備が進んでおり、北海道を含め全国的に点在している状況だが、仙台以北の東北地方には今のところ見当たらない。ガソリンスタンドはもとより、EV用の充電施設に比べても水素のインフラは明らかに少ないのが現状だ。なので、純粋なFCEVを買って便利に運用できる人は、おのずと限られてくる。

そこへいくとCR-V e:FCEVは、家で普通充電できれば普段はEVとして運用できるから、購入のハードルは純粋なFCEVに比べてかなり低くなる。ホンダによれば、クルマでの移動の約8割は1回あたり10km未満しか走らない。CR-V e:FCEVはフル充電で60km以上を走行可能だというから、ほとんどの移動をEVとして電気だけで走れる計算だ。これなら、水素が減るのはたまに遠出するときだけなので、水素充填の頻度がFCEVに比べ大幅に減るはず。プラグイン機能が付いただけで、FCEVはずいぶん買いやすいクルマになるというわけだ。

FCEVは水素ステーションが近くにある地域の客以外には勧めにくいクルマだったが、プラグイン機能付きFCEVならターゲットエリアが広げられる。これでFCEVが売りやすくなるというのがホンダの見方。営業担当は「(過去に日本で販売していたFCEVの)クラリティフューエルセルより売りたい」と話していた。

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  • 日本で発売となる「CR-V e:FCEV」は、フロントのホンダマークに青のアクセントが入る。ボディカラーは「プラチナムホワイトパール」と「メテオロイドグレーメタリック」の2色展開

トヨタのミライと客層はかぶらない?

FCEVといえばトヨタ自動車に「ミライ」(MIRAI)というクルマがあるが、ホンダとしてはCR-Vで真っ向勝負を挑むというよりは、別の市場を開拓してFCEVの普及を進めたいという思惑があるらしい。ミライはセダンタイプで官公庁や法人などから引き合いがある。一方のCR-Vは流行のSUVタイプで個人の需要を掘り起こすのにピッタリだ。そもそも、セダン型以外では官公庁の入札に参加すらできない場合もあるらしい。

  • ホンダ「CR-V e:FCEV」
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  • インテリアカラーはブラック。ハニカム柄に穴の開いた金属で覆われたダッシュボードは「シビック」などと共通のデザインだ

とはいえ、もっともっと水素ステーションが増えないことには、水素で走るクルマの普及は進まないと思える。

例えば、クルマの販売店に水素ステーションを併設するのは難しいのかとホンダに聞いてみると、これはEVの急速充電器のように簡単にはいかないらしい。「自動車メーカーが燃料を補給する場所を自前で確保した例はこれまでにない」というのが開発陣のコメントだ。では、一部でもいいので、ガソリンスタンドに水素ステーションを併設してくれれば便利そうに思ったのだが、こういうビジネスモデルは米国では進んでいるものの、日本では今のところ話が進んでいないらしい。

現行型CR-Vが日本で買えるようになるということ自体は、今でもCR-Vに乗っている人や大きなホンダ製SUVに乗りたいと思っている人にとってはグッドニュースになりそう。ちなみに、海外では現行型CR-Vのガソリンエンジン搭載モデル(7人乗りもある)、ハイブリッド車(HV)、PHEVなどが売っているが、日本にプラグインFCEV以外のモデルを導入することは現時点で検討していないというのがホンダの回答だ。CR-V e:FCEVの実物は「H2 & FC EXPO[春]2024~第21回[国際]水素・燃料電池展[春]~」(2月28日~3月1日、東京ビッグサイト)で見ることができる。

2月中旬の事前取材では、CR-V e:FCEVの価格は教えてもらえなかった。参考までに、英国のホンダのサイトを見ると、CR-VのPHEVは5万3,995ユーロ(約880万円)~となっていた。

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